第二十二話 対GCへの訓練
部屋でのんびりしていると、アマンがいつものメイド服ではなく私服でやってきた。
「ジーク様、ちょっと聞きたいことがあるのですが……」
「アマン、今日の服はいつもと違って可愛い服だな!」
アマンは普段はメイド服を着ているため、私服を見るのは初めてだった。
「今日はこれからナターシャ様が一緒に食事をとるのでお洒落をしてます!」
「すごい似合ってるよ! それで、聞きたいことって何だろう?」
「あっ、聞きたいことは、今日ナターシャ様が喜んでいたので何かあったのかなと」
GC関連の悩み事に折り合いがついたことかと思ったが、アマンに言うのはやめておく。
「特にはなかったんだけどね。ナターシャが喜んでいたのは良いことじゃん」
「はい! 私はナターシャ様の笑顔を見るのが幸せなので」
「アマンはメイドの中でも若いし、ナターシャとはよく遊んだりするの?」
「そうですね。ナターシャ様に誘っていただければお供してます!」
「なるほどな。今日はアカデミーで重要なイベントがあったんだよ!」
「重要なイベントですか! それは私が聞いてもいいことで?」
「分からないけど、それが終わったからホッとしているんだと思うよ!」
何も知らないと言うのも嘘になるので、重要なイベントとぼかして伝えた。
「それなら納得です。アカデミーのことなので深くは聞きませんが良かったです!」
アマンもメイドが長いのか深く詮索はしないようだった。
「それじゃ、俺は訓練所に行くから、ナターシャと楽しんできてな!」
「急にお邪魔してすいませんでした。またお話しにフラッと来てもいいですか?」
アマンのような美少女が部屋にフラッとやってくるのは男としても大歓迎だ。
「もちろんいいよ! ではまたね!」
俺がそういうとアマンは部屋から出ていく。
屋敷にはメイドは数人いるが、アマンだけが若い女の子だった。年齢もそこまで変わらないと思うので話し相手として俺は最適なのだろう。
♢
俺もいつも通り訓練所に向かう。アバロンとナターシャのことについて少し話をしたいと思っていた。
訓練所に行くと、皇室騎士団のみんなはいつも通り訓練をしていた。おのおのが武器を持っていたので、今日は体術ではなく武器を使用しての訓練だと分かる。
アバロンのもとへ行き話を切り出そうとするが、逆に奥の部屋に案内された。空気は温和だったが、アバロンも話さないといけないことがあるようだった。
「今日はGCの付与があったと思うが、ナターシャ様とは大丈夫か?」
アバロンは事実を知っているのだろう。ナターシャのことを心配しているようだ。
「ナターシャから話は聞いた。問題ないと思うぞ」
俺はナターシャとの馬車での会話をアバロンに説明する。
「なるほど。ジーク……、ありがとうな」
アバロンは安堵の表情を浮かべる。
ナターシャがGCの力は持っているのに付与ができないことは、屋敷ではランバとアバロンしか知らないとのことだ。
俺もうかつに口を滑らせないように気を付けることにする。
「ジーク、これからアカデミーの授業ではGCがあることが前提となる」
「そうなんだよ。付与されてない俺でもなんとか乗り切っていかないといけない」
「そこでだ、今日の訓練からは、対GCの訓練に切り替えていくから、覚悟しとけよ!」
「逆に助かる。クラスの連中はGCの付与があるだけでパワーアップしていたからな」
「フリージア・アカデミーだと力のレベルがその辺の貴族とは全く違うからな」
「俺だけがだましだましでやっていくのも少し無理があると思っていた」
「お前はナターシャ様の騎士だからな。周りの者からは期待値が高くみられるだろう」
「俺は強いとは思うが、GC相手はあまり経験してきていない。訓練の方は頼むな」
話も終わり、俺たちは訓練所へ戻る。
さっそくアバロンから、俺が訓練所に来るときは対GC相手の訓練に切り替える旨が伝えられた。
「重要なのは、はじめに相手のGCを見極める事からだ」
「どう見極めていくんだ?」
「どんな力が付与されているのかと、それがどのくらいの強さなのかの二点が基本だ」
「その二つは確かに戦い始めた時に分からないとすぐに負ける恐れがあるな」
「応用としては、GCを使った戦術を取ってくる相手に対してのアプローチだ」
話を聞いていくと、このアプローチが特に難しいようだ。スピードのある相手やパワーが強い相手に対して、いかにその能力の効果が活かせない戦法をとるかが大事だった。今日のレイヤやアレンの力を思い返してもどうやって戦いに行くのかは正直迷う。
「ジーク! 俺と模擬戦をしようか!」
ヤリスはすぐに戦いをしたがる。俺としては皇室騎士団はかなり良い訓練相手だ。
「おう。よろしく頼むな」
ヤリスのGCは鋼のように身体を変化させる力だ。
お互いに木製の武器を手に取って構える。アバロンの合図で模擬戦が始まった。
ヤリスはさっそく接近戦に持ち込みたいようで、俺に隙を見せないように、間合いを詰めてきた。俺は同じ速度で一定の距離を保ちながら、ヤリスの出方に集中する。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ヤリスは俺に突進してくる。一撃でももらってしまうと、倒されてしまう攻撃だ。
以前攻撃を受けたときは不意打ちで入れられたが、今回は冷静に対処する。ヤリスの突進に合わせて、攻撃が入りそうな寸分の所でかわす。
それだけで終わらずに、攻撃をかわしながらヤリスの下半身に一太刀を入れた。攻撃は当たったが、逆に手がしびれたのは俺の方だった。
「ジーク! 痛くもかゆくもないぞ!」
ヤリスは再び攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃は遅く回避する。同時に、アバロンの言葉を思い出す。GC相手へのアプローチを戦いの中から見出さなければ勝てない。
ヤリスは突進での攻撃を諦め、剣で連続的な攻撃を出してくる。俺は右へ左へと身体を揺らしながら、五月雨のような突きを避け続ける。
「ヤリス、お前の攻撃だと俺に当たらないぞ!」
「ほざくな!」
ヤリスの攻撃は突きはじめは繊細だったが、疲れてきたのか次第にキレが悪くなる。そこに隙が生まれていた。
俺の考えた中で最良のアプローチは本来の人間の弱点もGCによって消えるのかというものだ。ヤリスの体は鋼のような強さを持っているが、膝裏や首筋などといった本来の弱点を突くと相応の痛みはあると思った。
「これで終わりだ! でりゃあ!」
ヤリスは俺の頭部を目がけて上段に攻撃を打ちこんでくる。
俺は待ってましたと言わんばかりに、脇が空いたところへすかさず剣での突きを入れる。ヤリスの顔色が変わったのがわかった。そのまま膝裏へ連撃を入れた。
俺の攻撃を嫌がったようで、ヤリスは俺から距離を取る。
GCの力が少し分かってきた気がする。いくら鋼のような身体だとしても身体の弱点までは強化されないようだ。
「ジーク……。さすがの攻撃だな」
膝裏への攻撃はかなり効果があるようでヤリスは立っているのも難しそうだった。
その後の攻防も地味で俺がヤリスの攻撃を避けながら、急所へ地道に攻撃を加えていくものとなった。
「そこまで!」
アバロンは制限時間が来たように俺たちを制する。
「ジーク。今のはかなり良いアプローチだった。よく相手の弱点に気づいたな」
褒められて悪い気はしない。
「むしろ逆で、弱点がなかったらヤリスって最強なんじゃないかと思って」
「辛抱してコツコツ攻撃を繰り返すのは良い戦法だ、今の動きが対GC戦で大切になる」
普段の戦いでも相手の強みや弱みを見ながら戦っていたが、対GC戦ではさらに能力のことまで考える必要があるようだ。もっと慣れる必要がある。
「それと比べてヤリス、ジークに押されるようじゃ、皇室騎士としてはダメだ!」
「いやぁアバロンさん、あと少しでジークにも勝てるとこでしたよ!」
ヘロヘロになってもヤリスは強がっているようだ。
「もっとスピードをつけてお前の強みを活かさないと、いい騎士になれないぞ!」
ヤリスは自分の強みで勝負をしていたが、俺にかわされてしまえば意味がない。
次の日からの対GC訓練は皇室騎士団の人たちが持ち回りで俺と試合をすることとなった。素直に強くなれる環境に感謝する。
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