超絶合体『山羊キング』!
まるで小学生が遊びに誘うかのように、決闘の誘いを受けました。
お相手は小学生女子みたいな見た目の、邪神であるバフォメットさんです。
こんな見た目なのに、五億も彼女を信仰している人がいるみたい。
そんなにロリコンが多いのかな?
でも私だって女子高生。永遠の十七歳。
負けてられないね。
「ふふふっ、近くであんな戦いを見せられたら、余の中の邪神の血が滾るというもの」
ごめんなさい。負けです。
もう、山羊頭の悪魔なんてレベルじゃないよ。
ラスボスだよ、ラスボス。
成り立ての女神が戦っちゃいけない相手です。
しかも、私は山羊頭の悪魔と戦って光りをかなり消費している状態。
全力で100メートル走った後にフルマラソンやるみたいなものだよ。
「まさか、五億も信者がいる邪神様は手加減してくれるんだよね?」
「当たり前じゃ、余が本気を出せばこの世界が消し飛ぶぞ」
笑いながらそう言っているけれど、こっちは笑えません。
なんだよ、それ。神話に出てくる神様じゃん。
まあ、本物の邪神様なのですけど。
「ミチル様、私も戦います」
翼の戻ったクロウサが刀を抜いて構えた。
それは有り難いけど、良いのかな二対一で?
「良いぞ、力を合わせて掛かってこい。その方が美しいのじゃ」
よく分からない基準だけど、邪神の賛同を得たので良しとしよう。部下の悪魔とだって二対一で戦ったしね。
さあ、どう戦おうか。
相手は邪神。
見た目は子供、実力はラスボス。
でも手加減してくれるみたいだし、多分バフォメットはただ遊びたいだけなんだと思う。さっきのやり取りで分かったけど、この子は威張るのが好きそうだし。余の実力が分かったか、とゲームが得意な小学生みたいな事をしたいんだね。
よし、なら大人である私達が相手をしてあげましょう。
「こっちはいつでも良いよ」
クロウサから借りた小太刀を私は構えた。
なんかこれ、気に入ったんだよね。
私も武器を買おうかな? 素手で戦うよりカッコいいもの。
「ふふふっ、ではまずは小手調べじゃ」
そう言うと、バフォメットは片手を前に出して何かを唱えた。
バファメットの目の前に九体の白い山羊が現れる。
本物の山羊じゃなくて、魔法で形成された山羊だ。
とても可愛い。
そう思っていると山羊さん達が次々に組体操みたいに、ピラミッド型に重なっていた。
何をする気かな?
「今じゃ、合体!」
バフォメットがノリノリで叫んだ。
山羊さん達が光ったかと思うと、そこには巨大な一体の山羊さんが立っていた。
いや、初めからその姿で召喚する事は出来なかったのだろうか……
「行け、我が僕!」
バファメットが私達を指差してそう言い放つと、巨大山羊さんはこっちに向かってきた。
眼を見開いて、歯茎をむき出しにするというとても怖い表情で。
「ブシャアアアア!」
いや、山羊はそんな風に鳴かないでしょ。
もうあれは山羊じゃない、怪物だよ。
「ミチル様、お逃げください!」
クロウサが私を庇うように前に出た。
うん、だってあの山羊かなり強力な魔法だもの。
小手調べなんてレベルじゃないです。
あの山羊頭の悪魔も一発だよ。
「ダメだクロウサ、一緒に逃げよう」
悪いのは、手加減するとか嘘を付いたバフォメットだ。
私はクロウサの手を掴んで、逃げた。
でも速い。あの山羊、大きいのにかなり速い。
追いつかれる……
と、思ったところで巨大山羊の動きが止まった。
「ブシャアア……」
よく見ると、山羊の身体に光りの槍が何本も突き刺さっていた。
その槍が刺さった巨大山羊は、程なくして浄化されるように消えていった。
え? なにこれ、凄い。
でも、私は何もやっていない。クロウサも驚いている。
「まったく、御戯れが過ぎますよ、バフォメットさん」
「ふむ、ようやく出て来たか」
バフォメットが上空を見上げて嬉しそうに手を振った。
私も上空を見る。
そこには、背中から四枚の翼を生やしたミルクさんの姿があった。
「ミルクさん?」
「ミチルさん、クロウサさん、お怪我はありませんか?」
私達に向かってミルクさんとても優しい笑みを浮かべた。
その姿はまさに、女神のように美しく神々しかった。
思わず拝みたくなる。
「なにが、お怪我はありませんか、じゃ。ずっと見ておった癖に」
「あ、それは内緒ですよ……」
ミルクさんは可愛らしく人差し指を唇に当てたが、もう遅い。
聞いちゃいましたから。
「ミルクさん、その姿は?」
「うっ……あう、その……」
私の質問にミルクさんが戸惑っていると、バフォメットは代わりに答えた。
「そ奴は、ハルコの智天使じゃ」
「智天使? ミルクさんが?」
天使にも階級がある。
ゴットパネルにある、より高位な天使、というのもそういう意味だろう。
天使の階級は九つあるけれど、智天使、って確か上から二番目だよね。
「凄いじゃないですか、ミルクさん!」
私が尊敬の眼差しを向けると、ミルクさんは恥ずかしそうに頬に両手を当てた。
「うぅ……ハルコ様から正体を明かしてはなりません、と仰せられていたのに……」
「ふはははっ、残念じゃったな」
腕くみをしながら、バフォメットが高笑いをした。
この邪神、わざとこうなるように仕向けたな。




