森の戦うバニーガール
私はウサギが好きである。それに女神だった。なので、森でバディウルフに襲われていた無実のウサギ達を救ったのだ。私の華麗な活躍で、ウサギ達は無事に救われた。殆ど、黒いホーンラビットがやってくれたのだけど。でも、私の僕がやったのだから私の手柄だよね。それだけ聞くと、何だか部下の手柄を横取りする上司みたいだけれど。
「手を挙げろ、さもないと撃つぞ」
バニーガールは相変わらず此方に弓矢を向けている。
ドラマに出てくる警察官かよ。大概、それを言ったら自分がやられるパターンだよ。
何故か私はこのバニーガールに悪者扱いされていた。なんでウサギ達を救ったのに、こんな扱いを受けなきゃならないのだ。バニーガールだって、ウサギみたいなものだろ。なんで仲間を救ったのに、この娘は私に矢を向けようとしているのだろう。そう考えると、段々と腹が立ってきた。こちとら女神だぞ。
しかし、私は寛容で大人である。此処は女神の余裕というもの見せてやろう。
「落ち着きなさい、哀れなウサギよ」
私はすこぶる落ち着いた声で、相手を諭すようにそう話し掛けた。
「私は女神のミチルです。この森で困っているウサギ達を救いに、地上へと舞い降りたのです。貴女と敵対するつもりはありません。なので、そのような物は降ろしなさい」
本当は先輩に無理矢理女神にされて、目覚めたらこの森にいただけだけど。ウサギを救ったのは事実だし、問題ないよね。
私のその言葉に、バニーガールは胡散臭そうな者を見るかのような顔をする。それはそうか、いきなり黒いホーンラビットに乗った女が私は女神です、とか言っても信じないよね。いくら格好がそれっぽいからって。
「どうせ付くのなら、もう少しまともな嘘を付いたらどうだ?」
はい、まさしく仰る通りです。ごめんなさい。でも本当に私は女神なのです。
「ん? なんだ、お前達」
警戒を解かずに弓矢を構えたままのバニーガールの足元に、あのウサギ達が集まって何かを訴えるように鳴いた。それにバニーガールは頷き、驚いたような表情をする。
え? 言葉分かるの?
まあ、確かに彼女はただのバニーガールじゃなくてウサギの獣人だろう。人間があんな格好をして森にいたら、いくら異世界でもただの変態である。獣人は人間よりも身体能力が高く、動物や一部の友好的な魔物に好かれやすくて、その言葉を理解する。
貴族の令嬢時代も、獣人には会った時がある。あの国は亜人の差別が重罪だから、他種族にも友好的だった。猫耳のメイドさんが王宮にもいた。臨時だったのか直ぐにいなくなっちゃったけど。
「……どうやら、お前の言っている事は本当らしい。この子達がバディウルフに襲われていた所を助けてくれたみたいだな。お前はこの子達の恩人だ、本当に有り難う」
誤解が解けたバニーガールは素直だった。弓矢を降ろして、頭を下げる。ついでに私を信仰してくれれば、女神の格も上がるから有難いのだけれど。説明してくれたウサギ達には感謝だ。本当ならもっと早く伝えて欲しかったけれど、まあ良いでしょう。後で頭を撫でてあげよう。
「分かってくれれば良いよ」
「本当にすまない。最近、森が物騒だから過敏になっているんだ」
「魔物もいるみたいだしね、仕方ないよ」
「それで、お前の乗っているウサギってもしかしてクロウサか?」
バニーガールは私を乗せたホーンラビットを見てそう聞いてきた。
クロウサか、と聞かれても知らない。喋れないのだもの、名前なんて知らないよ。
「クロウサ?」
「いや、すまない。最近になって森で見掛けるようになった黒いウサギだ。珍しい毛並みの色だからそうかと思ったのだけれど、クロウサはこんなに大きくなかった。やはり違うようだ」
「そのクロウサなのかは分からないけど、この子は元々この森にいた普通の黒いウサギだよ。それが私の僕になりたいってお願いしたから、こんなに大きくなっちゃったけど」
最初は無理矢理だったけれど、自ら僕になりたがったのは本当だ。嘘じゃないよ。
「なに、本当なのかクロウサ?」
「フシュ」
バニーガールの問いにホーンラビットは返事した。何を言ったのか私には理解できなかったけれど、バニーガールが納得したようだったから上手く伝わったのだろう。同時にこのホーンラビットは、そのクロウサとやらで間違いないようだ。確かに黒い野兎なんて、珍しいからね。
それにしても、クロウサって。このバニーガールが付けたのか、自分で名乗ったのか知らないけれどそのまんまじゃないですか。私が女子高生時代に飼っていた黒いウサギの名前も、ウサコだったからあまり人の事は言えないけれど。
「信じられないが、クロウサもこのウサギ達も嘘を付くようには思えない。バディウルフを退治して、クロウサをこんな姿に変えて臣従させるなんて、お前は何者なんだ?」
「言ったでしょ、私は女神だって。女神のミチルだよ」
女神様の言葉は信じましょう、と小学校で習わなかったのかな?
ちなみに女神の口調は面倒なので止めました。あんな先輩みたいな堅苦しい話し方、疲れるし私には合わない。女神だといっても私は私だ。
私の言葉にバニーガールは考え込むように難しい顔をした。
信じてください。そして、信仰してください。
「……真相はともかく、今夜は私達の村で泊っていってくれないか?」
少し間をおいて、バニーガールはそういう提案をしてきた。これは嬉しい。
「この近くに私達、ウサギの住む村がある。お前が本当にこの森に住むウサギを救いに来たのなら、是非とも力を貸して欲しい。そうでなくても、この子達を救ってもらった礼がしたい」
「ちょうど今夜泊まる場所を探していたんだ。御言葉に甘えようかな」
「よし、案内しよう」
バニーガールの後ろを、私はクロウサに乗ったまま付いて行った。
バニーガールはなんか森が物騒になっているとか、力を貸して欲しいとか言っていたけど、きっと大丈夫だよね。私にはクロウサもいるし、女神だし。うん、大丈夫だよ。