表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/37

逃げ上手の女神、悪魔に制裁を下す

 山羊頭の悪魔の弱点は後頭部だ。


 此処に強力な一撃を与える事が出来れば、私達の勝ちだ。

 この悪魔は力があるが、動きはそんなに速くないし頭もそんなによくない。いわゆる、脳筋である。そんな脳筋にはもうクロウサの事など頭にはないだろう。


「あははっ、残念だったね。そのまま私の光りで浄化されれば良かったのに」


 私の挑発に、悪魔は顔を赤くして此方を睨み付けた。


「下級の女神の癖に吠える奴め!」


 悪魔は蝙蝠こうもりみたいな翼を広げ、私に向かってきた。


 ただでさえ動きが読み易いのに、頭に血が昇っているので真っ直ぐにしか此方に向かってこない。おそらくこの悪魔は、今までその有り余る力で正面からねじ伏せて来たのだろう。


 それだけ脅威的な力だけれど、此方が受けと守りに徹すればそうそう当たりはしない。


 悪魔が斧を振り回して来たら、避ける。

 避け切れない時は光りの障壁を張るか、小太刀こだちで防ぐ。


 これで十分だ。後は、タイミングを見計らう。


「くそっ、こいつめ!」


 段々と斧が当たらない事に悪魔は苛立ってきたようだ。


 そりゃ、それだけ分かり易かったらそうそう当たらないよ。


 これでも私は小学校の時のドッジボールで逃げ上手のミチル、として名をせた程だ。

 悪魔さんこちら、と歌いたい気分だった。


 さあさあ、当てられるものなら当ててみろ!


「ぐぉぉぉぉっ!」


 悪魔がやけくそになったのか、叫びながら斧をブンブンと振り回してきた。


 いやいや、そんな事をしたって当たらないから。

 近寄らなければ、どうという事はない。


 そう思っていたら、斧が飛んできた。


 音を立てて、飛んできた。


「うわっ!」


 だてに逃げ上手のミチル、と呼ばれていない。

 横に飛んで斧を回避する。ヒュンヒュンと斧は回転しながら、私の後ろに飛ぶ。


 分かっているんだ。こういう時は、大抵戻って来る。


 今度は下に下降して斧をかわす。

 斧はそのまま悪魔の手元に戻って来た。


「ちぃっ、本当にすばしっこい奴だ」


 下降したので、今度はまた悪魔に見下ろされる形になる。

 危なかった。ただ振り回す以外も出来るんだね。


 それはそうか、上級の悪魔みたいだし。戦いにも慣れているだろうし。回転させてぶん投げた武器って、普通は危ないからね。悪魔は平然とキャッチしているけれど。


 でも、お陰で良いポジションに着けた。


 また悪魔は斧を回転させて、放り投げてくる。

 同じように避けて、また私は下降する。


「ちょこまかと!」


 上空から悪魔が叩き落すように斧を振りかざしてきた。

 私はありったけの光りの障壁を一点に張って、その攻撃を防いだ。


 しかし、やはりそれでも悪魔の斧に障壁は破られる。

 でも、威力は落ちた。

 私はそのまま斧を小太刀で受け止めた。


 力勝負する訳ではない。力負けしたふりをして、地面に落下する。

 そのまま仰向あおむけに倒れる形になった。


 それを悪魔は追撃する。

 私は地面を転がるようにして、悪魔の攻撃を避けた。


 今だ!

 そのまま私は光りを放つ。


「光の刃!」


「馬鹿め、何処を狙っている」


 しかし、それは悪魔に当たらずその後ろに飛んで行った。


 まだ私は地面に背中をつけたままだ。


 悪魔が下種な笑みを浮かべたまま、此方に近付いて来る。


「下級の女神のわりには粘ったな、だがこれでお終いだ!」


 悪魔が斧を振り上げた。


 人間は勝利を確信した瞬間、最も油断する。


 それは悪魔も同じだったようだ。





「クロウサ、斬り捨てなさい」


「畏まりました、ミチル様」


 クロウサが悪魔の後頭部に向けて大太刀おおだちを振り下ろした。


 その大太刀には私が放った、光りの付与が込められている。


 鮮血が飛び、山羊頭の悪魔が私の目の前で倒れた。


「ぐはっ……馬鹿な……儂は、バフォメット様の……」


 いかにも悪役らしい最後の台詞だね。


 ふっ、中々の強敵であった。


「ミチル様、お怪我はありませんか?」


 直ぐにクロウサが近付いてきて、倒れていた私を起き上がらせてくれた。


「私は大丈夫だよ、クロウサこそ平気?」

「これくらい問題ありません」


 クロウサはそう言って笑みを浮かべたが、その片翼は斬り落とされたままだ。


 私が光りの治癒を行っても、それは回復できなかった。

 このままではクロウサは片翼の天使になってしまう。


「ごめんね、私がもっと信仰されて強い女神だったら、クロウサもこんなにならずに済んだのに……」


「そんな事はありません、これは私が未熟だったからです」


「違うよ。天使の強さは、仕える女神によって変わるはずだから。私、頑張ってもっとみんなに信仰されるようになるから。そして、いつか強い光りを使えるようになったら、クロウサの翼を治してあげるからね」


「ミチル様、そこまで私を……」


 クロウサの眼から涙が流れた。


 マズい、こうなったら私も泣いちゃう。


 こんなのだから、ウサリーナに泣き虫の女神、と呼ばれちゃうんだ。


 でも、涙は止まらなかった。

 そうして暫く、私はクロウサと抱き合いながら泣いた。


「素晴らしい、素晴らしいのじゃ」


 不意に、拍手が聞こえてきた。


 私は慌てて涙を拭い、その音のする方向を向いた。


 ヤバい、泣いている所を誰かに見られたかもしれない。


「余の悪魔を倒したのは勿論、その美しき女神と天使のきずなは最高じゃ。まさに絵になる。ふむ、これは良い題材を手に入れる事が出来た」


 そこにいたのは、山羊のような角を頭から生やした美しき少女であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ