第二十八話 誕生日プレゼント
前期の終わりに実施される座学試験が間近に迫ってきていた。それに伴い屋敷では訓練の時間よりも勉強をする時間が増えている。
座学の試験が終わったら、一週間の時間を経て騎士対抗試合が行われることとなっていた。
そんな中で俺は、まず座学の試験で結果を出すことを求められている。
勉強会でアレンですら歴史に詳しいとなると、いよいよ俺だけが追いついていないような状況となっていた。アカデミーが休みの日も焦って勉強をする。
屋敷の方ではメイドたちが再びバタバタとしていた。その音で勉強に集中できなくなってきたので、俺は思わずアマンを探す。
数人のメイドの中にアマンを見つけたので手招きした。
「ジーク様、どうかされましたか?」
今は忙しいと言いたげな様子でアマンが来る。
「だいぶ騒がしいようだけど、何かあったのかな?」
「ジーク様は知らないですものね。実は今週末はナターシャ様のお誕生日なのです!」
「ナターシャの誕生日か! それで準備をしているんだな」
ナターシャの誕生日が近いのは初耳だった。プレゼントなど俺も準備する必要がある気がしてくる。
「そうなんです! だけど、みんなからのプレゼントをどうしようか悩んでおりまして」
「どんなプレゼントがいいのかは確かに難しい悩みだな」
「ナターシャ様へのプレゼントは多くの貴族からも贈られてくるのですよ」
「さすがに皇族だと、プレゼントの量も多そうだな」
「高価なものは無理でも、私たちからも何か特別なものを贈りたいと思ってます!」
「それなら一緒に都市に行って買うのはどうだろう? 俺もプレゼントしたいと思うし」
「それは良い提案ですね! さっそく、メイド長に相談してみます!」
「おう、俺もナターシャに許可をもらいに行くよ」
ナターシャはアマンと都市に行くことを簡単に許可してくれた。試験を控えていたが、俺とアマンは一緒にナターシャへのプレゼントを買いに行く。
都市までは馬車ではなく歩いていくことにしたので一時間程度かかる想定だった。
「ジーク様とこうして歩いているとなんだかデートみたいですね……、はっ!」
アマンは自分で言いながら恥ずかしがっていた。
「アマンとデートができるのなら俺は嬉しいぞ」
「もう、何言っているんですか! ナターシャ様のことはどう思ってるんですか?」
アマンの上目遣いの表情は俺より年上のはずだがかなり可愛く見えた。
「何をどう思ってるか知らないが、ナターシャはおれが仕えている人だからな」
「ナターシャ様と……、その……、お付き合いをしたい気持にはならないのですか?」
今日のアマンはなぜか突っ込んだ発言や質問が多かった。
「それはないだろ。皇族と付き合うなんて相当覚悟しないといけないからな」
「え! それこそ素敵な組み合わせじゃないですか!」
「それにナターシャはきつい性格だし、プライベートのことはほとんど知らないんだ」
「私からすると、ナターシャ様は結構ジーク様のことを好きなように見えますけどね」
「それはないだろ! 俺はただの騎士さ」
俺たちはその後もたわいもない話をして都市までの移動時間を過ごした。アマンがぐいぐいと話をしてきたのはかなり気になる。
騎士がメイドと付き合うのはよくある話だと思う。そういえば、貴族は基本的に貴族同士で付き合うことや、政略も含めて結婚する話は聞いたことがあった。その一方、騎士を輩出している名家出身のアレンやレイヤはどんな人と結婚するのかと、ふと思った。
♢
都市に到着すると、早速俺たちはお土産物屋さんや雑貨屋さんを見て回った。高価なプレゼントは他の貴族達からたくさんもらえるだろうから、俺たちは心に残るようなプレゼントをしたいと考えていた。
「ナターシャはどんなものが好きなんだ?」
俺はナターシャの趣味をあまり知らなかったのでアマンに聞いてみる。
「それがわかれば、こんなに悩むことや屋敷中がドタバタすることもないのです……」
「それもそうだな。心に残るプレゼントだとアマンだったらどんなものが欲しいんだ?」
「そうですね……。私は私のことを考えてくれたんだなと思えるものが欲しいですね」
アマンの話す女心はよく分からないが、考えることが大事なようだ。
「難しいことを言うな」
「私に似合うアクセサリーだと思って買ってくれたりしたら、すごい嬉しいですよ」
「なるほど、ナターシャに似合うアクセサリーか。つけるタイプじゃないと思うが」
「アクセサリーだけに絞るのではなくて、ナターシャ様を考えて選ぶんです!」
今日のアマンはいつもと雰囲気が違い積極的だった。
街にはお店が溢れていて、それぞれ見てもどうもしっくりこない。そんな中、ガラス面に素敵な装飾品を飾っているお店があった。気になってお店に入る。素敵なネックレスや指輪は高価なものばかりでとても今持っている予算では買えそうにない。
他の商品も見回るが、一つだけ予算内で買える綺麗なブレスレットがあった。
「このブレスレットはどうかな? ナターシャにも似合うと思うんだ」
「ジーク様! すごい素敵じゃないですか! こういうプレゼントがいいんですよ!」
「それなら、これをみんなからのプレゼントにしようか」
俺たちはブレスレットを買って、屋敷に帰ることにした。
その途中トイレに行きたくなり、アマンにブレスレットを預けて俺は用を足す。ブレスレットをつけたナターシャのことを考えると反応が少し楽しみになった。
用を終えてアマンの所へ戻ると、姿が見あたらなかった。一人でどこかへ行くのも考えられない。このあたりの治安はそこまで悪くないと思ったが、誘拐の選択肢も頭に浮かぶ。アマンは貴族ではないためGCの力を持っていない。貴族が誘拐された場合は、GCを悪用することが目的だから殺される可能性はほとんどない。平民であるアマンの場合は、より問題だ。女性の誘拐は基本的には賊によって辱められてしまう。
少し待っても戻らないので、誘拐されたと断定する。急ぐ必要があった。誘拐だとしたら基本的には裏道へ連れていくはずだと思い、路地をいくつか入っていく。
全力で走り五感を研ぎ澄ますとアマンの声がかすかに聞こえた。予想通り誘拐だった。
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