第十六話 フリージア・アカデミー
アカデミー入学までの二週間はあっという間に過ぎ去った。
屋敷の人たちとの交流や訓練所を行き来する生活には正直飽きてきていたが、実力のある騎士たちとの訓練はこれまでの養成機関での訓練と比べて楽しむことができた。
ナターシャが通うことになるアカデミーは『フリージア・アカデミー』と言って、その年のグレンムガル帝国内で最もGCの力が強い貴族が百人が入学することのできるアカデミーだ。
ナターシャからはアカデミーに入る前にいくつかのポイントだけ教わった。
帝国内にアカデミーはいくつかあるが、フリージア・アカデミーに通うことだけで将来が約束されているほど、貴族にとっても重要なものらしい。
皇族を抜いた貴族の序列としては、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっているが、これはGCの力によって上にも下にも行き来できる。
フリージア・アカデミーには公爵家や侯爵家の子供が通うそうだ。伯爵や子爵の子供でもGCの力が強ければ入学することができるが、ほとんど稀な出来事となる。
入学式の朝は早かった。
俺はナターシャの騎士として、正装をしなければならないらしく、アバロンから服を新調してもらった。
食事も済ませて出発の準備をする。
ナターシャは新入生代表で挨拶もするそうで、今日はドレスコードを着ていた。
「ジーク……、服に着られてしまうと思っていたけど、案外似合ってるじゃない」
「ナターシャこそ、普段の姿と違って本当に皇女様なんだと思ったよ」
「あら? それは褒めていると捉えていいのかしら?」
「そう捉えてもらってかまわない。遅れちゃいけないんだろ? 早くいくぞ」
俺は屋敷の外へ歩いて向かおうとした。
「ジークは何で行こうとしているのかしら? まさか歩いていくわけないじゃわよね?」
「歩いていかないのか? それなら何でいくんだ?」
「ジークだけ歩いて行ってもいいわよ。私は馬車で向かうから」
少し待っていると玄関に馬車の迎えが来た。さすが皇室と思える立派な馬車だ。生まれて初めて乗る馬車がおそらくこの国の中でも一番いいものなんだろうと感じた。
ナターシャと俺は馬車に乗り、アカデミーへと向かう。
今日から本格的にナターシャの騎士としての職務を全うする必要があった。
馬車に乗っているからといって、いつ事件がおきるかも分からない。
馬車から見える街は今日から新学期が始まるからか賑やかだ。いくつかの馬車が走っているので、みんなそれぞれの新しいアカデミーに向かっているのだろうと、想像しながら進んでいく。
「私の晴れ舞台だからシャキッとしなさいよ。黙っていればかっこいいんだから……」
「うるさくても俺はかっこいいんだよ」
「そうかしら? いっそのことアバロンに口を縫ってもらう?」
「他の貴族や騎士もいる手前、さすがに場を乱すようなことはしないさ」
そうこうと話していると馬車が止まる。アカデミーに着いたようだ。
「ずいぶんと華やかだな」
「このアカデミーに入学するだけでもすごいのよ。新入生は浮かれるでしょうね」
「ナターシャはずいぶん冷めてるんだな」
「ジークはたいそう間抜け面をしているけどね」
到着したフリージア・アカデミーは騎士養成機関と比べてはいけないほど、建物も美しく、広大な敷地を有していた。
さすがに国の最高アカデミーだと感心するばかりだ。
周りを見渡すと、騎士候補生の時に見たことある連中が何人かいた。レイヤやアレン、スバルも順当に公爵家から選ばれていれば、このアカデミーに入学するはずだ。
「よそ見をしないで。行くわよ」
ナターシャが先導しアカデミーの中へ入っていく。入学式は講堂で行われるらしい。講堂の場所までは簡単な案内図が用意されていた。
講堂へ向かう途中、俺への異様な視線や奇異な視線を多く感じた。
「えっ……。ナターシャ様の連れている騎士は見たことない人だわ」
「なんでジークフリートがナターシャ様の隣を歩いてるんだ?」
貴族や元同じ騎士養成機関出身の者が俺の噂をしているのが分かる。ナターシャの騎士というだけで、注目の的になるのは勘弁してほしかった。
「ナターシャ! 久しぶりね!」
後ろから女の子の声がした。振り返ると、ショートヘアーで、大きく澄んだ瞳を持った元気が溢れる女の子が手を振ってかけてきた。
「あら、ルミーナじゃない! 朝から元気そうね!」
ルミーナも上流の貴族なのだろう、立ち振る舞いはしなやかだ。
「へぇ、隣にいるのがナターシャの騎士というわけね」
「そうよ、顔はいいでしょ」
「私に送られてきた名簿の中にはいなかったと思うけれど……」
「ジークと言うのだけど、いわゆる掘り出し物みたいなものね」
俺の成績だとこのアカデミーに入る貴族には名簿が送られないらしかった。
ルミーナの後ろから見知った男が駆けてきた。
「ジーク、久しぶり! どうやらすげー大物の騎士になったようだな!」
アレンが嬉しそうに話しかけてきた。
「アレン、久しぶりだな! 同じアカデミーなのか!」
アレンの実力や成績なら上流の貴族から選ばれるのは当然だと思った。
「部屋から突然消えたからびっくりしたぞ!」
「いやぁ、本当に色々あったんだよ……」
「そんなジークがまさか皇族の騎士になるとは全く思わなかった!」
「俺も二週間前には想像もしていなかったよ」
久しぶりに見知った顔と出会えたのは少し嬉しかった。
「アレン、この騎士は優秀なの?」
ルミーナがアレンに聞いた。アレンはルミーナの騎士になったようだ。
「成績って意味だと、騎士養成機関の時は平均だったな」
「平均ですって! ナターシャ、あなたが平均の騎士を選ぶなんてどうしたの?」
すごい言われようだと思ったが俺が平均的な成績のみ取ってきたのは事実だ。
「ルミーナ、私をライバル視するのは良いけど、選んだ騎士に口を出すことはないわ」
「そうは言っても、ナターシャなら選択肢はたくさんあるはずでしょ、顔はいいけど」
「私の好きで選んでるんだからいいのよ」
ナターシャはあきれた顔で答える。
「確かに成績は平均だけど、ジークは本当の実力を隠しているとは思ってる」
アレンは俺を持ち上げるが、ルミーナはあまり興味がないようだった。
「それよりもジーク、どんな方法を使えばナターシャ様の騎士になれるんだ?」
アレンの疑問はもっともだろう、俺がアレンの立場なら同じ質問をしている。
「俺は何もしていないよ。ただ気が付いたらなっていたんだ」
色々あったがアレンだけでなく屋敷の外の人には俺がナターシャの騎士になった経緯をあまり言わないでいようと思った。
話をしながら歩いていたら入学式の行われる講堂へ到着する。
ナターシャとルミーナが案内人に席を聞いた。
「ナターシャ様は挨拶もありますので舞台の横にあるあちらの奥の席です」
案内人は指をさしながら教えてくれる。
「ルミーナ様の席は最前列となります」
俺たちは指定された、席へと向かう。奥の席に着くと、来賓の方がナターシャへ挨拶をしていた。俺はナターシャの横でその様子をじっと見守ることにした。
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