第十四話 皇室騎士団との訓練
さっそく訓練着に着替え、言われた通りに訓練所へ向かう。
まさか初日から皇室騎士団の人たちと一緒に訓練をするとは思わなかった。訓練着には、皇室騎士団の紋章も入っていたので、彼らと同じものを使用しているようだ。
訓練所は部屋からすぐにある。扉を開けるのに躊躇していたらアバロンの声も中から聞こえてくる。初めからアバロン直々の訓練となると面倒だ。それよりもこの状況に追い込んだアバロンには一発殴ってやりたかった。
立ちすくんでいるのも嫌だったので扉をたたいて中へ入る。
「入りまーす」
俺が入ると、十人ほどの騎士団員とアバロンが体術の訓練をしていた。
「ジークフロートか! よく来たな」
額に汗を浮かべながらアバロンが迎えた。
「アバロン、俺はなれ合う気はないからな。ただ来ただけだ」
「別にそれで構わない。お前は皇室騎士団に入っているわけではないからな」
一応、俺の立場はナターシャ付きの騎士のようだ。
「部屋に戻ってもいいか?」
「それはできない。ナターシャ様からは、お前をここで訓練をするよう言われている」
「わかった。背中にはせいぜい気をつけろよ」
アバロンにはこれまで散々やられた仕返しをしたい。それに俺の親父や死んだ母のことを知っている。当面の敵にあたると思っているが、GCの差があるので今のままでは勝てないことは分かっていた。
訓練中に隙ができたら背中からでも攻撃を仕掛けるつもりだ。
「ジークフリート、訓練はしっかりしろよ」
アバロンがそう言うと、訓練をしている皇室騎士団の中にまぜてもらう。
「アバロンさん、この舐めた口をきくガキは何者ですか?」
道場にいた騎士団員の中でも若そうな男が言った。
「そいつはジークフリート、ナターシャ様の騎士としてアカデミーに入る候補生だ」
「このガキがですか。俺、勝負してもいいですか?」
「それは好きにしろ」
「二度となめた口をきけないようにしてやろうと思います!」
「ただし、GCを使ったらお前の負けにする。ジークフリートはまだ付与されていない」
「わかりました。こんなガキ相手にわざわざGCを使う必要もないですよ」
「それと武器はなしだ、お互いに体術で勝負しろ」
武器を使って初日から怪我でもしたら面倒なのだろう、アバロンは体術での勝負を指定した。
アバロンと若い王室騎士の話を聞いているが面倒になってくる。
「おいガキ! 言葉遣いを教えてやるよ!」
若い騎士はそう言って俺に近づいてくる。アバロンにため口を使って話したことを他の騎士団員もいらついているのが分かる。ここでの立場もあるので仕方なく相手をする。
「ガキガキうるさいな。相手してやる」
この若い皇室騎士に舐められないように初めから本気をだすことにした。
皇室騎士がどの程度の実力か分からなかったが、どんな攻撃にも対応できるようニュートラルな構えをした。適当に戦って負けてやってもいいと思ったが、負けた後、騎士団員になめられたら三年間も耐えられそうにない。
「二度と、舐めた口をきけないようにしてやる!」
若い騎士の威勢は良かった。
「そうか……すぐ終わらせてやる」
皇室騎士だろうがGCがなければかなり善戦できるのはアバロンで確認済みだ。
アバロンが審判として試合の合図をだす。
「はじめっ!」
その合図があった瞬間、俺は構えをほどき全力で若い騎士の懐へ潜りこんだ。
「くっっ」
若い騎士の表情は驚きに満ち溢れる。ガキとなめていたやつの攻撃が早いのは、想定していなかったと見える。
俺は右手でフェイクの攻撃を顔に向けてくりだす。さすが皇室騎士団に所属するだけはあり、相手は上体をそらしてうまくかわした。俺は一瞬の体重移動で身体を平行に動かし、上体をそらした相手の顔面へ向けて左手で攻撃を繰り出した。
攻撃はクリーンヒットし、若い騎士のもともとブサイクな顔がさらに腫れ上がる。そのまま床に倒し、頭部をかかとで踏み倒そうとするが、若い騎士は横に転がりそれを回避して立ち上がった。
俺の今の攻撃を避けるのには、少し驚いた。だてに皇室騎士団の紋章を付けていない。
「驚いた顔をしているな! 皇室騎士をなめるな!」
「今の一撃で正直終わりだと思っていた。ある程度はできるようだな」
俺は再び構える。
相手は俺のことをガキと見下すのはやめたようだ。しっかりと俺から目をそらさずに構えている。
一瞬で相手を倒そうと思っていたが、さすがに難しい。
次は若い騎士から攻撃を打ち込んでくる。
何度も打ち出す攻撃は的確に俺の急所を突いてくるが、しっかりと受け流す。
「くそっ、ナターシャ様に選ばれたこともあってなかなかやるな!」
「皇室騎士団かなにか知らないが、喧嘩を売ってきたんだ、タダではすまさない」
相手が大振りになった隙をついて、あごへ一撃を放つ。
「うぐっ」
あごへの攻撃で若い騎士はぐらついた。ここをチャンスと見て、そのまま連打をする。
「これで終わりだ!」
俺の攻撃は正確に身体の弱い部分へ繰り出していく。若い騎士は防戦一方になった。
「いい気になるなよ……」
もう数発撃ち込んだら若い騎士は倒れるという中、いきなり騎士の身体が鋼鉄のように固くなった。
俺の拳から逆に血が出る。何が起きたのか分からなかった。
焦っていた俺に若い騎士は突進を仕掛け、吹き飛ばされた。
「うぁっっ」
その攻撃の重さはこれまで受けたことのないもので、後方の壁まで飛ばされる。
若い騎士はすかさず、俺の方へ再度突進を仕掛けにくる。
正直避ける余裕もなかった。
「お前の反則負けだ」
アバロンが俺に突進しようとする騎士団員の首元へ攻撃して制した。
「なぜとめるんですか? あと一歩であのガキを倒せそうだったのに……」
若い騎士の目からは涙があふれていた。
「GCを使ってはいけないと言っただろ。お前は実力でジークフリートに負けたんだ」
アバロンは憐みの目で若い騎士を見つめた。
俺は攻撃の痛みが残っていたが、なんとか起き上がる。
「俺の勝ちってことでいいんだよな? アバロン?」
「あぁ、お前の勝ちだ。うちの団員がルールを破ってすまなかった」
アバロンが素直に謝ってきたのは少し気持ち悪い。
それに続いて他の団員たちも俺に対して頭を下げる。
「いやいや、謝らなくていい。これから一緒に訓練を受けるんだ。気楽にやろうぜ」
変な空気になってしまったので、少し居心地が悪かった。
「みんな、聞いてくれ! ジークフリートは今見たように実力者だ」
アバロンに皇室騎士団員の注目が集まる。
「言葉づかいは悪いが、これから仲良くしてやって欲しい」
アバロンの声にみんなが頷いた。俺が負かした若い騎士も起き上がる。
「アバロンさんに言われたら仕方がない。俺の名前はヤリスだ。お前の強さは認める」
ヤリスから握手を求められたので握り返した。
「俺はジークフリートだ。よろしく」
「実力は認めるが、舐めた口が続くなら倒してやるからな!」
「いつでも相手してやるよ」
「でも良い試合だった。これからよろしくな! ジーク!」
他の騎士団員たちからも自己紹介を受ける。俺の力を認めたからか、みんなフレンドリーな対応だった。みんなからジークと呼ばれることとなる。
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