第十三話 皇族の屋敷
俺がサインをすると、ナターシャはその場から移動し、メイドに屋敷の中を案内されることとなった。
食堂やトイレ、お風呂場を案内される。この屋敷には皇室騎士団の一部も住んでいて、俺はその騎士たちと同じものを使うこととなるようだ。
どの施設もこれまでの生活とはかけ離れたラグジュアリー感があった。
「こんな設備を俺も使っていいのか?」
「はい、ジーク様は皇室騎士様と同じ設備を使用するようにと申し付かっております」
「たいそうな身分の人たちと同じ設備か。来るとこまで来てしまった感覚になるな」
「屋敷でのお食事も皇室騎士様と同じものをさきほど案内した食堂で食べていただくこととなります」
皇室騎士団に所属する騎士がどんな連中か分からなかったが好待遇なのは間違いない。
「なるほど。どこまでも至れり尽くせりな環境というわけだな」
屋敷の設備や食事等のおもてなしには感服したが、それが騎士としてアカデミーへ一緒に通うことの対価なのかもしれない。そう考えるとアカデミーでの生活は過酷なものが待ち受けている予感がした。
「そういえば名前はなんていうんだ?」
案内されながら、俺はメイドのことが気になったので聞く。
「私の名前はアマンです」
アマンは小柄で小動物のような可愛さがあるメイドだった。
「ここの屋敷では長く働いているのか?」
「働いているメイドの中では長い方だと思います」
「なるほど。年は俺より上に見えるな」
「年齢については答えられません!」
アマンは顔を赤らめている。
アマンはよく物語に出てくるようなメイドそのもののようで姿勢が美しかった。その一挙手一投足は皇室に仕えていることが分かるほど繊細だ。
「着きました! ここがジーク様の部屋です」
アマンはそう言って扉を開ける。
ここまで案内されてきた部屋も豪華なものだったが、俺の部屋も高級感溢れる作りになっていた。皇族の部屋を見てないので何とも言えないが、この部屋で生活できる人間はこの国でも限られていると思う。
騎士という立場がどれだけすごいのかを考えさせられる部屋だった。
「ありがとう。ところで街には自由に行ってもいいのかな?」
「……」
アマンは首をかしげながら俺の方を直視する。
「あれ? 冗談だ。街に行くには申請が必要なのか?」
「……」
俺は何か変なことを聞いてしまったようだ。
「騎士の方には基本自由な時間はありません。ナターシャ様の許可があれば別ですが」
「自由時間がないって、アカデミーに一緒に行く以外の時間は何をして過ごすんだ?」
休みすら与えられない生活は考えたことがなかった。
「そうですね。早朝やアカデミーから帰宅した際には、皇室騎士様と一緒に訓練をさせるよう申し使っております」
考えただけでも地獄のような生活が待っていた。サインをしたことを後悔する。
「騙されたわけか……。ナターシャが外出するときはどうするんだ?」
「ナターシャ様が外に出る時は、ナターシャ様のおそばにいることが最重要です」
俺はナターシャが外出する時とアカデミーに通うときしか外出を許されていないことが分かった。アカデミーで騎士の訓練にも励まなければいけないのに、そのうえ、屋敷でも訓練が続く生活は面倒だ。
「なるほど……。ありがとう、もしかしてその訓練は今日からあるのかな?」
「そうなりますね。訓練所に行くと皇室騎士様たちがおります」
「寮にある俺の荷物はどうなるんだ?」
「ジーク様のお荷物は、他の使用人が寮からこちらへ運びますのでお気になさらず」
ある程度予想できていたが、俺の自由な生活は今を持って終わった。
訓練所の場所を聞き、アマンと別れる。俺は少し部屋のベッドで横になりながら、これからの三年間について考え始めた。
「あ、忘れてました!」
アマンが慌てて部屋に入ってくる。
「うわっ……。何かあったのか?」
「そちらのタンスに訓練着や普段着を用意しております!」
アマンは大きな衣装タンスを指差しながら教えてくれる。
「わかった。 着替えてから訓練所へ向かうことにするよ」
アマンはお辞儀をして駆け足で去っていった。
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