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第十五話 皇族の威圧感

 ヤリスの放ったGCでの攻撃で身体を少し痛めたため、自己紹介が終わったところで部屋に戻った。


 これから毎日、皇室騎士団の連中と訓練をするのは嫌だったが、ナターシャの騎士になってしまったからには、耐えるしかない。


 ベッドに横たわると、急展開した人生を振り返る。


 まさか皇女の騎士としてアカデミーへ通うこととなるとはこれまでの人生を考えると想像つかなかった。

 

 のんびりしていると、部屋の扉が叩かれる。


「入るわよ」


 俺の返事を待たずして、ナターシャが部屋に入ってきた。


「おい、プライベートはないのか? 俺が今一人でしていたらどうするつもりだった?」


「ジーク……。あなたがたとえマスターベーションをしていても何も問題ないわ?」


「完全に皇女様の発言じゃないな……」


「それより、これからお父様を紹介するから来なさい」


「分かった、準備していきますよ」


 訓練所へ行くときの格好だったため、ナターシャの目の前で着替えをする。


「いい身体つきをしているのね」


 ナターシャは俺の身体をじろじろ見てきた。


「顔もハンサムだしな。騎士になってなかったら今頃、街ではモテまくりだよ」


「その自信はどこからくるのかしら。ジークは性格がいまいちだからモテないわ」


「昨日会ったばかりなのに、すごい言われようだな」


「いいから早く着替えなさい!」


 そろそろ怒りだしそうだったので素早く着替える。


 ナターシャに連れられながら屋敷の中を歩く。屋敷の広さは、あらためて皇族の持つ財力を思い知った。


「お父様は、皇帝にはなれないけど、かなり強力なGCの付与を持っている実力者なの」


「GCは生まれつきにその能力が決まっているというやつか」


 スバルの言っていたことを思い出しながら話をする。


「くれぐれもお父様の前では粗相のないようにしなさいね」


 皇族の持つGCがどれほどのものか気になった。他の貴族よりも圧倒的な力を持っていることには違いない。ナターシャの持つ力も群を抜いているのだろうと想像する。


「わかった。気を付けて話すことにするよ」


「いい心がけね。アバロンもそばにいるから問題はないと思うけど」


 俺たちは最初に入った踊り場を抜け、皇室騎士が住む部屋と反対方向へ行く。


「この屋敷には皇族は何人住んでるんだ?」


「今住んでいるのはお父様とお姉様と私の三人よ。なにか気になったの?」


「いや。こんな広い屋敷だから何人も住んでるのかと思って」


「お兄様が二人いるけど、みんな自分たちの屋敷を持つようになったわ」


「なるほど。四人兄妹ってことか」


「アカデミーを卒業すると、男はみんな出ていくのよ」


「ナターシャはアカデミーを卒業したら何をするんだ?」


 アカデミーを卒業した貴族がどうなっていくのかは正直何も想像できなかった。


「私は屋敷を出ていくつもり。自分の騎士団を持ちたいとも思っているわ」


「皇族ものんびり過ごせるわけではないんだな」


 皇族だとしても自分の騎士団を従えたいと思うようだ。


「与太話もこのくらいにしましょう。着いたわ」


 立ち止まると、豪華な扉があった。ナターシャは扉をたたく。


「お父様、ジークフリートを連れてきました」


「入れ」


 ナターシャが先に入り俺もあとから続く。中は高価そうな品がたくさん置いてある広い書斎であった。アバロンも奥で待機している。


「私がナターシャの父でこの屋敷の主、ランバ=アルベルト=グレンムガルだ」


 ランバの身体は大きくなかったが、眼に力があり、威圧感があった。


「今日はナターシャの騎士が決まったと聞いて呼んだわけだが……」


 思わず圧倒されるが、ナターシャから小突かれて冷静さを取り戻す。


「私が騎士として選ばれました、ジークフリート=ヒエロニムスです」


 ランバの放つ空気が重かったので、かしこまってしまった。


「ヒエロニムス……。なるほど……。アバロン、お前の推薦した候補生なんだな?」


「はい。ジークフリートは候補生の中でもずば抜けた強さを持っております」


「成績を見たが、それほどの実力を持っているようには見えないが?」


「成績では平均ですが、いざ実践となると話は別です」


「どのくらい強いんだ?」


「GCなしの戦闘では、皇族騎士団でも勝てるかどうかわかりません」


 ランバはアバロンから俺のことを聞いて深く頷く。


「そうか……。ジークフリート! アバロンにそこまで言わす力をどこで身に着けた?」


「私の父に教わりました」


「父からか……」


 ランバは大きく息を吸い、しばらく沈黙の時間が流れる。


 アバロンから親父が昔騎士をしていた話を聞いていたが、ランバもそのことを知っているかは分からなかった。


「お前は今日から騎士だ。ナターシャを危険な目に合わせるなよ!」


「心得ております」


 俺はランバにお辞儀をする。


「もう行って良いぞ」


 ランバがそう言うと、ナターシャと一緒に書斎を後にする。


 皇族の持つ威圧感は、単純な力ではなくオーラが違ったことを肌で感じた会合だった。

「ナターシャの父親はすごい威圧感だったな……。思わずかしこまってしまった」

「父は他人にはいつもあんなものよ。むしろジークは好かれた方なんじゃないかしら?」

「あの空気で好かれていたのか?」

「えぇ、時々笑っていたもの」

 俺には全く笑った様子は分からなかったが、好かれたのなら良かった。

「ジーク、これからのアカデミーでの生活はくれぐれもよろしくね」

「あぁ、期待には応えられないと思うが、よしなにやるよ」

 ナターシャに踊り場まで連れて行ってもらい、俺たちは別れた。

【お読みいただきありがとうございます】


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