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それを与えないなんて、とんでもない

 どうやら相手に聖なる力を与えるには、それなりのコツがいるらしい。


 具体的にどのような力を与えるか想像し、相手に向ける。とにかく強くなれ、とか曖昧な気持ちで力を与えるとさっきのウサギみたいになるようだ。


 ちなみにこの能力は女神らしく、『光りの付与』と呼ぶ。力は力でも、神聖なる光りを与えるからだそうだ。


 そうだよね、何か悪役の親玉も力をやろう、とか言っているイメージがあるもの。あんなのと一緒にしないでください、という女神一同の抗議の結果なのだろう。


 それと、力を与えられるからといって何でもかんでも出来る訳ではないらしい。正確にはこれは相手の潜在能力を大きく引き出す能力らしく、例えばあのウサギがドラゴンになれ、とかは無理なようだ。


 極度の光りの付与は相手の身体に害を及ぼす。何事もやり過ぎは良くない。

 それなので女神様に会っても、いきなり最強にしてください、とかはいわないでね。女神のミチルとの約束だよ。


『それと、女神には聖なる魔法を操る事も出来ます』


 一通り光りの付与について説明を終えた先輩は、そう付け加えた。


「それって、光りの魔法ですか?」


 ファンタジーな世界では定番の魔法である。女神とか、天使とか聖女とかがよく使うよね。


『そうです。聖なる光りを持って悪なる敵より身を守る障壁、そして傷付く者を癒す光りの加護、最後に相手を裁く光りの刃。これらは当然、女神であるミチルちゃんは使えます』


「へぇ、どのように詠唱をすれば良いのですか?」


『女神が光りを司るのに詠唱など必要ありません。手を翳し、念じれば直ぐに出せますよ』


 先輩の言う通り、試しに手を翳して自分を包み込むようなイメージをすると、私の周りを淡い白色が薄く混ざったほぼ透明な壁が出来た。


 次に近くにあるしな垂れた花に向かって癒しのイメージをすると、明るい黄色の花を咲かせて元気になる。


 最後に細い木に向かって斬り付けるイメージをすると、光りの刃が飛んでそれを斬り倒した。


「おおっ、凄い。でも相手に聖なる力を与えるのには詠唱が必要だけど、光りの魔法は無詠唱で出せるのは凄いですね。相当高位な魔法使いでもない限り無詠唱なんて出来ないのに。まあ、女神だからそれは当然なのかもしれないですけど」


 私も異世界生活は十一回目である。普通に魔物やら魔法やらは身近なものだった。


 本来魔法とは、自然に漂う魔素と呼ばれるものを特別な素質を持った者が変換させて使用する力だ。より強力な物になると、精霊とかの高位な存在から力を借りる事になる。


 そもそも女神は光りの化身みたいなものだから、これくらい出来て当然なのかもしれないけど。


『別に、聖なる力を与えるのにも詠唱なんていりませんよ』


 先輩の言葉に私は首を傾げた。


「あれ、だってさっきのウサギに対して何か言わせませんでしたっけ? 我が名は女神のミチルとか……」


『あれは気分です。そっちの方が女神らしくてカッコいいでしょ?』


 この先輩はそういう女神である。感性を普通だと思ってはいけない。


「いえ、普通に恥ずかしいので私は無詠唱でやらせて頂きます」

『なっ、その方が信仰心を得られると思いますよ、ミチルちゃん』


 そんな訳あるか、と心の中でツッコんだ。でもこの先輩は今までそうしてきたのだろう。そういえば、先輩はどれくらいの信仰心を得ているのかな?


「ちなみに、信仰心を得ると何か良い事でもあるのですか?」


 先輩の言い分を無視して私はそう質問した。


『女神としての格が上がります』

「へぇ、ゲームで言うレベルアップ的なものですか?」


『まあ、だいたいそんな感じです。信仰心を得れば得る程、この世界での女神としての認知度が広まるのは勿論、光りの付与に関する負担を軽減したり、より多くの相手に強き力を与えられたり、光りを生成するのが強力になっていきます。逆に信仰心を失えば、それが弱まっていくのです。ミチルちゃんも頑張れば、転生者を新人女神にする事だって出来るようになりますよ』


 なるほど。女神にとって信仰心は自信の立場を良くする大切なものらしい。上がりもすれば下がりもする経験値のようなものなのかもしれない。上手くいけば一気に上がり、逆に下手すれば一気に下がる。上手にやれば私は楽が出来るかもしれない。


 ああ、この世界の全ての者が私に平伏さないかな。そうすれば、私はもうゴロゴロと寝ているだけで良いのに。


『では、そろそろ私は去りますね、ミチルちゃん』

「なっ、ちょっと待ってくださいよ。もっと手伝ってくれるんじゃないのですか?」


 いきなりの、帰ります宣言に私は驚く。

 先輩はお助けキャラ的なポジションだと思っていたからだ。もしくは指導役。どの世界でも新人には、そうした人がいるものじゃないのか。見習いが解けてようやく一本立ちさせるものでしょ、普通は。


『私も忙しいのですよ。そんなにいつまでもミチルちゃんの御手伝いは出来ません。それに、何事も自分で考えて、失敗をしながらも成功させるから人は成長するのです。女神だってそう。ミチルちゃんはやれば出来る子なのですから、応援していますよ』


 なんだそのブラック企業。

 私はまだ女神の目的と力の使い方しか聞いていない。


 信仰心を一人からも得ていないのだ。つまり、実戦はこなしていない。

 付き添いもなしに、いきなり外回り行ってこいなんて酷過ぎる。


「待ってください。美しくて慈悲深い先輩、せめてもう少しヒントをください」


 去ろうとしていた先輩の気配が止まった。


「お願いです、とても頼りになる先輩。もうちょっとだけ、もうちょっとだけで良いので、助けてください」


『……仕方ないですね、あと一つだけですよ』


 堕ちた。

 私は心の中でガッツポーズをした。だてにこの先輩相手に何回も転生していない。


『ミチルちゃん、目の前の空間に向かって画面を触るような動作をしてください』


 私は言われるままに空中を触る。すると、四角い透明な液晶のような物が浮かび上がり、そこに無機質に『メニュー』の文字が大きく書かれていた。


『そのメニュー、に触れてみてください』


 先輩の言葉に従い、『メニュー』を触る。すると画面は動いて、色々な文字が出てくる。『信仰者数』とか『女神の能力』とか。それ以外は『???』ばかりだけど。


『それは女神としての神具、まあ説明書みたいな物です。昔はこんな物なかったのですけどね、本当に便利な世の中になりました。それと、女神でなければ読む事は出来ませんので、奪われたりはしないと思いますから安心してください。本当は、ミチルちゃんにはこんな物には頼らずに私と同じ境遇で女神ライフを頑張って欲しかったのですが、仕方ないですね。まあ、私は慈悲深くて頼りになる先輩ですから』


 いや、これは真っ先にあげるべきアイテムでしょ。


 何を出し惜しみしていたんだこの先輩は。説明書だよ、説明書。必須アイテムだよ。

 粘って本当に良かった。


『それではミチルちゃん、今度こそ私は行きますね。たまには様子を見に来るので、それまでに貴女がどれくらい信仰心を得ているか楽しみにしています』


「はい、有り難うございました先輩」


 私は何もない空間に向かって頭を下げた。


 いや、改めて説明を受けても面倒くさそうだね。

 でも上手にやれば、数年で信者任せの楽な隠居暮らしになるかも。


 そう、この時の私は女神ライフを甘く見ていたのだ。

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