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第十七話 入学式と再会と

 入学式の会場には、正装をした貴族と騎士達でいっぱいだった。これまでの養成機関とは違い、騎士として入ってくる人間は見た目だけである程度実力をもっていることが分かる。


 しばらく会場内を観察していると、入学式が始まった。


 舞台へ初老の女性が上がり、入学式の司会をすることを伝えて開式の挨拶をする。その後、アカデミー長と呼ばれる男性からの挨拶となった。


 舞台に上がったアカデミー長はナターシャの父親のような威圧感を持った男性だった。


「新入生のみなさん、入学おめでとうございます。アカデミー長のディオルグです」


 その声はかなり低く、一言発しただけで場が凍り付いた。


「君たちは、選ばれた貴族と騎士であります。私たちの帝国が今後も発展していくためには君たちの力は必要不可欠です。このアカデミーで存分に力をつけて下さい」


 ディオルグは短い話をいくつかして、自分の席へ戻っていった。


 何人かの来賓の挨拶が続き、ナターシャの挨拶の番になる。想定していたが、俺はナターシャの騎士として一緒に壇上へ上がることとなった。


 ナターシャはこういう場に慣れているのか、堂々としたたたずまいで話を始める。俺は、横で姿勢を正して立つのが精いっぱいだった。


「あの横にいるのがナターシャ様の騎士?」


「顔は良いけど見たことない人だわ」


「私に送られてきた名簿にも入っていなかったわ」


「どんな手を使えば無名の人がナターシャ様の騎士になれるんだ」


 新入生の何人かがここでもざわざわと話すのが分かった。ナターシャの騎士に選ばれるということの重大さを理解したのと同時に、なんで俺が選ばれなければいけなかったのかを悔いる。


 ナターシャはそんなざわつきも関係ないように挨拶を終えた。


 席へ戻るとき、ボソッとナターシャがつぶやく。


「ジーク、分かっているだろうけど、あんたへの誹謗中傷は無視しなさい」


「もちろんだ。少し気になっただけだ」


「堂々と私の隣に立っていればいいのよ」


 多くの視線を感じながら席にもどる。


 入学式はすぐに終わったが、俺のアカデミーでの生活は不安な幕開けをした。


 その後、俺たちは教室へ移動するように案内された。新入生は四クラスに分かれるようだ。一クラス二十五人の貴族とそのお付きの騎士で構成される。


 クラスの分け方は特に能力とかで決まるわけではなく、ナターシャと俺はCクラスを案内された。


 Cクラスに入ると、ルミーナとアレンの顔もあったが他にもよく知った顔がいた。


「ジーク……、久しぶりだな」

 レイヤが声をかけてきた。


「なんだ、レイヤも同じクラスだったのか! アレンも同じクラスのようだし」


「なれ合うつもりはないが、よろしく」


 レイヤの口調は騎士養成機関の時とは違っていた。


「あなたは剣聖と呼ばれるレイヤね。あなたが仕える貴族は誰?」


 話をきいていたナターシャが会話に参加する。


「これは、ナターシャ様。まさかジークが仕えるのが皇女様とは思いませんでした……」


「そんなに驚くことか?」


「びっくりするもなにも、今でも信じられないぞ……」


「それで仕える貴族は誰なのかしら?」


「失礼しました、ミューゼル=デン=フリードリヒ様となります」


「ミューゼルも同じクラスなのね。このアカデミーでもトップの実力を持っているし」


「はい……」


 レイヤはミューゼルという貴族に仕えて既に何かを感じているようだ。


「では、私は席につくからジークは自由に旧友との再会を楽しみなさい」


 ナターシャは自分の席へ向かっていった。


「おっ、レイヤとジークも同じクラスか! 養成機関を思い出すな!」

 アレンが無邪気に話しかけてくる。


「アレン、お前も久しぶりだな。ところで、ジークはどんな卑怯な手を使って、ナターシャ様の騎士に選ばれたのが気になっている」


 レイヤは本当にまだ俺がナターシャの騎士なのを信じられないようだ。


 あまり話したくはなかったが、レイヤとアレンにナターシャを助けて騎士になったと説明した。もちろんアバロンとのできごとや騎士をやめようとしていたことは伏せる。


「なるほど。賊に襲われるところを助けたってのは……とんでもない偶然だな」


「俺もその場に居合わせた時はびっくりしたよ」


「そしてジークの力で倒せたっていうのも驚きだ」

 レイヤはなぜか毒づいてくる。


「さすがジークだな! 運命ってやつじゃないのか?」

 アレンはいつもの調子で何も気にしてはいないようだ。


「俺からしたら本当にこの二週間はありえない方向に人生が進んでいるよ」


 これが運命だとしたら、嫌だなと思ってしまった。


「それより、皇室騎士団の人は一緒に登校するのか?」


「いや、今日も俺と二人で馬車に乗って登校したぞ」


「それは珍しいな。俺は登下校にはロイエラント家の騎士も一人同行しているよ」


「ただの登下校なのに大げさだな」


「登下校から気が抜けないぜ!」


 アレンは笑っていたが目には疲れがたまっているようだった。


「ルミーナ様は公爵家の女性だから手厚いのだろう」


 ルミーナが公爵家ということを初めて聞いたが、そこから選抜されるのはさすがアレンだと感心する。


「ミューゼル様は公爵家だけど男性だからな。俺と二人で登校しているよ」


 レイヤも公爵家から選抜されているようだ。ミューゼルのことはナターシャも知っているようで、少し気になった。


「ジークはナターシャ様からそこまで信頼を得ているんだな!」


 レイヤだけではなくアレンも俺がナターシャと二人で登下校していることに驚いている様子だった。ナターシャほどの要人となると、騎士試験に合格したばかりの俺だけで護るのは難しいと普通は考えるのだろう。


「ジークの実力だと心配だが、ナターシャ様や皇室騎士の皆さんが認めているのか」

 レイヤは何か考えているようだ。


「俺としてもどうしてこうなったかは分からないけどな」


「くれぐれもナターシャ様にケガをさせるようなことだけは気をつけろよ」

 レイヤからなぜか強い口調で言われた。


 それぞれの家によって騎士に求められる生活も違うようだが、ナターシャの家である程度自由であるようだ。休日の外出許可と、訓練の休みがあれば最高の環境だと思った。

【お読みいただきありがとうございます】


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