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ウサギさんを苛める悪い狼

 あおい体毛に巨大な体躯、鋭い牙と爪に黄色い眼光をした狼の魔物バディウルフ。それなりに強いので、屈強な兵士でも一人で対峙してはならない相手である。


 そんなのが三体。それに対するのは新人女神と、か弱いウサギさん達。


 うん、かなり分が悪いよね。取り敢えずバディウルフがウサギに飛び掛かったので、私は光りの障壁を張って襲われたウサギを守った。淡い黄色い障壁は狼を遮り、その牙はウサギに届かない。これくらいなら破られる事はなさそうだ。


 防衛本能なのか、すかさずウサギ達は私の後ろに隠れた。

 

 私としては、そのまま逃げて欲しかったのだが。普通の女子高生と貴族の令嬢だった私は、魔物と戦った時なんかない。力が無かったのだから、襲われても逃げる事しか出来なかったのだ。


 なので、いきなりこんな狼の魔物を相手に戦うなんて無謀過ぎる。ウサギ達を逃がしたら、私も光りの障壁を張って逃げる算段だったのだけれど。


 獲物を目の前にして邪魔されたのを怒っているのか、バディウルフ達は気が立っていた。飛び掛かられる前に私は光りの刃を生成して、飛ばす。


 しかし、簡単に避けられた。この狼達、思ったよりも素早い。


 直ぐに三体で一斉に飛び掛かってくる。光の障壁を張り巡らせて防いだが、数枚も生成すると弱まるのか破壊された。私は咄嗟に兎達を抱え込んで翼を広げて上空に逃げた。


 このまま森の上空まで飛んで逃げようかな。でも、狼型の魔物ってしつこいんだよね。何処までも、何処までも獲物を追い掛けてくる。


 森を出るにしても、ウサギを連れだす訳にはいかないし、私だけ逃げたらこのウサギ達はいずれ食べられてしまう。それに意外と三羽も抱えると重い。いくら女神でも、私は女の子だ。ウサギといっても、そんなに長時間は抱えられない。


 だいたい、卑怯なんだよ。

 なんで此方は守る対象がいて一人なのに、そっちは三体もいるんだよ。そんなのが許されるのか、男らしくないぞ。雄か雌かも分からないけど。


 そこでふと、私はあの光りの付与をしたウサギを思い出した。


 今手に抱えているウサギ達も、あのウサギと同じ森に住んでいる野兎だろう。

 この子達に力を与えたらどうだろうか。


 ホーンラビット、バディウルフよりは弱い魔物である。それでもただ逃げ回るしか出来ないウサギよりは戦力になるはずだ。


 私はバディウルフから距離を置いた所に着地し、地面にウサギ達を降ろすと光りの付与を唱えた。あの時と同じで、とにかく強くなるように願いを込めて。三羽のウサギ達が光り出す。


 頭から角が生えた。

 しかし、大きさはそのまま。

 これじゃあ、ホーンラビットの幼体である。バディウルフには対抗出来ない。


「あれ、どうして?」


 三羽に一気に掛けたから、力が弱まったのだろうか。もしかして一気に三羽に光りを付与するよりも、一羽ずつ掛けた方が良かったのかもしれない。


 直ぐに、また掛けなおそうとした所で、身体に力が入らなくなった。極度の疲労感に襲われて、地面に倒れ込む。


 なんだこれ?


 もしかして、光りを出し過ぎて限界が来たのかもしれない。まだ私はなりたての女神で、信仰している者もいない状態。それで慣れない光りを使い過ぎたのだ。


 バディウルフの鳴き声が近付いて来た。

 不味い、このままではやられてしまう。


 ウサギ達を見ると、みんな私を心配そうにして寄り添っていた。いいから、私を置いて逃げれば良いのに。


「大丈夫、私は死ぬのに慣れているから。あなた達だけでも逃げて」


 ウサギ達に向かってそう話し掛けた。通じる訳ないのに。


 貴族の令嬢として一回目に死んだ時も、魔物に襲われて死んだっけな。あの時は怖くて怖くて、震えながら馬車の中に身を隠していた。護衛や従者、御者の人達はそんな私を必死に守ってくれた。それでも敵わなくて、私だけでも逃がそうとした。結局は、彼らも私もその魔物に殺されてしまったけれど。


 その時と同じで、ウサギ達は私を見捨てて逃げようとはしなかった。


 バディウルフ達の姿が見えると、その小さな身体を奮い立たせて私の盾となろうしている。


 このままじゃ、駄目だ。


 今は私がこのウサギ達を守る側なのだから。私は、女神だ。諦めてはいけない。


 気怠い身体を起き上がらせて、バディウルフに立ち向かう。光りの刃を拡散するように当てれば目くらましにはなるかもしれない。その隙にウサギ達と逃げて、今は時間を稼ごう。


 かなり分が悪い賭けだったが、これしかない。

 惹き付けて、放つ。私はその時を待った。


 しかし、その時が来る前に先頭のバディウルフが横に吹き飛んだ。


 それを見て、後ろを付いて来た後ろの二体も歩みを止める。


 私とウサギ達、そしてバディウルフ達の間を塞ぐようにそれは現れた。


「ブゥッ!」


 それはあの時、私が光りを付与して魔物にした黒いホーンラビットであった。


「もしかして、私達を助けに来てくれたの?」


 ホーンラビットは此方を向いて、頷いた。

 え? あれ、何気なく聞いてみたけど言葉が通じたんだけど。


 これはとても頼もしい援軍だ。しかし、一体は不意打ちでホーンラビットが倒してくれたけれど、あと二体残っている。数では此方が勝っているけれど、私は光りを行使し過ぎてボロボロだし、ホーンラビットもそもそもバディウルフより低級の魔物。幼体の彼らにいたっては、戦力になるかも怪しい。


 思案している私の眼前で、いきなり空中が光り始めた。


 目の前に黄色く『!』マークが浮かび上がる。


 これはゴットパネル。勝手に起動する事もあるんだ。触れると、こう文字が浮かんだ。


『ホーンラビットが、貴女のしもべになりたがっています。許可しますか?』


 さらにその下に『はい/いいえ』が並んでいた。

早速のブックマーク、★★★★★、有り難うございます。これからも頑張って更新していきますのでよろしくお願いします。

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