第二話 騎士候補生と皇室騎士
驚いたことに寮を出た瞬間、そこには大勢の人が集まっていた。その集団の勢いに俺は圧倒される。
「なんだ……これ……」
早朝だというのに、寮の正門から裏山への道のりには、溢れんばかりの人が詰めかけていて、通れる道を見つけることも難しそうだった。
「おっ、最後は平民出身の候補生が登場だぞ!」
「あんちゃん! 期待はしてないけど、頑張れ!」
「他の候補生の足を引っ張るなよ!」
街の人たちから歓声やヤジが次々に飛んできた。
この国で騎士は特別な存在であることをあらためて思い知る。
騎士試験は一年に一回ある。この国のみんなが楽しみにしているイベントで、騎士候補生の情報は予め周知されている。自分が騎士候補生の立場ということを思い知った。
「ありがと、頑張るよ!」
俺は周囲の人に手を振りながら歩く。
その人混みの中に、クスクスとわざとらしい笑い声も聞こえた。笑い声のする方では貴族と思われる風貌の男とその取り巻きがいて、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「あはっ。逃げずに出てきたことだけは褒めてやるよ、平民!」
「平民が合格するとは思わないが、せいぜいコテンパンにされて来い!」
平民出身で騎士になったものはこれまでほとんどいないと聞いているが、ひどい言われようだ。その脇を駆け足で通り抜ける。こんな貴族には死んでも任命は受けたくない。
人が溢れていた通りを抜け、裏山に到着する。
「ジーク、遅かったな。お前以外はみんなとっくに到着しているぞ」
レイヤが呆れた声で言った。
「レイヤ、そんな言い方するなって。ジークは緊張であんまり寝れなっかったんだとよ」
アレンが割って入る。
「アレン、お前が三年間甘やかすから、ジークは最後までギリギリの集合なんだ」
「わるいわるい、ギリギリでも間に合えば良いと思っていたよ」
レイヤは生真面目だから、俺は適当に返事をする。
「任命後はさらに厳しい環境に身を置くことになる。お子様気分は終わりにしろよ」
「はーい」
レイヤの言い方は気に食わなかったが、ここで揉めても意味がなかった。
レイヤ=クリードは騎士の名門、クリード家に生まれ、騎士になるように育てられてきたと聞く。クリード流派はこの国で最速の剣技を持ち、レイヤはその中でも天才と言われるほどの実力者だ。都の人たちからも剣聖と呼ばれている。
「はははっ! 朝かみんな熱くなってるね! 僕は遠足気分なのに!」
スバルがいつものマイペースな調子で話してくる。
「スバル、お前は緊張って言葉とは程遠いな」
レイヤはスバルに対しても呆れた顔をふりまいた。
「僕は自分の好きなように生きていて、面白そうだから騎士を選んでいるからね!」
彼はスバル=レン=グリーンベルト。ミドルネームがあるので、貴族の出身だ。俺とは正反対の生まれなのは間違いない。
貴族の家で何不自由なく過ごしてきたが、家の方針で何か職業につかなければならないらしい。面白くない仕事はしたくないから騎士を目指したと聞く。
俺とアレン、レイヤ、スバルはよく一緒にチームを組んで訓練に取り組んでいたので、なんだかんだ言って仲がよかった。
「静粛に!」
俺たちが談笑していると、舞台の上から機関長が緊張した面持ちで大きな声をあげた。
「今日は、あなたたち騎士候補生にとって、もっとも重要な日です」
機関長はあらたまって話を続ける。
「ルール説明へ入る前に、こちらのお方からご挨拶をいただきます」
機関長がそう言うと、彼の後ろから皇室騎士の紋章を付けた男が舞台へ上がってきた。
「騎士候補生の諸君、おはよう! 俺の名は、アバロン=ロマネティだ」
アバロンの見た目から年は四十代ほどだ。その身体はさすが皇室騎士団と言わんばかりに鍛え上げられていた。
「今日は最終エリアで待っている! みんなと戦えるのを楽しみにしているぞ!」
それだけ言うと、機関長へ目配せをして颯爽と舞台から去っていった。
「おいっ、アバロンって皇室騎士団の団長をやっているあのアバロンじゃないか?」
レイヤが少し興奮気味に話す。
「最終エリアにいるって言ってたよな? そこまで行くしかないってことだな!」
アレンも興奮が抑えられない様子だ。
俺たちがアバロンの話をしていると、機関長から再び静粛にとの声が上がる。静かになるとルールを説明を始めた。参加する騎士候補生たちが舞台の周りで聞く。
説明によると、対戦形式は四対四での実戦形式とのことだった。
・最終エリア含めて五箇所のエリアがあり、それぞれのエリアで戦う。
・一から三エリアでは一般の兵士が戦いを担当する。
・四エリア目から騎士が担当し、最終エリアではアバロンを含む騎士が待ち構えているようだ。
・使用可能な武器は殺傷能力のない木製の武器で、飛び道具は先端を丸めたものを使用する。
・騎士試験の結果によって、騎士になれるか決まるが、どのエリアで終わってしまっても騎士になれる可能性はあるとのことだった。
「それでは、ルールを説明したのでチームを発表します」
機関長は順番に名前を読み上げていく。
「第一チームの一人目は、レイヤ=クリード!」
名前が呼ばれたレイヤは機関長の元へ進む。その足取りはこの中にいる騎士の中で自分が最初に名前を呼ばれたことを誇っているようだった。
レイヤの名前が呼ばれた後、アレンとスバルも第一チームとの声がかかり、機関長の元へと歩いて行った。
「第一チームの最後は、ジークフリート=ヒエロニムス!」
このメンバーで俺が呼ばれないわけがないと思いながら、俺も機関長の元へ進む。
「君たちが第一チームだ!」
俺たちは敬礼をして機関長の話を伺う。
「レイヤ君とアレン君が一緒だ。最終エリアでアバロンさんと是非戦ってみてほしい」
機関長は期待を込めて送り出してくれた。
「ジーク、足を引っ張るなよ!」
早速レイヤが、小言を言う。
「レイヤとアレンが一緒にいるから、俺の出番はなさそうだよ」
チームが騎士養成機関の成績トップの二人と一緒で俺は楽ができると思った。
「僕は後衛だからサポートに回るね!」
スバルは剣や槍で戦うのではなく、弓を最も得意とするため後衛となる。
「ではでは、行きますか!」
アレンの言葉で山のふもとから登り始めた。俺たちの騎士試験がこうして始まった。
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