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第二十五話 勉強会

 フリージア・アカデミーでの生活も卒なくこなし、前期の試験へと近づいていた。この時期になると授業や屋敷での訓練にも慣れ始める。


 毎日の楽しみは食堂での食事だ。ナターシャと一緒に食べるが、食堂のメニューはバラエティーに富んでいて、飽きることがない。


 実技の授業では他の騎士たちは自分のGCの使い方にかなり慣れてきたようだ。俺も日頃の皇室騎士団との鍛錬のおかげで、対GC戦でも問題なくこなせそうだ。


「そろそろ試験も近づいてきたことだし、今週末のお休みに勉強会をしよう!」

 ミューゼルが率先して、ナターシャとルミーナに言う。


「場所はどこでやるのかしら? うちの屋敷だと難しいわ」

 皇族の屋敷には人をあまり入れられないのか、ナターシャが答える。


「それなら私の家にしましょう! ナターシャも来るわけだし、泊まりも良いわよ!」

 驚いたが、ルミーナから自宅へお誘いがあった。


「泊りも含めるとかなり楽しそうだね!」

 ミューゼルは乗り気だった。


「ルミーナの家なら騎士も何人かいるだろうし問題ないとは思うけど聞いてみるわ」

 ナターシャもルミーナの家での勉強会には賛成のようだ。


「それでは決まりだね。今週末はルミーナの家でみんなで勉強会だ!」

 こうしてルミーナの家での勉強会が決まった。



 ♢



 お泊りで勉強会があることが屋敷の中で広まったときは慌ただしかった。ナターシャが着る服の準備やルミーナの家への手土産などをメイドたちが準備している。


 アマンもその中にいたが、俺を見つけて目を輝かせて話しかけに来た。


「ジーク様! ナターシャ様がお泊りするのは何年もないのに、何があったんですか?」

 屋敷の人たちが慌てていた理由が少しわかった気がする。


「何かあったわけではないけど、その場の勢いで行くことになったんだ」


「成り行きでですか……、ナターシャ様の変化はジーク様のおかげかもしれないですね」


「それこそ俺は何もしていないぞ? 最近はルーティンをこなしているようなものだし」

 実際にナターシャと話をするのは登下校の馬車の中と食堂がほとんどだった。


「いいえ、ジーク様が何かしたはずです! まさかですが、ナターシャ様とその……」

 アマンは一人で顔を赤らめていた。変な想像でもしているのだろう。


「いやいや……。想像しているようなことは何もないぞ!」


「ナターシャ様は美しいですし、ジーク様もしゃべらなければかっこいいですし?」


「アマン……。喋らなければは余計だよ」


「いえいえ、かっこいいのは確かですよ!」


「ありがとう。アマンもすごい可愛いと思うぞ!」


「可愛いなんて……。恥ずかしいじゃないですか……」

 そう言っているアマンは頬を赤らめている。その様子は本当に可愛かった。


 もう少しアマンと話をしたいところだったが、他のメイドに呼ばれアマンは仕事に戻っていった。


 その後も勉強会の前日まで屋敷では慌ただしい日々が続いた。



 ♢



 あっという間に勉強会の当日になる。 一泊しかしないはずなのに、なぜかナターシャの荷物はいっぱいだった。俺たちは馬車に乗りルミーナの屋敷へと向かう。


「ナターシャ、その荷物の量は何が入ってるんだ?」


「わからないわ。メイドたちがたくさん詰め込んだのよ。ルミーナの屋敷についたらジークが運んでよね」


「はいはい、ちゃんと運びますよ」


 ルミーナの家への道中でナターシャの昔話を聞く。ルミーナとナターシャは昔何度か家を行き来したことがあるらしく、今回は久しぶりの訪問になるようだ。ルミーナの屋敷は馬車で一時間ほど進んだところにあるようで、道中は自然が豊かで外を眺めているだけで心地よかった。


 しばらくするとルミーナの屋敷へ到着する。生い茂った樹木や草花といった自然に囲まれている郊外の屋敷で何人かの騎士が見張りをしていた。屋敷自体もナターシャの屋敷と同じ程度の広さがあり、歴史を感じる建物であった。


 門の前にナターシャが向かうと、まるで屋敷の主であるかのように、メイドや騎士が出迎えてくれる。


「ルミーナの家もそうとう凄い家なんだな」

 俺はナターシャに小声で話す。


「公爵の家柄だしこのくらいは当然だと思うわ」


「なるほど、俺はナターシャの屋敷しか知らないから毎回驚きが隠せないよ」


 あらためて、ナターシャやルミーナの凄さを実感した。おそらくミューゼルの家も豪華なのだろうなと思う。


 馬車から出てきた騎士が俺一人だったからか、ルミーナの家に仕えている騎士達からは少し懐疑的な目で見られた。ルミーナはアレンと二人で登下校することはないと聞いていたので騎士達からしたら俺の実力がどんなものなのかは気になるだろう。


「ナターシャ! 待ってたわよ!」

 奥からルミーナが駆けよってくる。


「ルミーナ。今日はよろしくね。お土産があるのだけど、誰に渡せばいいかしら?」


「お土産もありがとう! そこにいるメイドに渡してちょうだい」


 俺はナターシャの大きな荷物を開けて、ナターシャが取り出す。


「うちの家でよく使っている紅茶なの」


「ナターシャがよく飲む紅茶ってことね!」

 ルミーナは紅茶というよりも、ナターシャがよく飲んでいる方に反応したようだ。


「こころが安らぐ効果があるから、勉強するときにでも飲みましょ」


「ナターシャたちが最後でみんなもう到着してるから、早く行きましょう!」

 俺たちはルミーナの後に続いて屋敷の中へ入る。


 屋敷の中は絵画がたくさん飾られており、古風な造りとなっていた。そのまま客間に案内されると、ミューゼル、レイヤ、アレン、それにスバルともう一人物静かな雰囲気の女性がいた。


「ナターシャ、ジークフリート、やっとの到着だね」

 ミューゼルが声をかけてくる。


「あなたたちは早いのね。それにフィルも一緒のようね」


「えぇ、ルミーナから是非とお誘いがあってね」


 スバルと同じような眼をした女の子だった。以前スバルが話していた双子のお姉ちゃんだと思う。ナターシャはフィルのことを知っているようだった。


「俺が提案したんだ!」

 アレンは休みの日でも変わらない元気さだった。


「彼女はフィル=レン=グリーンベルト。僕の双子の姉で一緒のアカデミーだよ」

 俺のために、スバルが紹介をしてくれた。


「フィル、よろしく頼む!」


「あなたがジークフリートね。噂はかねがね聞いているわ」


「違うクラスの貴族までが俺のことを知っているなんて光栄だね」


「ナターシャの騎士ですもの、当然よ。私こそよろしく」


 挨拶が終わったところで早速勉強をすることになった。


 勉強を始めるとさっそく躓いた。歴史がさっぱり頭に入ってこない。


「ジーク、そんな簡単なことも覚えられないわけ?」

 ナターシャはあきれ顔で言ってくる。


 貴族と騎士の関係に関する歴史は騎士養成学校では全く授業で触れられなかったので、ほとんど初耳のことばかりだった。


「俺だけじゃないだろ、アレンはこのあたり覚えられるのか?」


「このあたりは、勉強できない俺でもさすがに分かるところだ!」

 アレンは勝ち誇った顔で言ってくる。


「騎士として当然知っているべきことだ。ちゃんと覚えろよ」

 レイヤは冷ややかな目で見てくる。


 確かにアレンやレイヤは騎士の家出身だから幼少期からこのあたりのことは叩きこまれているのだろう。騎士になってから学び始めた俺とは環境が違っていた。


「あぁーー、頭がパンクしてきたから休憩でもしないか?」

 俺の脳は糖分を欲しがっていた。


「ジークはすぐに休憩したがる……。私も少し疲れてきたから、休憩にしたいわね」

 ナターシャも賛同したので、みんなで休憩を取ることとなった。


 休憩の間はどうしてそれぞれの騎士を選抜したのかが話題となった。ルミーナとミューゼルはそれぞれ自分の家で継承されているGCに最適なパートナーを選んだことが理由だった。それがアレンとレイヤだ。


 スバルはこの前も話を聞いた通り、姉弟だけどGCも補完でき、フィルがあまり他人となじめない性格だからだと言っていた。


「ナターシャはどうなのよ! 実技を見ると、ジークに実力があるのはわかるけど」

 ルミーナは興味津々に聞いていた。


「どうして最初から選んだのか分からないな。ジークの力もGCありきの気もするし」

 レイヤもナターシャから俺が選ばれた理由を聞きたいようでルミーナに続いた。


「私の場合は普通の騎士が嫌だったのよ。ジークは面白そうじゃない!」

 ナターシャは本当の理由をしゃべることはしない。


「なるほどね。確かにナターシャの家だと皇室騎士団の人たちもたくさんいるし」


 ルミーナは屋敷に騎士がいる境遇が同じだからか、理解を示していた。


「そうなのよね。同じような騎士だけ周りにいるのもつまらないし」


「それは分かるわ。だけど私はてっきり顔で選んだのかと思ったわよ」


 ルミーナは冗談のように言ってみんなで笑った。


  レイヤを見ると一人だけ少し悔しそうな顔をしていた。

【お読みいただきありがとうございます】


いつも読んで下さっている皆様、ブックマークへの追加や評価をいただいた方、ありがとうございます! より面白い話を書こうという励みとなっております!




新しくお読みいただいた皆様、ブックマークへの追加や、画面下の「☆☆☆☆☆」から評価をして読み進めていただけると幸いです!創作活動の励みとなります!


何卒、よろしくお願いいたします。

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