第三十五話 GCの異常
レイヤとアレンの試合が終わって俺の試合が始まる。クラスのみんなも控室ではなく、観客席から見ているようだ。
クレインとその騎士と対峙した。
「ジークフリート! まさかまた顔を合わすことになるとは思っていなかったよ!」
クレインは笑いながら俺に話しかけてくる。
「その節はどうも。騎士たちはどうしたんだ?」
クレインが配下の騎士にどう制裁を下したのか気になっていた。
「あぁ、あいつらなら騎士を除名したよ。今頃は賊にでもなってるんじゃないか?」
「除名しただけだと? あいつらはまた新たな被害者を生むかもしれないじゃないか!」
ある程度予想はついていたが、除名処分だけだと、再び被害者を出す可能性は高い。俺の中では、クレインが黒幕で裏から操っている疑惑が濃厚となっていた。
「ジークフリート……、笑わせないでくれ。貴様らのメイドは助かったんだからいいじゃないか」
クレインのペテンには腹が立ってきた。
「今度、あの騎士たちを見かけたら、俺が制裁を下してやる!」
「お好きにどうぞ、その前に今日の試合では容赦はしないよ」
クレインは笑みを浮かべながら言うが、その眼差しは笑っていなかった。
俺たちが口論をしている中、審判が試合開始の合図をしに来た。
「クレイン、お前の騎士の実力は分からないが、俺が勝つ!」
久しぶりに頭に血が上ってきた俺は、本気で剣を構える。
「この平民騎士を叩きのめしてやれ! 」
クレインの騎士も剣を構えた。相手の騎士の威圧感はかなりのものでクレインの持つ力が絶大なことを肌身で感じる。
これまで何度か見たことはあったが、実際に戦うとなると強敵なのは間違いなかった。
試合開始の合図とともに先に俺から動く。
一気に間合いを詰めて、最初の突きをおとりとして放った。
相手は予想通り、俺の突きに反応して剣で防ごうと構えを変える。
おとりの効果があったようで、剣を引き戻し、懐へ飛び込みざまに頭部へ一撃を入れに行く。
俺の攻撃タイミングは完璧だった。
「なにっ!?」
驚いたことに、相手の騎士は確かに初撃の突きへ反応したが、剣を片手で持ち、空いた腕で殴りかかった。
俺は身体を急転換させ、頭部への攻撃を取りやめ、攻撃を繰り出してきた素手を掴む。
抑えられると思ったが、相手の素手での攻撃がフェイクのようで、さらに剣での攻撃を繰り出してきた。
一連の受け方や攻撃を考えると、かなり戦い慣れていると感じた。他のアカデミー生とは比べものにならない修羅場は潜っているのだろう。
相手の騎士の攻撃に、何とか剣での防御を間に合わせる。
剣と剣がぶつかり、『キーン』という高音が鳴った。
GCの力もあるのだろう、そのまま俺は十メートルほど吹っ飛ばされる。
「さすが、かなりやるな」
想定以上の攻撃に俺は思わず言葉をこぼしてしまった。
すると次の瞬間、気が付かない間に相手の姿が目の前にあった。
俺は咄嗟に剣を構えて相手の振り下ろしてくる剣を防ぐ。馬鹿力だったので、防ぐだけでかなり体力を消耗した。なんとか力を抑えながら、防ぎきるが、強烈な蹴りが腹部を襲った。
「ぐっ、ぐふっ」
内臓が圧迫されるような一撃をもらい、さらに吹っ飛ばされる。
後ろへ吹っ飛ばされながら、これがクレインのGCを授かった騎士の動きだと納得した。GCの力だけじゃなく、相手は元からレイヤやアレンレベルの強い騎士だとも思う。
「早くジークフリートを倒してしまえ!」
クレインは俺がやられている様を見て喜んでいる。腹が立ってきたが、何も手が打てなさそうなので、相手の攻撃を回避しながら防戦一方の構図となる。
相手の騎士は俺を殺すかのように、高く飛び上がって、全体重を乗せた大振りの一撃を仕掛けてきた。この攻撃を避けるのは簡単だが、数少ないチャンスだと捉える。
俺は自分が出せる一番のスピードで、相手の間合いに飛び込む。何とか相手の振り下ろされる剣を潜り抜けて、腹部へ一撃を入れた。
この攻撃はカウンターが入る形となって、威力は相手の力も合わさったものになるだろう。
このまま相手は倒れてもおかしくないほど、攻撃の感触はかなり良かった。
振り向くと、相手の騎士は倒れこんでいた。ここぞとばかりに、追い打ちを入れる。
「これで終わったか?」
蹴りを食らった腹部の感覚がなくなってきていたので、このまま終わってほしかった。今の一撃に集中力をかなり使ったので、全身から汗が噴き出してくる。
「おい! 何をしている! 俺の命令は絶対だぞ!」
クレインが焦っていた。相手の騎士はうずくまっている。
「使えないやつだ」
クレインはそう言って、何かを始めるように目を瞑った。するとGCが付与されるときの光がクレインの周りから出てくる。
「俺の本気の力を加えてやる」
その光がクレインから騎士へといきついたとき、騎士の様子がおかしくなった。さっきまでとはまるで違い、獣のような顔つきになる。
会場は静寂に包まれた。
「ははは! 『平民』にしてはよくやったな! だけどこれで終わりだ!」
クレインが大声で叫ぶ。
クレインはこれまで会ったどんな賊たちよりも醜い顔をしていた。
会場は騒然としているが、クレインと騎士の様子は何かおかしかった。
「この野郎! そうはさせない!」
俺は最後の力をふりしぼって、相手の騎士にとどめを刺しにいく。
しかし、剣を振りかざしたときに、遅かったことに気づいた。
「ぎゃはぎゃはぎゃはぎゃはぎゃはぎゃは!」
クレインの騎士は獣のような敵は理性をなくしたような動きで、俺へと突進してきた。
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅっ!?」
相手の攻撃はまるっきり見えなかったが、俺はもろに攻撃を受ける。俺の身体は吹っ飛ばされ、何本か骨も折れているようだ。
「クレイン! もうやめて!」
ナターシャが涙目になりながら俺の方に駆け寄ってきた。
「ナターシャか! 俺は負けるのが一番嫌いなんだ! 邪魔をするな」
とっさにナターシャが入ってきたが、このままだとナターシャにも相手の攻撃が入ってしまう位置になっていた。
言葉を発せなかったが、俺は何とか立ち上がる。
「あなたが何をしたか分からないけど、私たちの負けでいいから終わりにして!」
ナターシャは相手の騎士の様子がおかしいと気づいて、棄権をしようとしていた。
「だからなんだ? ナターシャごと攻撃してもいいぞ! やれ!」
相手の騎士は俺とナターシャもろとも倒せるような大振りの攻撃を振りかざしてくる。
理性はないがクレインには忠実なようだ。
「ナターシャは俺が守る」
言葉にもならない弱々しい声を吐き出す。
すると、俺の身体から光が発した。
「ジーク!」
ナターシャの声を聞きながら、俺の意識は徐々に消えていく。
初めての感覚だったが、身体の底から力が湧いてくるようだった。
なぜか騎士対抗試合を見にきていたであろう、アバロンたちが俺の光を見て観客席から駆け寄ってきているのが最後に見えた。
その姿を見て自分の力が相手の騎士に近いものだと直感した。
ただ、ナターシャを守るため、自分を守るために相手を倒す必要があった。もうほとんど意識がたもてなくなっていた。
「ジーク……! ジーク……!」
ナターシャの声が聞こえる。俺は何も返答できず、ただ自分の心に忠実になる。
ナターシャを絶対助けるという命題だけが俺の頭に残る。俺の身体から出ている光はGC付与の儀式のときにみたような光だ。
自分の身体が異常を犯している中、俺の意識は飛んでしまった。
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