第二十話 選ばれた理由
次の日もナターシャの機嫌はよくないようだった。昨日と同じように馬車にのってアカデミーへ出発する。ナターシャとは馬車の中でも当たり障りのない話をした。
アカデミーへ到着すると、早速GCの授業が始まる。
クラス全員が広場に集められ、騎士たちはGCを付与される期待でウキウキしている中、ナターシャは神妙な面持ちだ。
「これからGCの付与をそれぞれ行ってもらいます!」
初老の教師がみんなに聞こえる声で話を始める。
「貴族の皆さんはGCが付与されないように抑えていたリングを外してください」
初めて聞いたが、貴族側は全員同じようなリングをはめていた。これによってGCが勝手に付与されないように力を抑えていたというわけだ。
リングを外したことで、貴族の人たちから目に見えないが大きな力が感じられた。
「貴族の皆さんは仕える騎士の心臓部へ手を当ててください」
みんなが言われたように手を当てる。ナターシャの表情は余計こわばっていた。
「自分自身の精一杯の力を込めて下さい」
すると、あちこちで光が発生し始めた。各所から出ている光は眩しく、俺は目をつむってしまう。徐々に光は強まっていき、しばらくすると消え去った。
「以上で付与は終わりとなります! 騎士の皆さんは自分の力を試してみたいことでしょうが、それは午後に行います」
拍子抜けしたが、GCの付与の儀式はあっという間に終わった。ナターシャの付与によって自分にどんな力が宿ったのか早く試したくなった。
「GCについて皆さんはご存じだと思いますが、ここで簡単に振り返ります」
教師がGCについて説明した。
・GCは人によっては何人かに付与できるが、アカデミーのうちは自分の騎士だけにしてほしい。
・力を抑えるリングをつけると、騎士は力が付与されていない状態になる。
・GCの付与を一回行った騎士には貴族側が死ぬまで付与の関係が続くこととなる。
・どれくらいの力を付与できるかは貴族の力量による。
・どんな力が付与されるかは基本的には血筋によることが大きい。
・パートナーとの信頼関係でGCの力が増すこともある。
といったことが主なことだった。
「GCの付与は今のように簡単にできますので、皆さん気を付けて下さい」
初老の教師の説明が終わり、午前の授業は終わった。
お昼休みを取った後、騎士にどんな力が付与されたのか確認するそうだ。
ナターシャと俺は昨日と同じように食堂へ行く。他の貴族も誘ったりすればいいのにと思うが、ナターシャはあまり他人との付き合いをしたくないらしい。
「ナターシャ、一つ聞いてもいいか?」
「いいわよ。 何かしら?」
ナターシャは浮かない顔をしていたが聞いてみる。
「GCの付与は血筋によって、どんな力が付与されるのか決まるみたいだが、皇族はどんな力を付与できるんだ?」
「なるほど……。後で試してみればいいじゃない」
「試すも何も、俺としては力が付与されて変わったようなイメージがないんだ」
「皇族の多くは全部よ」
「全部とは?」
「例えばリアーナの家は人の域を超えたパワーを持つような一族だし、剣聖君の仕えるフリードリヒ家は代々最速を謳ってきているわ。皇族はまんべんなく全部って意味」
「なるほど。オールマイティーに上がるってイメージすればいいのか」
その話を聞いて俺はワクワクしていた。レイヤの攻撃はさらに早くなるんだろうし、アレンのパワーはこれまで以上になることはそれぞれの長所を伸ばす上でも良いと思った。
他にもどんなGCがあるのか話を聞きながら食事を済ませた。
広場へ戻る途中、明らかに怪しい貴族とすれ違う。他の貴族たちと違い格好はきっちりとした服ではなく派手であり、騎士を二人連れていたのだ。
ナターシャはそいつのことをスルーしたが、相手は話しかけこそしないが意識しているようだった。
通り過ぎた後に気になったので聞いてみる。
「今すれ違ったやつ、ナターシャのことを意識しているみたいだったけど何者だ?」
「あいつはクレイン=ボーン=キュンメルよ。実力はあるけどいい噂は聞かないわね」
「騎士を二人連れていたぞ?」
「あいつは公爵であるキュンメル家はじまって以来の力を持ってるのよ」
「二人連れてくるのは許されてるのか?」
「許可されたみたいだわ。もういいかしら? あいつのことを考えるのは嫌なの」
「悪かったな。少し気になっただけだ」
クレインの忌々しい顔は一生忘れないだろうなと思いながら広場へ向かった。
広場に着くと既に多くの人が集まっていた。
「ジーク、楽しみだな! どんな力が備わっているか気になるよ!」
アレンよっぽど楽しみなのか、はしゃいでいた。
「それでは集まったようなので、騎士の皆さんは前に出てきてください」
他の騎士と同様、俺も前に出ていく。
「自分の心臓に力がたまったのは先ほどの付与の儀式で感じたと思いますが、自分の脳内でその力を放出するイメージを持つと力が出せます」
皆目をとじて、心臓部を抑えながら力を感じているようだった。俺はさっきの儀式で心臓に何も感じなかったのでかなり焦る。
「それでは、一人ずつ力の開放を試してみていきましょう!」
騎士たちすぐに教師の前に出て行った。俺はまだイメージが掴めていなかったので、後ろの方で待つことにする。
「やりたい人から列に並んで下さい」
最初に列に並んだのはレイヤだった。レイヤは剣を使って試してみたいのか戦闘時の構えをする。
教師の合図でレイヤは剣を振るう。その構えからは放たれた一撃はこれまでのレイヤと全く異なっていた。
驚いたことに、俺がレイヤの動きをとらえることができなかったのだ。
レイヤ自身も身体能力の変化に驚いているようだ。
「すいません、切ってもいいものを持ってきてくれませんか?」
レイヤは自分のスピードが人間の域を超えたことを認知したいらしい。
教師の指示で、藁が置かれる。レイヤは同じ構えを取った。
「いきます!」
俺の目が追いつく前に、レイヤが切り終わった後、藁が真っ二つに割れた。
「おぉぉぉぉぉぉ!」
騎士たちの唸る声が聞こえる。
「マジでレイヤがいつ切ったのか分からなかったぜ!」
アレンも今回のスピードにはビビったようだ。皇室騎士団の連中のスピードでも全く追いつけないだろう。
これがGCの付与を受けたレイヤの力だった。俺が本気をだした時なら付与される前のレイヤよりも早いので自分の成長が少し楽しみになってきた。
その次はアレンが力を披露した。ルミーナの血筋はパワーに優れているらしく、アレンの槍から放たれた一撃は、半径五メートルの地面を吹っ飛ばす勢いのものであった。
他の騎士も次々に自分の力を試すように、かかしや地面を攻撃する。皇室騎士団のヤリスのように防御に特化したものは他の騎士に攻撃させるという具合に様々な確認をしていた。
「ジークが最後か! ナターシャ様から受けて付与でどうなったのか試してみろよ!」
アレンは自分のパワーがとんでもないことになっているからか、テンションが上がりながら言ってくる。
心臓部に力を集中しながら、養成機関の時と同様、力を抜きながら敵を切る動作に入った。自分の中では何か変わったようなイメージがなかった。
「おい、ジーク! 本当に力を使っているのか? 何も変わっていないじゃないか」
レイヤが怒りながら言ってきた。
何かがおかしかった。他の騎士全員の動きがGCの力によって向上されているのは目に見えてわかる。俺だけが変わっていないようだった。
なんでだと自問自答して立ちすくみながらナターシャの方を見ると、辛そうな眼差しで俺を見ていた。
その瞬間、俺がナターシャに選ばれた理由を察した。俺じゃなければいけなかったんだと思えた。GCは付与されていないのだろう。
付与はされていないが、そのことでナターシャへの怒りや、俺の力を試したアバロンへの怒りは全くなかった。ただ早く言ってほしかっただけだ。
ナターシャは皇族だ。皇族が力を付与できないことが知れ渡るのは現帝国にとっては大きな問題となる。
ナターシャがいつから不機嫌になったのかを思い返すが、GCの付与が行われると知ったときからだった。
どうして気づけなかったのかは今考えるべきではない。ナターシャの方をもう一度見たが涙を浮かべていた。
彼女の騎士になる資格があるものは最初からほとんどいなかったのだろう。三年間はナターシャの騎士をする契約をしてしまった今としてはしょうがない。
俺は本気の構えをし、これまで対アバロン戦でしか見せたことのない攻撃をする。
「ハーーッ!」
俺の本気の一撃はGCが付される前のレイヤよりも早く、GCが付与される前のアレンよりも強い一撃を繰り出した。
「これがナターシャ様の力か!」
レイヤがつぶやく。
「ジーク! お前の授かったGCの力をとんでもないな!」
アレンは俺の肩に手をついてきて、俺の圧倒的な成長を喜んだ。
初めて騎士達の前で俺の本気を出した。ナターシャの方を見ると、安堵した表情をしていた。この場はなんとかしのいだが、ナターシャの口から本当のことを聞きたかった。
こうして、今日のアカデミーでの授業は終わった。
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