うわぁ、このウサギ強いよぉ……
なんなのこれ?
私はゴットパネルに浮かんだ文字に驚愕していた。
ホーンラビットって、この目の前にいる最初に私が光りの付与で魔物にしたウサギだよね。そのホーンラビットが、僕になりたがっている、ってどういう事だろう。というか、こんな事が出来るのだろうか。先輩は何も言っていなかったし、ゴットパネルにも今まで書いていなかった。
もしかしたら、特定の条件が達成されないと表示されないのかもしれない。急に『!』マークが浮かんだし、あれは条件が満たされていたから発動したのだろう。つまり、このウサギは自ら私の僕になる事を望んでいるのだ。
どうして?
私が力を与えたから、それとも仲間のウサギを助けてくれたから?
いずれにしろ、考えている暇は無かった。
眼の前のバディウルフは唸り声をあげて、今にも此方に掛かってきそうだ。
ゴットパネルには光りの付与の説明に、自らの信者には効果が高まる、とか書いてあったしもしかしたら僕にしたらこのホーンラビットはもっと強くなるかもしれない。
私は『はい』に触れた。
するとホーンラビットの身体は光りだし、さらに大きくなった。猪から大きめの熊ぐらいの大きさに、角も二股になりより鋭くなったような気がする。
それと湯気みたいに光りのオーラ的なものが出ている。ちょっと神々しいね。その変化にバディウルフ達は怯む。
「ブゥッ、ブゥッ!」
それを見逃すホーンラビットではなかった。一体をその鋭利な角で串刺しに、もう一体はその巨体で体当たりして転んだ所に圧し掛かった。二体とも暴れたが、直ぐに動かなくなる。
うわっ、強い。
なにこのウサギ、もの凄く強いのですけど。
「フシュ」
バディウルフを瞬殺したホーンラビットは、角に刺さった一体を遠くに放り投げて圧死させた一体から退くと私に向かってきた。いつの間にか光りのオーラは消えていたけれど、その鋭利な角には狼の血が付着したままだ。
なにこいつ、もしかしてやる気?
私は後退りした。しかし、まだ上手に身体が動かない。
「止まりなさい、私はご主人様だよ」
私がそう言うとホーンラビットは動きを止めて、不思議そうに首を傾げた。
やっぱり、このウサギには言葉が通じるらしい。何でかは分からないけれど。言う通りに止まった所を見ると敵意はなさそうだ。まあ、僕になったみたいだしそんな事はしないとは思っていたけどね。
でも、あの角怖いんだよ。血が滴り落ちているし禍々しいんだよ。
「ひゃっ」
目の前のホーンラビットに気を取られていると、急に足元に何かが触れて私は声をあげた。
足元を見てみると、先程のウサギ達が擦り寄っている所だった。光の付与の効果も薄かったからかもう頭の角は無くなっていて、普通のウサギに戻っている。
兎は白いイメージが強いかもしれないけれど、白くなるのは冬場で、しかも雪が降る地方だけだ。一般的に野生のウサギは、私の住んでいた日本では、茶色くて尾が短い。このウサギ達もそうだった。まあ、此処は異世界だから種類の違うウサギだろうけれど。現に、野兎は夜行性なのにこのウサギ達は昼間から活発に動いていた。
その擦り寄って来る姿が可愛らしくて、私はしゃがんで、三羽のウサギの頭を交互に優しく撫でた。本当に無事で良かった。前世でウサギを飼っていただけあり、私はウサギが好きなのだ。
「プゥッ」
私がそうした至福の時間を過ごしていると、あのホーンラビットが今までとは全く違う鳴き声を発してきた。あれはウサギが甘えている時の声だ。正確には、鼻を鳴らしているみたいだけれど。ウサギは犬や猫のように鳴いたりはしない。
ホーンラビットは地面に伏せて、そう甘えた声を発しながら此方を見ている。
なんだこいつ、自分も撫でて欲しいのかな?
私は立ち上がり、ホーンラビットに近付いた。
うっ、やっぱり角は怖い。でも、よく見ると魔物とはいえウサギはウサギ、可愛らしい顔をしている。このウサギは何故か他のウサギと違って、黒い。私が飼っていたウサギも黒かったし、何か親近感が沸くんだよね。
それに言葉は通じるし、何よりこのウサギは私の僕なのだ。何故、自らそれを願ったのかは分からないけれど。
私は意を決してホーンラビットに近付き、その頭を撫でた。
素晴らしい毛並み。なんだこいつ、めちゃくちゃモフモフしている。こんなに図体がでかいのに、もの凄くモフモフしている。いや、でかくしたのは私なんだけどさ。
思わず片手ではなく両手で、頭から頬に、顎に、横腹に、と全身で撫でまわしていた。
私は顔を綻ばせて、角の事なんか忘れて至福の時間を過ごした。ホーンラビットもまた嬉しそうに鳴いている。いつの間にか先程のウサギ達も足元に集まってきて、私はウサギに囲まれながらとても幸せな時間を過ごした。
バディウルフとの戦いで疲れた身体が癒されていく。
きっと、私はこの為に女神になったんだよ。
そうだ、そうに違いない。私は姿の見えない先輩に感謝した。




