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山羊頭の悪魔さん、弱点を教えてください

 眼の前の光景が信じられなかった。


 クロウサは死んでいなかったが、苦痛の表情を浮かべている。


 私は必死にクロウサに光りの治癒を行った。

 血は止まったが、その傷跡はあまりにも痛々しい。


 クロウサの近くに、時間を置いて斬り落とされた片翼が落ちる。


「ほう、儂の一撃から急所は守ったか。下級の天使にしてはやるな」


 上空で悪魔の呟きが聞こえてきた。

 クロウサは強い意志で眼を開いて、そちらを睨み付けた。


「くっ、この程度」


「ダメだよ、クロウサ」

 立ち上がろうとするクロウサを、私は止める。


「あとは私がやるから、大丈夫」

「いけませんミチル様、お逃げください」

「大丈夫、女神である私を信じなさい」


 私は女神スマイルをクロウサに向けて、その頭を優しく撫でた。


「ほう、逃げずに立ち向かってくるか面白い」


 悪魔は腕を組んだまま、余裕の表情で此方を見下ろしている。


 くそっ、こいつめ、よくもやってくれたな。


 私は久し振りに頭にきていた。

 私の大事な天使を傷つけられたのだ。もう頭に血が昇っている……訳ではなかった。


 自分でも驚く位に、私は冷静だった。


 相手はクロウサを一撃で倒した。ゴットパネルの表示からして、今の私達では勝てない悪魔なのが分かる。でも、此処で私が逃げたらクロウサも村の人々もどうなるか分からない。


 無闇に突っ込めばクロウサと同じ結果になる。


 ならば守りに徹して、隙を突く。


 幸いな事に、あの悪魔は人狼達みたいに油断している。

 おそらく上級の悪魔なのだろう。だからこそ生まれる油断だ。


「クロウサ、刀を一つ借りるね」


 落ちていた小太刀こだちを手に取り、そこに光りの付与をかけた。小学生の頃、お父さんに連れられてちょっとだけ剣道を経験した事がある。直ぐに投げ出したけど。


 その時の事を思い出し、小太刀を両手で構えた。


「なんだ、一丁前に構えてはいるが素人だな」


 悪魔はそんな私を嘲笑った。


「まあ、実際に素人だからね。でも、負けるつもりはないよ」


「ほう、その意気込みは嫌いではない」


「来い、悪魔め! 私の天使を傷付けた事を後悔させてあげる!」


 山羊やぎ頭の悪魔はニタリと笑みを浮かべて、斧を手に急降下して来た。


 真っ直ぐに私に向かってくる。


 軌道は分かり易かったので、私の近くに光りの障壁を一点に厚く張った。


「甘いわ!」


 しかし、それもあっさりと悪魔の斧で破壊された。


 それが狙いだ。斧は破壊力が凄いけど、大振りになりがちである。


 斧を振り下ろした瞬間、私は横に飛んで光りの刃を悪魔の横顔に放った。


「むぅ、やるな」


 光りの刃は直撃したけど、悪魔にはたいしたダメージを与えられなかったみたいだ。


 直ぐに体制を立て直して、此方に向かってくる。


 斧を大きく振り上げてから一気に振り下ろす。それを障壁で受けて防ぎ、破られるうちにかわして距離を取った。


 此処で分かった事がある。


 あの悪魔の一撃はかなりの高威力だけど、動きはそんなに速くない。


 クロウサみたいに此方から先制で攻撃を仕掛けない限り、避ける事が出来る。


 でも、同時にアグロンみたいに随分と堅いみたいだ。

 光りの刃を当てても、あの通り平然としている。

 というか、顔に当たってそれってどれだけ堅いんだよ……


 くそっ、悪魔って光りの魔法が弱点なのは常識じゃないか。それとも、相手とのレベル差があり過ぎてたいして効いていないパターンなのかな。


 他に、他に弱点は……


「戦いの最中に考え事か?」

「うわっ、危なっ!」


 相手の言う通り、考え事をしていて悪魔の攻撃に一瞬反応が遅れた。悪魔はすくい上げるように斧を振り上げたため、避け切れず、小太刀で受け止めて吹き飛ぶように上空に舞う。


「危なかった、クロウサの小太刀がなければやられていたよ……」


 悪魔の斧を受けても光りを付与された小太刀は傷一つ付いてなかった。何気にこの刀、かなりの業物なのかもしれない。先輩から貰ったとか言っていたけれど。


 しかし、飛んだね。

 気分はまるで打ち上げ花火だ。


 悪魔もクロウサも、村の様子もよく見える。


「ん? あれ?」


 そこで少し、悪魔のある部分が目に入った。


「なんか、抜け落ちてない?」


 今まで正面から対峙していたから気付かなかったけれど、悪魔の後頭部の毛がごっそり抜けていた。頭は山羊だから、当然毛が生えている。そんなにモサモサしている訳じゃないけれど、毛はある。なのに、後頭部だけ抜け落ちている。


 そういう髪型、とかいう次元じゃない。もう完全にストレスかなんかでなくなったという感じだ。悪魔もストレス社会なのかな。厳しい邪神から課されたノルマに苦しんでいるのかな?


「中々にしぶとい女神だな、不意打ちとはいえ儂に一撃与えただけある」


 悪魔は振り返り、上空にいる私を睨みながらそう言ってきた。


 あれ? 待てよ、あの悪魔に当てた光りの刃って……


「ねぇ、その光りって何処に当たったんだっけ?」


「決まっているだろう、儂の後頭部だ! お陰で毛は焼け焦げて悶絶もんぜつして転げまわり、後から邪神様に笑われたのだぞ!」


 悪魔さんはとても素直でした。


 そういえば、そんな事を言っていたね。


 これで確信となった。相手の弱点は後頭部だ。


 私は悪魔の後方にいるクロウサに視線を向けた。片翼を失って飛べなくなっても、私が光りの治癒で血を止めたのでまだ動ける。


 クロウサは分かりましたと言わんばかりに頷いた。流石は私の天使。


 よし、反撃の時間だ!

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