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第三十二話 始まる騎士対抗試合

 ナターシャの誕生日から数日経って、フリージア・アカデミーでの騎士対抗試合の日を迎えた。


 いつものようにナターシャとアカデミーへ馬車で向かうが、緊張することはなく、GCが使えない俺が試合をどうやって乗り切ろうかばかり頭に浮かんでくる。


 馬車から外の景色を見ていると、都市の人たちはかなり盛り上げっていた。会場になるフリージア・アカデミーまでの道では人が敷き詰めていて、食事や飲み物を売っているお店もたくさん出ている。窓を開けて会話を少し聞いてみると、今年は誰が優勝するのかを当てて賭けをする人もいるようだ。


「やっぱり、一年はミューゼル様のところのレイヤが優勝だろう!」


「いやいや、クレイン様のところの騎士も強いらしいぞ!」


「ナターシャ様の騎士はどうなのかしらね? 平民出身らしいけど……」


「ナターシャ様も出るのは楽しみだな!」


 都市の人々はだれが勝つのか予想していた。俺の話題も出てくることもあり、口々に飛び交っている名前は知っている名前ばかりで少し恥ずかしかった。


 クレインの話題も出ていたのでアマンの誘拐事件を思い出すが、能力はあるとみんな感じているようだ。


 そんな人混みを抜けて、アカデミーへ到着する。フリージア・アカデミーの門は俺を温かく迎えてくれているようだが、俺の足はくすんでしまう。


 正直、ナターシャの騎士という立場の俺は誰にも会いたいとは思わなかった。


「ジーク! 今日は楽しみだな!」

 誰にも会いたくないと思った矢先、アレンが声をかけてきた。


「おう、アレンか。調子はどうよ?」


「調子はどうよって、俺は元気だけど、ジークはどうなんだ?」


「俺は何とかだな……。まさかこんなに騎士対抗試合が盛り上がるとは思っていなかった」

 フリージア・アカデミーにはこの国でも選りすぐりの貴族や騎士が集まるので注目されるのは当然だとも感じるが、予想を超えていた。


「ジークと戦うことになったら全力で行くぜ!」


「俺も今日はどこまでいけるか分からないけど、戦うときはよろしくな」

 アレンは気合が入っているようだった。


 騎士対抗試合ではGCの使用が許可されている。俺の実力でどこまで戦えるかはわからなかったが、これまでの訓練での経験はかなり活きると思っていた。


 ナターシャは大勢の人に握手を求められているようだ。さすが、皇女ということもあり注目の的となっている。その顔を見ると、少し不安げな様子でもあった。


 そんなナターシャを安心させたい気持ちにもなる。


「あとは俺に任せとけ」

 俺はナターシャの手を一度強く握った。


「えぇ、ジークに期待しているわ」


 そのまま俺たちは控室へ向かう。


 控室はクラスごとに割り振られているようだ。騎士対抗試合のトーナメント表が発表さえていたので見に行く。


 貴族は百人いるので、優勝までは七回戦えばいい計算だ。トーナメント表は二回戦までしか記載がない。それ以降のトーナメントはシードが入るため、公平を期してクジで選ばれるようだ。


 試合が始まる前で、クラスのみんなの緊張している様子がうかがえる。


「ジークフリート! 調子はどうだい?」

 声の主はミューゼルのものだった。


「あぁ、おかげさまで絶好調さ」


「今日は僕とレイヤが絶対に勝つと思うけど、ジークフリートも頑張ってくれよ!」


 ミューゼルは大層な自信家だが能力もある。レイヤがその騎士となっては優勝候補筆頭であることは間違いない。


「戦うことになったらお手柔らかに!」


「善戦を尽くそう!」


 勉強会からミューゼルとは打ち解けられていたが、今日は目の奥が笑っていなかった。絶対に負けないと思っているのだろう。ふとレイヤの方を見ると苛立っているようだ。


 レイヤとは勉強会のときからあまり話をしていない。


 他のクラスメイトとも再会の話をしていると、そろそろ試合の時間になった。クラスみんなで会場へと向かう。一、二回戦は、騎士の紹介などもなくすぐに始まるとのことだ。


 会場の観客席は人で埋め尽くされていた。コロシアムのような形になっているが、アカデミーでこの場所に来たことはなかった。観客席には少なくとも五千人はいるだろう。今日は一年生の試合だけだが、別日にある二、三年生の試合になったらもっと人が多いのだろうかと考える。


 会場に向かう途中にクレインを見つけた。その表情は俺を見てニヤついているようだが、話しかけてくる気配はない。


 コロシアムの中で、十組ずつ一回戦が行われる。扱う武器は、鉄製だが、刃が落とされて身体を切れないものを支給される。騎士は自分の得意な武器をそれぞれ選ぶようだ。俺はいつも使っている剣と同じ程度の重さの武器を選ぶ。

 

 俺の出番は初めの組のようなので、さっそくコロシアムの中央に向かった。


 実際に中心から観客席を見ると観客の白熱した声援が届く。さすがに皇女ということもあり、ナターシャへ向けられた声援はかなり多かった。


「一回戦の相手がナターシャ様の騎士とは光栄だ!」


 持ち場につくと、相手の貴族がさっそく喋りかけてくる。


「お手柔らかにお願いしますね」

 ナターシャは丁寧に対応した。


 俺たちの騎士対抗試合がこうして幕を開けた。

【お読みいただきありがとうございます】


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