螺旋の恋歌
黒森 冬炎様御主催の「ソフトクリーム&ロボ~螺旋企画~」参加作品です。
『螺旋』と聞き、思いついたものをベースに、滅多に書かない詩のジャンルに挑戦しました。
と思っていたのですが……。
電車の中や職場で読む場合はお気を付けください。
くるり くるり
私と貴方は螺旋を回る
私が追うと貴方は逃げて
貴方が逃げると私が追って
止まる事なく回り続ける
くるり くるり
いつまでも追いつけないようでいて
その軌道は少しずつ小さくなって
突端で私達は一つになる
それは螺旋の必然
くるり くるり
ドリルのようなその突端が
貴方の壁に穴を開けたら
私と貴方の螺旋が合わさり
新たな世界が生まれるの
くるり くるり
円の軌道では交わらない
直線では交わっても離れる
螺旋の先 それは永遠
私と貴方の愛のカタチ
【女子高生アタック再び】
「どうですか先生」
「聞いているのはこの詩の感想ですか。それとも休みの朝から怪文書を読まされた私の心境ですか」
「私の愛に対する反応ですよ。ハグですか? キスですか?」
「ラブレターのつもりだったとは」
「だって先生、何度『好きです』と伝えても反応が薄いので、工夫してみたんですよ」
「君の行動力には驚かされます」
「ありがとうございます」
「褒めてはいないんですけどね」
【解説の時間】
「成程。先生は国語の専科ではないですから、解説が必要なのですね」
「私の国語力の問題ではないかと思いますけど」
「『私と貴方の螺旋』というのはDNAの二重螺旋構造の事で」
「一番際どい所から解説を始めましたね」
「新たな世界と言うのは二人の赤ちゃんの事で」
「際どいどころの話じゃありませんでしたか」
「本当は壁の部分も、先生のドリルで私の純潔に」
「おっさん向け官能小説のようなフレーズを口にするのはやめて頂きたいですね」
【かかったな! そいつはブラフだ!】
「こんな誘惑かどうか微妙な行為の理由は何ですか。私達は清い関係を条件に、叔父さん夫妻と学校から交際を認められたはずでしょう」
「清い関係……? あぁ、それは先生のガードをこじ開けるための方便です」
「……それが虚偽なら、私も君も学校を去らねばならないのですが」
「実際は、理事長も校長も私の熱い説得で、『結婚しようが子どもができようが、解雇も退学もしない』と念書を頂いています」
「職の安泰に若干胸を撫で下ろしましたが、教育に携わる者の誇りは失われたのですか」
「半日がかりでしたが頑張った甲斐がありました」
「理事長。校長。詰った事をお詫びいたします」
【螺旋のもたらす結末】
「ではいざ二重螺旋のように絡み合いましょう」
「そうはいきません」
「靴を履いてどこに行くおつもりですか。ここが先生の家である以上、帰る場所はここしかありませんよ」
「君が螺旋で迫るなら、私も螺旋で逃げるまでです」
「螺旋……。階段で階下の私の家に? しかし両親は既に説得済みですが」
「叔父さんと叔母さんにこの詩を見せたら、二人はどんな顔をするでしょうね」
「先生! それだけはやめてください! 代わりに私の身体を好きにして構いませんから!」
「首根っこを掴んで放り出すのは、好きにするのに含まれますか?」
「ごめんなさい」
【真実はいつも一つ】
「全く、今回は何を焦っていたのですか」
「だって先生、婚約して昔のように家に上げてくれるようになったのに、手も握らないですし、合鍵もくれないですし、八時には帰らせられるじゃないですか」
「健全な交際ですから」
「一時的に婚約して安心させて、その間に私を遠ざけようとしているのではと不安になりまして……」
「……君は心配性ですね」
「今間がありましたね。それに否定しなかったという事は」
「心配を取り除かないといけませんね」
「やっ! ずる……、あぁ! 頭、撫で撫で、ずる、あぁ、もっと……!」
【こうかは ばつぐんだ!】
「はぁ……。ひあわへぇ……」
「安心しましたか」
「……はひ……」
「ちゃんとお家に帰りますね」
「……はひ……」
「何故帰ると言いつつ、ソファに寝転がるのですか」
「……わらひのお家はこの家れすぅ……」
「馬鹿な事言ってないで立ちますよ」
「へんへぇ……、こひ、ぬけひゃった……」
「一分頭撫でただけでまさかそんな」
【そして二人は螺旋を降りていく】
「……先生、重くない、ですか?」
「赤ん坊の頃に比べたら重くなりましたね」
「……意地悪です。そうやって赤ちゃんの時から見てる事を殊更にアピールして……」
「事実ですからね」
「……婚約、迷惑でしたか……?」
「十三も歳が離れた婚約、喜ばしくはないですね」
「ごめんなさい……」
「でも君の泣き顔を見るよりはよっぽど良いです」
【そして突端はまだ遠く】
「先生! それは『君の涙を僕が側で一生拭ってあげるよ』というプロポーズですね!?」
「少し優しくしたらこの返しですか」
「お礼にぎゅっと胸を背中に押しつけてあげます!」
「二宮金次郎の気分が味わえて良いですね」
「成程、ではこの姿勢で私が本を持ちますので、先生の両手は私のお尻を支えてくださいね」
「デリカシーのない返しすらプラスに変える、君のその強さだけは見習わないといけませんね」
「ありがとうございます」
「褒めてはいないんですけどね」
読了ありがとうございます。
はい。以前書きました、『【四コマ漫画風小説】先生、結婚してください』
https://ncode.syosetu.com/n7587gu/
の続編です。
黒森 冬炎様、飛び入りの参加で失礼いたします。
他の方の企画参加を見て、詩を書き上げたは良いのですが、あまりの出来に素面で投稿する勇気がなく、アレンジして女子高生のラブレターに仕立てました。
この二人のやり取りは書いていて楽しいのですが、話を考えるのと言葉選びに時間がかかるのが難点ですね。
少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。