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ウサギ天国、終了と再会のお知らせについて

 今日も私は雲の上から下界の人々を見守っている。


「ほら見ろよ、今年も豊作だ。これもミチル様のお陰だな」


 農民達が嬉しそうに野菜を掲げながらそう話し合っていた。


「有り難うございます、ミチル様。我らが女神様」


 ははっ、くるしゅうない、くるしゅうない。


「おおっ、あの極悪人がミチル様に感銘かんめいを受けて罪を自白したぞ」


 凶悪そうな男が涙を流しながら、深くこうべを垂れていた。


「流石はミチル様。大いなる光りで悪を浄化された」


 ははっ、くるしゅうない、くるしゅうない。


「聞いたか、あの長らく争っていた二国がミチル様の啓示で戦争を止めたらしいぞ」


 人々は平和の再来に喜び溢れていた。


「ミチル様のお陰で、この世は愛と平和に溢れている」


 ははっ、くるしゅうない、くるしゅうない。


 私はとても気分が良かった。世界中の人々が私を信仰して、崇めている。もう私の名前を出すだけで、勝手に平伏してくれる。それを私はこのモフモフの雲の上から、ただ眺めているだけだ。非常に素晴らしい。良い女神ライフだね。


 しかし、この雲は本当にモフモフしている。それに黒くて大きい。


 よし気に入った。お前は今日から私の専属の雲だ。

 存分に私をモフモフさせるが良い。


 ははっ、くるしゅうない、くるしゅうない。


「フシュ、フシュ」


 黒い雲に鼻を押し付けられて、私は眼を覚ました。

 どうやらウサギに囲まれて気持ちよくなり、いつの間にか寝ていたみたいだ。


「なんだよ、人が気持ちよく寝ていたのに」


 とても気分の良い夢だった。きっとあれは予知夢に違いない。将来の私は、あのように世界中の人々から信仰されて崇められるんだ。そして、悠々自適に暮らす。


 辺りを見回すと、あの森の中だった。


 まだ明るいが、少し日は傾き始めていた。このままいけば日は沈み暗くなってしまう。夜の森は昼間よりも恐ろしい。野生の獣もそうだが、魔物も夜の方が凶暴な奴らが多い。それに暗くて足元も悪くなるので、夜の森はそれだけで危険だった。きっとこのホーンラビットもそれを知っていて私を起こしてくれたのだろう。


 私はまだ眠っている足元の三羽のウサギを優しく起こした。


 さて、これからどうしようか。


 日が沈む前にこの森を出るのが無難かな。こんな森の中で夜を過ごしたら、危ないに決まっている。あれ以外にもバディウルフはいるだろうし、他の魔物だって住んでいそうだ。森を出て、何処かの村に泊めてもらおう。女神だもん。一泊ぐらいはさせてくれるよね。


「フシュ」


 そう考えていると、また私に鼻を押し付けて屈んだ。そして自らの背を見る。


「なに、自分に乗れってこと?」


 肯定するようにホーンラビットは頷いた。

 うーん、ウサギの背中ってあんまり乗り心地とか良さそうじゃないんだよね。ウサギは後ろ脚の方が発達している。跳躍ちょうやくするように歩行するから、揺れると思うのだけれど。


「フシュ、フシュ」


 それでもホーンラビットがしつこかったので、私は仕方なく三羽のウサギを抱えてその背中に乗った。手綱もないし、捕まる所が何もない。耳を掴んだら流石に怒るだろうし、何より可哀想だ。そう考えている内にホーンラビットは動き出した。


 思ったよりも揺れない。それなりに揺れはするが、振り落とされない程度だ。ホーンラビットは器用に木々の間をすり抜けて進んで行く。


 いったい、何処に行こうとしているのか。聞いてもホーンラビットは喋れないから、分からない。人の言葉を理解するのだから、喋っても良いのに。まあ、流石にそれは要求し過ぎだろうか。


 それにしてもこのホーンラビットは、いつまでこの姿なのだろう。光りの付与は一定の時間しか相手を強化できないはずだ。それとも、女神のしもべになったら永遠と強化されたままなのだろうか。そこらへん、後でゴットパネルを開いて確かめてみよう。


 そういえば勢いでこのウサギ達を連れて来たけど、大丈夫だったのかな。このホーンラビットは私の僕になったみたいだし連れて行くしかないけど、このウサギ達は無関係である。助けた手前、そのままにするのもどうかと思うが、いつまでも連れ歩くのも大変そうだ。


 ウサギは好きだけど私は女神だし、ウサギの飼育員じゃない。このままじゃあ、ウサギの女神になってしまう。


 ウサギに囲まれ、信仰されて。毎日モフモフ。


 あれ? 結構、良くない?


 私がそんな夢うつつ状態になっていると、急にホーンラビットが歩みを止めた。


「ん、どうしたの?」


 まだ此処は森の中。日はどんどんと沈んでいく。早くこの森を抜けねばならないのだが、ホーンラビットは動こうとしない。


 どうした、ガス欠かな?

 そう思っていると私の手の中にいた三羽のウサギ達が急に飛び出して、木々を抜けて森の奥へと消えて行ってしまった。


「え?なに、この虚しさ……」


 確かにいつまでもあのウサギ達を連れて行く訳にはいかないと思っていたけど、こんなに急に挨拶もなしにいなくなると寂しいものである。ああ、さようなら私のウサギ天国。


「フシュ」


 ホーンラビットが私を慰めるように鳴いた。ああ、お前だけは私の味方だよ。


 私がホーンラビットの頭を撫でていると、足音が聞こえてきた。

 あのウサギ達が戻って来たのである。

 おかえりなさい、私のウサギ天国。とても早かったね。


 しかし、ウサギ達は変なのも連れて来た。


 バニーガールだ。頭からうさ耳を生やして、丸い尻尾を生やしたバニーガールがそこに混じっていた。正確には軽度な鎧を纏って、背中には弓矢と、腰には剣をいているから、森の戦うバニーガールである。怪しさ満点だ。見た目的には、歳は私と同じくらいかな。


 バニーガールは私に気付くと、咄嗟に背中にある弓矢を手に持ち、私に向けて構えた。


「なんだお前は、怪しい奴め」


 いや、貴女には言われたくないよ。

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