第十話 剣聖レイヤの悩み
次の日、今日こそは機関長室へ行こうと思いまっすぐと向かう。
昨日はとんだ茶番が入ってしまい行きそびれてしまった。興味を持てなかったからか、助けた女の子の顔もあまり思い出せない。
街はあい変わらず賑わいを見せているが、そんな中、騎士養成機関への道中で珍しくレイヤと会う。
「ジーク、ひどいケガで寝込んでたらしいな」
おそらくアレンが話したのだろう、俺が寝込んでいたことを知っていた。
「そうなんだよ。まさか自分が寝込むまでとは、恥ずかしい。レイヤはどうだった?」
「俺は鍛え方が違うからな。それよりも、今はもっと強くなりたいとうずいているよ」
レイヤは最終エリアでの戦いで何かを得たのだろう。
そのまなざしは騎士試験の結果よりももっと遠くのものを見ているように感じた。
「レイヤの成績なら、かなり位の高い貴族の騎士として選ばれるんじゃないか?」
まず間違いなく、レイヤはこの帝国の騎士候補生の中でもトップクラスの実力をもっている。
そんなレイヤが上を目指すことは国益にもなると感じた。
「今年は皇女様もアカデミーへ入学すると聞く。俺は皇女様に選ばれたいと考えている」
皇女様も俺たちと同じ年齢なことを初めて知った。
「レイヤの結果だったらなれると思うけどな」
「どうも皇女様の性格は少し他の貴族とは違うようでな。俺も選ばれるか分からない」
「レイヤが選ばれないとなると誰が選ばれるんだろうな」
皇女様に選ばれるとなるととんでもない実力なんだろうと思った。
俺たちの所属している騎士養成機関ではなく、他の養成機関には化け物じみた強さをもっている奴がいるのかもしれない。
「ジーク、お前もいい所の貴族から選ばれたら、俺と同じアカデミーかもしれないな」
「レイヤと同じアカデミーに入れる貴族から選ばれるか分からないが、もしそうなったらよろしく」
レイヤとはあまり話をしたことはなかった。
剣聖とも呼ばれる男に興味がないわけではないが、なぜか初めは距離を取られていた気がする。
話すようになったのも、アレンを通じて仲良くなったからだ。
レイヤと同じアカデミーになるかは神のみぞ知るが、騎士養成機関でトップクラスの騎士が強力なGCを得るとどんな実力になるのかは気になった。
「まぁ俺はやめるんだけどな……」
俺はぼそっとつぶやいた。
「うん? 今何か言ったか?」
「いや、何も言ってないよ。お互い任命されたら次は騎士として会おう!」
俺たちは立ち話を終えて、それぞれ違う道へ進んだ。
騎士試験の結果が分かるまでの期間、街はその話題が尽きないようだ。
飲食店を中心に騎士候補生向けの特別プランを用意しているお店がいくつかあった。
「あんちゃん、レイヤやアレンと同じチームだったんだろ! うちで食べてけよ!」
「あら、あなたそうなの? レイヤ君はやっぱりすごい騎士になるのかしら?」
「アレン君の食べっぷりはいいから、今度一緒に来なさい!」
美味しそうな肉料理屋さんや、家庭の味を提供するお店など、多くのお店から声をかけられる。
どこに行っても、レイヤとアレンの名前は有名だ。
俺は平民出身であることから、期待されていないのは分かるが、完全にお荷物のような言い方になるのは少し嫌だった。騎士を今すぐにでも辞めたい欲求がますます高まった。
騎士養成機関に到着した時には、頭の中は騎士をやめて何をしようかという妄想でいっぱいだった。
機関長室までの時間は静寂そのもので、これからはのんびりとした生活が待っていると考えると、この三年間を過ごした時間はかけがえのない時間だと感じる。
同じ養成機関のやつらは、そのまま自分の騎士道を突き進んで欲しいと思う。
アカデミーでも、みんなとバカをやったりする未来の可能性があることを思うと感慨深かった。
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