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きっと、この村にはアルパカが住んでいる

『この先、アルフカ村』


 街道に書かれた看板を頼りに、私達はその村を目指す事にした。正直な所、他に向かうべき場所がなかったからだ。あの森を抜けて直ぐの所に看板は不自然に刺さっていたけれど、ウサギの村で、アルフカ村なんて名前を耳にした事はなかった。というか、もっと周囲の情報を聞いておけば良かったね。


 いや待てよ、此処にあの森に住んでいたウサギがいるじゃないか。


「クロウサ、アルフカ村って知っている?」


「申し訳ございません、ミチル様。私も転生したばかりで、この周囲の地理にうといのです。もしもミチル様が望むのなら、斥候せっこうとして調べて参りますが」


 なんだよ斥候って、戦でも始めようとしているのかな?


 ちなみに私達は、女神と天使らしく優雅に翼を広げて飛びながら向かっていた。

 本当に空を飛ぶのって気持ちいい。此処には遮る木々もないしね。


「いや良いよ、それなら一緒に行こう。私だけ待たされるのも嫌だし」


「しかし、見知らぬ村に無防備に向かうのは危険ではないでしょうか?」


「はははっ、大丈夫だよ。私は女神だし、そんな無下に扱われないでしょ。それに、アルフカ村って、いかにも平和そうな名前だもの」


 なんか、名前がアルパカみたいで可愛いよね。


 きっとウサギの村みたいに、沢山のアルパカがいる村なんだよ。

 アルパカって、テレビでしか見た時がないんだよね。あの毛並みもモフモフしてそうで、撫でがいがありそうだ。よし、沢山撫でよう。


「そうですね。もしもミチル様に無礼を働くようなら、私が斬り捨ててやります」


「いや、簡単に斬り捨てたりしないでね。ちょっとした事でそんな事をされたら私の評判が下がるし、下手したら犯罪者だから」


「はっ、肝に銘じておきます」


 真面目に返答したけれど、本当に分かっているのかなこのウサギは?

 まあ、ワフカの時も分別はしていたし多分大丈夫でしょ。


 そうこうしている間に、村が見えてきた。


 何処にでもある平和そうな村だった。普通に家々が並び、畑があり、村を守る簡単な囲いがある。近くに川が流れていて、作物の実りも良さそうだ。畑仕事に精を出す村人や、家畜の世話をする村人、街道沿いにあるから旅人相手に商売する者もいる。一つだけちょっと大きな建物があるが、それ以外は特に目立った物もない。


 こんな村に女神が舞い降りたらどうなるだろう。


 きっとみんな驚いて、私を信仰するだろう。

 だって、私は狼達を倒し、ウサギの村を救った女神だもの。悪魔だって私の天使が倒した、今一番に勢いに乗っている女神と言っても過言ではない。信仰されない訳がないよね。


「よしクロウサ、優雅にあの村へ舞い降りるよ」

「畏まりました、ミチル様」


 私とクロウサは村の上空まで飛ぶと、そこからゆっくりと下降した。


 その姿を見て、村人達が騒いでいる。どんどんと人が集まってきて、私達に注目が集まった。もしも此処が私のいた時代の日本だったら、スマホで写真や動画を撮られる所だったね。それで世界中に配信されて、信者爆上がりだ。


 この世界に勿論そんな物はないので、地道にこうして女神らしい事をするしかない。良い意味でも悪い意味でも情報伝達が弱い世界なのだ。


 そのまま村人達の輪の中に私達は降り立つ。人間だ。普通の、人間。なんか最近、ウサギとか獣人とか狼とか悪魔とかばかり相手していたから珍しく見える。でもこれが普通なんだよね。異世界でも、人間の数は他種族よりも多い。


「おはようございます」


 静寂せいじゃくの中、私は村人達に向かって挨拶をした。それだけでざわめきが起きる。おお、喋ったぞ、とか言われる。それは喋るよ。人をなんだと思っているんだ。


「あんたら、何者なんだ?」

 村人の一人が、そう質問をしてきた。


「私は女神、女神のミチルです。此方が天使のクロウサ。この村を救いにやって来ました」


 私は女神らしく優雅にそう挨拶をした。


 さあ平伏せ、と思ったが、村人達の様子が変だった。


 私が名乗り出た後に、みな顔を顰めて私達を怪しい者を見るかのよう眼で見てくる。なんだろう、ウサギの村でも初めはそうだったけれど、私ってそんなに女神っぽくないのかな?


「嘘を付くな、嘘を」


 もうお決まりのようにそう言われる。嘘だ、嘘つきだ、と連呼された。


 と言うか、何か様子がおかしい。なんかこの人達、怒ってない?


「嘘ではない。この御方は正真正銘、偉大なる女神様であられるぞ」


 私の隣にいたクロウサがそう言ったが、嘘だ、連呼は止まらない。


「いいや、嘘だ! 見た目からして怪しいとは思っていたけれど、まさか女神様を名乗るとは。さてはお前ら、俺達を陥れようとする悪魔だな?」


「そうだ、そうに違いない。おい、こいつらを捕まえろ!」


 その言葉と共に一斉に村人達が私達に向かって襲い掛かって来た。


 私に殴りかかろうとしてきた村人をクロウサが遮り、受け止めて投げ飛ばす。私も光りの障壁を張って、村人から身を守った。


 なにこれ? 完全に悪者扱いされていますけれど。


 というか、なんで女神を名乗っただけでこんなに怒るのだろう。過去に、女神女神詐欺にでも遭ったのかな?


「ミチル様、斬り捨てますか?」


 クロウサが襲い掛かる村人を相手しながら、そう聞いて来た。私を嘘つき呼ばわりして襲い掛かって来た事に対して、怒っているみたいだ。でも、直ぐにその選択肢に陥るのは止めてください。それじゃあ、本当に悪魔だよ。


「いや斬り捨てないから。取り敢えず、空に逃げよう」


 暴徒化して村人をいつまでも相手してられない。

 私達は翼を広げて上空に向けて羽ばたいた。


「止めなさい、何をしているのですか!?」


 私達が飛んで直ぐに、群衆の向こうからそう声が聞こえてきた。若い女性の声だ。その声によって、村人達の動きがピタリと止まる。


 宙に浮きながら、私はその声のする方を見た。


 そこには、見るからに優しそうなシスターさんが息を切らしながら立っていた。

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