第九話 出会い
女の子が賊のような男たちに囲まれていて、俺はタイミングを見計らって攻撃を仕掛けようと様子を伺う。
「もう観念して、抵抗せずに掴まれ!」
「今回はかなりの上玉だな! 貴族のお嬢ちゃんは高く売れるぞ!」
屈強な男たちのドス黒い声が聞こえてくる。そいつらは力で女の子を押さえつけていた。
「軽々しく私に触れるな!」
「まだ抵抗しようとするのか! 小娘が!」
パチンと音がする。女の子は必死に抵抗するが、男に顔を叩かれた。
「おとなしく俺たちについてくれば、これ以上痛い目には合わないぞ」
女の子は悔しい顔をしてうずくまる。
男たちはあらかじめ用意していた縄で女の子の腕と口を縛り付けた。
「こんな幸運が舞い降りるなんてめったにないな!」
「服装からしてかなり位の高い貴族の娘に違いない」
「裏ルートで売ったらかなりの大金になるぞ」
俺が聞いているとも知らずに男たちは呑気に話をしている。
女の子の服装は明らかに上位の貴族が着ている服装だ。普段なら騎士がそばに控えているはずなのに、一人で出かけた報いを受けるのは当然の結果だとも思った。
貴族だけがGCを付与できるので、その力を欲しがる組織はたくさんあるのも事実だ。まだ若い貴族となればかなりの値段が付く。
「いつでも運び出せるぞ」
屈強な男が近くに置いてあった荷車を持ってきた。男たちが荷車に視線を移す。
その数秒の瞬間を、女の子は見逃さなかった。
縄で縛られているが、男たちの間を駆け出した。
「くそがっ! 逃がすな!」
屈強な男たちは持っていた武器を取り出す。一人は斧を持ち、もう二人は剣を持つ。
幸いなことに女の子の走る方向は俺の方だった。
身を隠していた俺は、駆け抜けようとする女の子の身体を引き込む。女の子の手と口につけられた縄をすぐにほどく。
顔をよく見ると、肌が白く大きな瞳で美しい顔立ちをしていた。
「あんた……、誰かしら?」
「たまたま、通りかかった『平民』さ」
「たまたま通りかかった『平民』はこんなところにいないわ」
「俺のことはいいから、走る準備をするんだ」
俺は相手の足音に集中する。塀の反対側の二方向から近づいてくるのがわかる。
一人は足を止め、こちらの出方を伺っているようだ。
「男たちが俺の方に意識を集中させたら、表通りまで走るんだ」
女の子に指示をする。
「あんたはどうするわけ?」
「俺はどうでもいいんだ。表には騎士も何人かいるだろうから、助けを求めろよ」
俺はそう言って、塀の上から敵のいる側へ飛び込む。すかさず足を止めた一人の頭部に拳を叩き込んだ。
「うぐっ……」
やはり拳での一撃ではたおれなかった。攻撃を受けた男が反射的に剣をふりかざす。
その攻撃は大振りだったので、簡単によけられた。
攻撃した後、相手には大きな隙ができる。
俺はその隙を見逃さず、相手が剣を握った手を絡めとり、そのまま曲げた。
「あがぁぁぁぁぁ……」
男の腕は人の可動域をこえて曲がった。
男が出した奇声を聞いたのか、他の二人も俺の方へ向かってくる。
後ろを見ると、女の子は街の方へと駆け出していたので安心する。
「このガキ! よくも仲間をやってくれたな!」
斧を振りかざしてくるが、出されたのは腰すら入っていない単純な攻撃であった。
「こんな力でよくも女の子を誘拐しようとしたな」
もっともこの賊達がレイヤ並みの速さやアレン並みの力を兼ね備えたとしても、俺からすれば状況は何も変わらない。
カウンターで屈強な男に本気のアッパーを入れる。男の身体は浮き上がり宙に舞った。落ちてきたところで、頭部に蹴りをお見舞いする。
「女の子を誘拐するって、お前らどこのもんだ?」
倒れこんだ男の頭を掴みながら最後の一人に問いかける。
「お前に教える筋合いはない。殺すぞ!」
最後の一人が剣を構える。
「教えてくれないなら、お前も倒すか」
「俺にはGCが付与されているんだぞ! 驚いたか!」
貴族の子供を誘拐して、GCの付与を無理やり行わせたのだろう。
「だから何だ? 早く強いところを見せてみろよ」
俺も本気で構える。アバロンから受けた攻撃の痛みは、戦いの高揚感で消えていた。
「よく見たらお前、『平民』の騎士候補生じゃないか! 笑わせてくれる!」
騎士試験があるおかげか、この辺りの人間には俺の顔は割れているようだ。
こんな賊まで俺のことを知っているとは驚きだ。
「そうだ。お前の言う通り俺は『平民』だ。だからどうした?」
「そうと分かれば簡単に倒してやる! 逃げるなら今のうちだぞ小僧!」
男はレイヤほどの速さで俺に攻撃を仕掛けてきた。おそらくGCでスピードが上がっているのだろう。
「GCと言ってもその程度か」
俺は、突き出された剣を軽くよけ、腕に攻撃を入れる。
相手はスピードが早い以外は、他の賊と大した違いはないようだ。
何度か、四肢を攻撃していると、男の顔は歪んでいった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
男が泣き叫んだ。
「そう叫ばれると、どっちが賊か分からないな」
最後の一人には首筋へ一撃を食らわせ意識を飛ばす。
倒れた三人を見降ろしながら、軽く一息つく。
騎士試験での敗北という嫌なイメージは消え去っていた。
すると、駆け出したはずの女の子が戻ってきていた。
「あんた、さっきの攻撃見ていたわ。ただものじゃなさそうね。 騎士かしら?」
「騎士に近しい存在だとは思うが、今回は運が良かっただけだよ」
「お礼は言わなからね。私はあんたに助けてもらわなくても一人で逃げられるのよ」
女の子はかなり強気な性格なんだろうか、俺にありがとうの一つも言わなかった。
「俺も別にお礼が言われたいから助けたわけじゃない。次からは気を付けるんだな」
俺たちは無言で表通りまで向かう。
「ここまでくれば大丈夫。また会う機会があれば、ご飯くらいはご馳走するわ」
「それはありがたい。今度はこんな暑苦しい出会い方ではなく、優雅に過ごしたいな」
俺がそういうと、人込みの方へ女の子は消えていった。
名前すら聞いていなかったが、これで良かったのだろう。
気が付くと、あたりは暗くなってきていた。機関長へは明日辞める話をしようと思いながら俺も帰路に就いた。
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