表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

機械学習

作者: 星満 望

「脳記憶学を研究してきた成果がようやく完成する」


 白髪で白衣を着た男は、つぶやく。手にはUSBメモリのような小さな物がある。もっとも、読み取り口の先端は鋭利に尖っている。


「この脳学習装置は、脳に直接挿し込み情報を書き込むことができる。つまり、勉強しなくても何でも一語一句覚えたいことが覚えられるようになるのだ」


 男は興奮していた。最終実験のための被験者はすでに隣の部屋で待機している。被験者の経歴などが書かれた資料に目を通す。


「どれどれ、IQは平均的だな。勉強も平均的にできる。素晴らしい、これほど平均的な者がいるとはな。良いデータが取れるだろう」


 男は、被験者のいる部屋に向かう。脳学習装置には、データはインプット済みである。被験者にこれからの実験の説明を始める。

 

「今から君の脳に直接この脳学習装置を挿し込み情報をインプットする。情報の中身は大学入試に必要な科目のすべてだ。インプットが上手くいけば、君に解けない入試問題はなくなる。痛みは感じないから安心しなさい」


 被験者は、横になるわけでなく座ったまま、脳学習装置を挿し込まれる。データのインプットにかかる時間はカップ麺の待ち時間とそう変わらなかった。被験者は、男に尋ねる。


「本当にこれだけで賢くなるんですか?実感がわかないです」


 被験者の心配を他所に男は数枚の紙を渡す。


「とある大学の入試問題だ。今から解いてくれ。実感がわかないのは記憶が完全に馴染んでないからだ。直に馴染むから心配するな」


「分かりました。解いたらこの被験も終わりですよね?」


「あぁ、そうだ。君が良ければ、追加でインプットしてもいいのだが」

 男は少し残念な表情を浮かべた。被験者は、問題に取り掛かり始める。

 被験者は、怒涛の勢いで次から次へと問題を解いていく。見たことがない問題が、まるでずっと知っていたかのように知識が湧き出てくる不思議な感覚であった。


「解き終わりました」


 被験者は、男に解答用紙を渡す。


「設定されている解答時間の半分も使わなかったな。すぐ採点するからな」

「ほんとに、不思議な感覚なんです。上手く言葉にできないですが、問題見ても既視感があるというか……」


「ほら、見てみろ。満点だ、国内で最難関な大学の過去問だったがな」

 満点の解答用紙を被験者に見せながら、男は笑顔になった。


「成果は十分に確認できた。次の学会で発表だな、皆が驚く顔が目に浮かぶ」


 数週間後


「……脳学習装置の効果は…で…だ。被験者データは……」

 私は学会での発表を終えた。それにしても、反応が鈍かったような気がするが、あまりの衝撃に言葉が出なかっただけだろう。


「博士、ご無沙汰しております」


 私の元助手が声をかけてきた。私と研究の方向性が合わず去っていった者だ。元助手は、機械工学と電気工学のスペシャリストで脳学習装置のハード面で開発を手伝ってもらっていた。私はあいにくの機械オンチでソフト面は作れても、研究がなかなか進歩しなかったのはそのためである。


「今さら、何の用だ。こっちは、脳学習装置の発表が終わったところだ。歴史が変わるからな」


 元助手は、博士の話を遮る。


「何を仰ってるんですか?私の発表見てないでしょう。博士の詰め込み学習の延長の古い機械ではなく、脳と情報サーバーを繋ぐシステム、そう、アカシックレコードです。わざわざ、記憶可能量が決まっている脳にデータを書き込まずとも、必要な情報を使えるんですよ。もちろん、博士の脳学習装置の欠点も克服してます」

「な、なんだと。あれは欠点はではない…」

「博士、負けを認めましょう。脳学習装置は、事前に情報を入力しないと使えない。でも、アカシックレコードなら、情報サーバーが情報を収集精査してくれます。いつでも、フレッシュな情報ですよ」

 私の発表が終わった時の反応が鈍かったのは、この元助手のせいか。ちくしょう、なんだって私の邪魔をするんだ。

「もういい、私は帰る」

「博士、お身体にはお気をつけてくださいね」


 博士は会場を後にした。元助手は、博士が帰るのを見届け助手に愚痴を始めた。


「博士の脳の記憶に関する研究は素晴らしいんだ。だが、あの脳学習装置では、人格の書き換えも可能になってしまう。決断する能力も落ちるだろし、テストだってただの模範解答写してるだけなんだ。人格を書き換えられる欠陥は機械オンチの博士に伝えても理解してくれなかった。世に出てしまうと悪用されるのが目に見えている」

 元助手の助手は頷く。

「それで、未完成のアカシックレコードを無理矢理発表したんですね。あんな、パソコンやスマホで検索したほうが速く、負担も費用もかからないシステムを」

「そうさ、博士の研究を止める最終手段だったのさ。博士がもしアカシックレコードの開発に協力してくれれば完成するだろけど、機械について学習することを嫌がるんだ」

「博士は機械オンチって言ってましたもんね」



 博士は自宅に帰り着き、脳学習装置を床に叩きつけた。

「何がアカシックレコードだ。欠点を克服だと、くそっ。見ておけよ、あいつめ」

 博士の手には1冊の本があった。タイトルは機械学習(コンピュータ入門)であった……。

個人的には、脳学習装置普通に欲しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 単調な作りで読みやすい。 [気になる点] オチかたが分かりにくい。 [一言] 星新一風に書いたんですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ