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シスターさんは、とても綺麗な眼をしていた

「この度は、申し訳ありませんでした」


 シスターさんが深々と私達に頭を下げた。


 上下白と黒のシスター服を着た、優しそうな女性だ。私達より少し年上で、二十歳くらいに見える。見た目も心も綺麗な人である。あの後、暴徒と化した村人達をこのシスターさんが説得してくれたのだ。シスターさんはこの村でかなりの信頼を得ているらしく、村人達は彼女の言葉に従ってくれた。


「いえいえ、助けて頂いて本当に助かりました」


 私は素直に礼を言った。


 此処は教会の中である。あの一つだけ大きな建物は、どうやら教会だったようだ。そこに私とクロウサはシスターさんに招かれた。奥の休憩室みたいな場所で、椅子に座って私達は向き合っている。


 この教会には他にも人はいるがどうやらこのシスターさんが一番偉いらしく、みんな彼女の言葉に従っている。それでも威張らず、シスターさんは皆に優しく笑顔で接していた。若いのに凄いね。


「ところで、御二人は本当に女神様と天使様なのですか?」


「当然です、此処におられるミチル様は偉大な女神様であられます。そして私はミチル様に仕える、天使のクロウサです」


 クロウサが私の代わりに答えて、自信満々に金色の腕輪を見せ付けた。シスターさんは腕輪に書かれた文字を読んで、頷く。


「なるほど、本当に御二人は女神様と天使様なのですね」


 うわっ、納得したよ。

 自分で言うのもなんだけれど、あれだけ村人から疑われていた女神と天使を、クロウサの腕輪だけで信じるって凄いね。このシスターさん、かなりお人好しみたいだ。


「申し遅れましたが、私の名前はミルク、この教会を任せられている者です」


「改めまして、私は女神のミチルです。それにしても、村人達は私達に対して随分と怒っていたみたいですけれど……」


 私の言葉にミルクさんは、また申し訳なさそうに頭を下げた。屈むと、胸が強調される。このシスターさん、クロウサに負けないくらい、胸がある。聖職者なのに、けしからんね。


「実は、この村では深く信仰する別の女神様がいらっしゃるのです」


「別の女神様?」


「はい。ミチルさんと少し似ているのですが、金色の髪に青い眼をした御方で、努力家でとても真面目な女神様です。五年前この村に舞い降りて、村を御救いくださったのです。この村で女神様と言えばその御方の事なので、村人はミチルさんに怒ったのかもしれません」


 なるほど、既に信仰する女神がいるのに、別の女神を名乗る者が急に現れたら怒るよね。日本では馴染みが薄かったけれど、信仰ってもっと根強いものみたいだし。一神教の人からすれば、神とは一人しかいない。それ以外はまがい者になってしまう。


 それにしても、ミルクさんの説明には引っ掛かるものがある。


「あの、その女神様って、最近の若い者は、とかよく言っていませんでしたか?」

「え? 確かに、そのような事をよく仰っていましたが」

「あっ、多分その女神様って私の先輩です」

「まあ、そうだったのですか?」


 ミルクさんは口に手を当てて驚いていた。


 というか、この部屋の壁にその女神らしき絵が飾られていた。間違いなく先輩だ。憎たらしい程、神々しく描かれている。


「ミチル様、あれは私を転生させた女神で間違いありません」


 クロウサが隣でそう耳打ちしてくる。そういえば、クロウサも先輩に転生されたんだったね。

 あの街道にあった不自然な立て看板、先輩が設置したのかもしれない。わざわざ先輩の威厳を誇示する為に、私をこの村に誘導したのだろう。なんという悪趣味。


「それならば、ミチルさんは女神ハルコ様の後輩にあたるのですね」


 ハルコとは、先輩の名前である。


 先輩も転生者であり、私と同じ日本人だったらしい。だから今でも私のいた世界の日本を偶に覗き込んでは、あまりにも可哀想な人を転生させる役割も担っているそうだ。


「そうですね、そうなりますね」

「それは素晴らしい事です。さっそく、村の皆様にお知らせしなくては」


 何故かミルクさんの眼が輝いていた。


 教会で働くミルクさんの後輩らしいシスターさんを呼ぶと、その事を伝える。その後輩シスターさんも同じ様に眼を輝かせて私を見ると、一礼して部屋を出て行った。


 いや、なにその眼の輝き。綺麗な眼で見られて眩しい。浄化されそうだ。


「なるほど、ミチル様があの女神の後輩であると村の者に知らせれば、もうあのような眼には遭いませんね」


 クロウサが納得したように頷いた。

 あっ、そうか。なんとなく意味が分かった。


「つまり、私は怪しい自称女神じゃなくて、村の皆が信仰する先輩の後輩女神である。そう知って貰えれば、私が悪魔だなんて根の葉もない、まったく根拠のない、ふざけた妄言も消し去るという事ですね」


「その通りです。本当に良かった、これもハルコ様の導きですね」


 そう言ってミルクさんは先輩に祈りを捧げた。


 いや、そもそもこうなったのは先輩のせいだから。先輩が勝手にあんなに信仰されていなかったら、私は今頃この村で女神として崇められていたに違いない。


 まあ、なってしまたったものは仕方がない。

 此処は先輩の名前を存分に借りるとしよう。


 そう私が考えていると、扉を叩く音がした。


「どうされましたか?」


 ミルクさんが立ち上がって、扉を開いた。さっき向かった後輩シスターさんがもう帰って来たのかな、と思ったけれど違った。


「ミルク様、どうかお助け下さい!」


 部屋の中に入って来たのは顔を青くした、若い女性だった。

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