ウサギの村に女神降臨
野兎の巣穴って、地面に穴を掘ったような形をしている。
バニーガール達が住む村も洞穴だらけだった。斜面を整地してそこに穴を掘り、その中で暮らしているらしい。
私が村に近付くと、見張りらしきウサギの獣人達に一斉に弓矢を向けられた。バニーガールが説明して、直ぐに降ろされたけれど。
すまない皆も過敏になっているんだ、とバニーガールが謝った。弓矢を構えた見張りの人達も、丁寧に頭を下げる。
真面目なウサギさんが多い村だね。まあ、私は女神で心が広いから許してあげましょう。
私が村に来た事は直ぐに村中に広まったようだ。村人達がわらわら、と洞穴から出てきて私を見ている。その村人達にバニーガールが私の事を説明していた。
それよりも、私は此処にウサギの獣人の他に普通のウサギが沢山いる事の方が気になった。流石はウサギの村というか、互いに共存しているらしい。私がそんなウサギ達を慈愛の眼で見ていると、子供達が私に近付いて来た。
「お姉ちゃん、本当に女神様なの?」
「クロウサ、とっても大きくなったね。これもお姉ちゃんがやったんだよね?」
「すごい、私もクロウサみたいに大きくなれるかな?」
「お姉ちゃんみたいな綺麗な人、僕は見た時ないや」
何処の世界でも子供は純粋で可愛い。特に最後の子、実に素直で素晴らしい。将来はきっと出世するでしょう。女神様が保証します。
「こんばんは、元気だね。私は女神のミチルだよ、よろしくね」
私がクロウサから降りて、自己紹介すると次々と子供達も自己紹介をする。ウサリィにウサシにウサミヨにウサキ、みんなウサが付くんだね。
ちなみに出世するのはウサキです。絶対に社長になると思うので、皆さん今から媚びていた方が良いですよ。
「お姉ちゃん、飛べるの?」
ウサリィが私の翼をジッと見ながらそう聞いてきた。
「勿論、私は女神だからね」
私が背中の翼を広げて宙に舞うと、子供達だけではなく村の大人たちからも感嘆の声があがった。凄い、飛んだぞ、美しい、とか声が聞こえてくる。これは実に気持ちいい。まるで女神様になった気分だ。いや、本物の女神様なんだけれど。
「おい、そろそろ降りてきてくれ」
私がそんな風に悦に浸っていると、バニーガールが現実に引き戻してきた。
こいつめ、邪魔をしやがって。
「すまないが、村長から話しがあるようだ。来てくれないか」
私が渋々地面に降りるとバニーガールはそう言ってきた。村長との対面とか、王道の展開だね。同時に絶対に厄介事を頼まれるパターンだ。まあ、この村に招待された以上は仕方がない。それに断るのは女神らしくもないしね。
子供達に手を振って、私はクロウサと共にバニーガールの後を付いて行った。村長の家とか普通は他よりも立派だけれど、全て洞穴だから違いが分からない。
これって、みんな自分の家が分かるのかな?
今帰ったぞ、あ、間違えました。とか、なりそうだけど。表札とかもないしね。
それと洞穴の前に立って分かったけれど、図体の大きいクロウサが入れない。寂しそうに鳴くクロウサの頭を撫でて入り口の前に待つように言い聞かせ、私はバニーガールと二人で中に入る事にした。
バニーガールは迷いもなしに進んで行く。穴の中はそれなりに広くて通気性も良さそうだ。一本道ではなく、左右に通じる道もあちこちにある。その内の一つを覗くと、物置のような部屋が見えた。農具やよく分からない仮面なんかが積んである。
一番奥の部屋に、村長はいた。見るからにお爺さんだ。白髪頭で白髭を蓄えたお爺さんが、ウサ耳にウサギの尻尾を生やしているのは何とも言えない光景だが、それには触れないようにした。私だって、人の事は言えない格好をしているしね。良いんだ、此処は異世界なのだから。
「申し訳ありません、足腰が悪いものですから出迎える事も出来ずに。儂がこの村の村長をしておりますウサジィですじゃ」
そう村長は自己紹介したので、私も同じ様に返す。分かり易くて良い名前だけど、この人は子供の頃とか若い時も、ウサジィと呼ばれていたのかな?それとも村長になるとウサジィ、ウサバァ、と呼ばれるだけなのかもしれない。
それにしても、質素な部屋だ。この村があまり豊かではないのか、この村長がそういう人なのか、最低限の物しかない。
村長はあまり身体の具合が良くないのか、布団に伏せたまま身体を起こして私と対面している。近くにはお子さんなのか、女の人がそんな村長の面倒を見ていた。彼女は私に会釈するだけで、会話に混ざって来る気配はない。
「貴女様がウサギ達を助けてくれた事は、此処にいるウサリーナから聞きました」
ウサリーナって誰だ、と思ったが話しの流れからこのバニーガールの事だろう。そんなお嬢様みたいな名前だったんだね。
「お陰様でウサギ達は無事だったようで、村の者達を代表して御礼を言わせてください、有り難うございました。何もない村ですがゆっくりと寛いでいってください」
「有り難うございます。御言葉に甘えて、今夜は泊まらせて頂きます」
「本当は歓迎の宴でも開きたいのですが、少し立て込んでいまして申し訳ありません」
言いながら村長は頭を下げた。
「いや、良いですよ。寝床があるだけでも有り難いです」
「本当に申し訳ありません。後はウサリーナが案内しますので」
本当に村長は具合が悪いらしく、女性がそのまま寝床に寝かせた。そんな状態でも私に御礼を言うのだから、とても真面目な人なのだろう。
身構えていたが、結局はただ御礼を言われただけだった。ウサリーナに連れられて村長の家を出る。外は既に日が沈み始めていた。