第一話 始まる騎士試験
窓からふりそそぐ強い日差しを浴びながら、ゆっくりと目蓋をあける。
前日はあまり寝れなかったのか、頭がズキズキと痛む。
「おい、ジーク! 早く起きろよ! 全く、ひどい面構えだな」
同じ部屋に住むアレンの声がした。
「あぁ、今起きるよ」
「ジーク……。緊張のあまり寝れなかったのか? そろそろ仕度をしないと遅れるぞ?」
彼の名前はアレン=ウォルフォード。俺が騎士養成機関に入ってから、三年間同じ部屋で過ごしてきた仲だ。アレンは騎士の名家出身で、実力もあり、皆から愛されるリーダー的存在だ。それだけではなく、俺のような『平民』出身の騎士にも区別なく接してくれる。
今日のアレンも心配事とは無縁という言葉がよく当てはまる陽気さだ。
この日は三年間という騎士養成機関の生活の中でもっとも大事な騎士試験の日だった。
「アレン、お前と違って俺の実力は平均程度だからな。少しは緊張もするさ」
俺は重いまぶたをこすりながら答える。
俺が住むグレンムガル帝国で騎士になるためには、騎士養成機関に入り、騎士試験を戦い抜いた後に貴族から任命を受ける必要がある。
小さな国だが、騎士養成機関は八校あり、十三歳から十五歳の三年間をここで修了する。
三年間のうちに半分以上が脱落し、最後の騎士試験で一気に人数を絞られるようだ。
「嘘だな。ジークはいつも本気で訓練に取り組んでいないと俺は思っているよ!」
「買いかぶりだ。アレンはトップの成績で公爵様から任命されるとか目指してるのか?」
「それこそ買いかぶりだ。俺は自分の力がどこまで通用するのか試してみたいだけだ」
貴族に任命された騎士は、貴族が通うアカデミーへ付き人として入学することとなる。
アカデミーはそれぞれの貴族が持つ力のレベルによって何校かあり、どの貴族から選ばれるかによって、騎士が通うアカデミーも決まる。
貴族から任命されるに当たっては、三年間の成績ももちろんだが、最後の騎士試験によるものが大きいそうだ。
「アレンなら最高の結果を出す気がするな」
「ジークも頑張れよ! できたら来年からも一緒のアカデミーで共に過ごそう!」
「あぁ、俺は出自もあるから、せいぜい任命されるために頑張るよ」
騎士養成機関は、貴族出身の次男や三男、そして元来騎士の家のものが九割以上を占める。俺のような『平民』は少なかったが、国の方針で一定数は合格し、騎士養成機関に入学できるよう配慮されている。
俺がその一定数に入るのは至極簡単だった。
貴族や騎士の家が出身ではない限り、ほとんどの人間は剣を振るうことすら習うことはない。しかし、俺は四歳からの八年間、ほとんどの時間を親父に鍛えられ、様々な剣技を身につけていた。
「レイヤたちはもう集まってそうだから、先に行くな! 早く準備して来いよ!」
アレンは今日のために新調した鎧をまとって勢いよく部屋を後にする。
「ふーーっ」
俺は二、三度深呼吸をして、準備を始めた。
この三年間は、騎士としての教養や技術を身につけるため、寮に入りひたすら鍛錬の日々を過ごしてきた。
アレンをはじめ、ここに入学してくるものは騎士として大成するために、ひたむきに努力をしている。規律は厳しく、朝から夜中まで休む間もほとんどなかった。畑を耕していた方がいくばくかマシな生活だ。
そんな環境の中、正直俺は騎士になることを面倒と思うようになっていた。
騎士学園の友人はいい奴らだが、しっかりとした出自の一部の貴族や騎士からは俺が『平民』ということで、嫌悪の目を向けられる。
こんな面倒が続くのなら、『平民』として何か仕事でも探そうかと本気で考えていた。まったりスローライフを送ることは悪くない。
そんなことを考えてのんびりと準備をしていたら、集合時間が近くなる。戦うための格好に着替えて部屋を後にした。
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