第三十話 座学の試験
アマンが誘拐された事件から、屋敷でも都市では気を付けるようにとお達しがあった。
最近は都市での誘拐はあまり聞かなかったからか、皇室騎士団の間でもピリピリし始めている。
俺がトイレに行っていなければアマンの件は防げたというのもあるが、その数分間で今回のような事件が起こるとは誰も想像できないことだ。
そんな陰鬱な空気が屋敷のなかには漂っていたが、座学の試験日を迎える。
試験当日の体調はよく、これまで勉強してきたことを出し切れそうだった。準備を済ませいつものように馬車でアカデミーまで向かう。
「調子はよさそうだけど、試験では他の貴族にバカにされないようにしっかりやるのよ」
ナターシャは勉強が得意で試験は問題なさそうだが、いらだっているようだった。
「分かってるよ。別に悪い点数をとっても騎士は問題ないと聞いているんだけどな……」
「問題ないじゃなくて、ジークの成績や行動は周りに見られるからやってほしいのよ」
「実技の授業で評価は上がってるんだけどな」
「実技で周囲に認められてきているのはわかるけど」
「実力はあるけど座学はできないなんて評価は嫌でしょ?」
「戦いだけできる騎士を選んだっていうのは良くないからな。ちょっとは頑張るよ」
ナターシャがなぜいらいらしているのかは分からなかったが、騎士になった以上やることはやるつもりだ。
アカデミーに到着すると、貴族の生徒達はピリピリとした空気だった。
貴族の生徒にとっては、実技での結果は生まれ持った才能によって測られるからか、能力がトップレベルではない生徒は座学だけはトップの方に行きたいと思うのだろう。
ナターシャにもプレッシャーはかかっているのだろうかと考える。
「ジーク! 今日の試験の準備はちゃんとしてきたか!」
貴族達とは違って、ノー天気なアレンが声をかけてきた。
「完璧といえないけど、ちゃんと勉強はしたつもりだ。アレンはどうなんだ?」
「俺か? 俺はほとんど勉強していないが、なんとか頑張ろうと思う」
アレンが言うと本当に勉強していないかもしれないが、眼の下にわずかなクマがあったので俺を油断させようとしているのが手に取るように分かった。
「アレン、嘘なのがバレバレだぞ! 最後まで勉強を頑張りましたって顔じゃんか!」
「えっ、そんな顔してるか? まぁ騎士なんだしほどほどに頑張ろうや!」
アレンはクマができていてもいつも通りの元気さだった。
クラスに入ると、最後まで勉強をしている人がほとんどだった。そんな勉強している中でもレイヤは余裕そうな顔をしていた。俺はトップ層までは入らないまでもせめて平均を取ろうと準備してきたつもりだ。
最後の確認をしていると、教師のエミリアが教室に入り、試験が始まることを告げた。
「みんな、おっはよ~?! 試験の準備はできてるかしら?」
エミリアは教室の空気に反して、いつも通りの天真爛漫っぷりだ。
「最初は歴史のテストからです!」
エミリアはテストで使う紙を配り始める。歴史だけはアレンやレイヤのような騎士の家出身者は得意にしている所なので、俺だけが低い点数を取るわけにはいかなかった。
エミリアの合図とともに試験が始まる。
問題を見ると勉強したところがドンピシャであたりついつい笑みをこぼしてしまった。
騎士制度の成り立ちについて論じよという問題だ。今の貴族はもともとGCの力を付与できる家系の者たちだ。当初、貴族は近しい人間にその付与をしていた。しかし、貴族によってGCの力を付与された人間が徒党を組み、貴族に対して反発したことから騎士制度は始まる。
大きな戦いとなったが、なんとか貴族側が勝利をし、GCの付与を受ける人間もしっかりとした教育がなされるべきという理念のもとに騎士制度が導入されたのだ。
この制度のおかげで、貴族への反発はほとんどなくなったようだ。歴史の勉強をすることによって分かるのが、今後、この帝国の内部から現制度を変えることは不可能に近いということだ。
フリージア・アカデミーもそうだが、貴族と騎士は一緒に教育を受けることや一緒の生活をすることによって、強固な信頼関係を築くこととなる。騎士側としても貴族に対して不信感を抱くことはほとんどないだろう。
歴史の試験はほとんどパーフェクトに近い出来栄えを実感した。
その後も、戦略や戦術の試験や数学の試験が続く。
数学についてはかなり問題も難しかったので、分かるところだけ手をつけて難しい問題はお手上げだった。
こうして座学の試験も終わると、前期の最終日に行われる騎士対抗試合について説明された。
騎士対抗試合の内容は学年ごとに騎士がトーナメント形式でGCを用いて戦うという単純なものだ。学年が異なるのはGCの扱い方を含めて差が出てくる理由だそうだ。
周囲の生徒を見ると、騎士対抗試合に燃えている様子で、みんなこの前期に培ってきた力を出し切ろうとしているようだ。
俺はナターシャの騎士になってしまったからには、ある程度の成績を収めないといけないと感じていた。
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