おや!?クロウサの様子が……
朝、村人達とウサギ達が目覚めてから私は村を出た。みんなから見送られて、ウサウーや子供達、ウサギ達が泣いて、私も泣いて、後ろ髪を引かれながらもそのまま森を抜ける。
森の外は平地で、近くに整地された道が見えた。丁寧に看板も立て掛けられている。
「本当に良い村だったな」
悪魔娘、ワフカは私とクロウサと共に森を出ていた。勿論、彼女も村を出る際に泣いていた。本当に悪魔らしくない子だね。まあ、良い事だけど。
「それで女神、これからどうするんだ?」
そんな事を聞かれても困る。特に明確なプランなんかないからだ。
だって、いきなり女神にされたのですもの。
別に小さい頃からの夢でもなかったし。それなりに楽しんではいるけれど。
「特にこれといった目的はないから、取り敢えず色んな所を回ってみようかな。良かったら、ワフカも一緒に行く?」
なんだかこの悪魔娘は放っておけないんだよね。危なっかしいというか、また何かをやらかしそうで。基本的に良い子なのだけれど。
「いや、そうしたい気持ちはあるのだけれど、あまり帰らないと邪神様が心配する。邪神様はお優しいから、今もあたいを探しているかもしれない。勝手に出て行っちゃったし……」
勝手に出て行ったのか。それは心配すると思う。私だったら、張り紙を貼るね。この子犬を見たら女神まで連絡をください、って。
「あっ、でもちゃんと置手紙はしていったぞ」
「置手紙しても、心配しているんじゃないかな」
「そうだな……うん、一刻も早く帰ろう」
そう言うとワフカは私に頭を下げた。
「女神、デカウサギ、色々と世話になったな。女神と天使にも良い奴がいるって、今回の件で分かったぞ。機会があったら、邪神様を紹介しよう。とても良い方だから」
「分かった。気を付けてね、ワフカ」
「フシュ」
元気よくワフカは手を振り、去っていく。私とクロウサはそんな彼女を見送る。
……と思ったら、踵を返して直ぐに戻って来た。
あれ? 忘れ物かな?
「忘れていた、一つ言っておきたかったんだ」
「どうしたの?」
私はそう聞いたが、ワフカの目線はクロウサに向いていた。
「フシュ?」
クロウサは不思議そうに首を傾げた。
「デカウサギ、どうしていつまでもその姿なんだ?」
クロウサが首を傾げたまま固まった。
ん?
なんだ、どういう意味?
「いやねワフカ、これでもクロウサは三回も進化しているんだよ」
ただのウサギからホーンラビットに、もっと大きい姿に、そして天使の翼を生やして。ゲームだと最終進化までいっていると思うのだけど。
まだ成長の見込みがあるのかな?
クロウサの成長期は随分と長いんだね。
「いや、だって、どうしていつまでもウサギの姿なんだ? デカウサギは天使なんだろ?」
「いやいや、クロウサは天使でありウサギだから」
「それはあたいもそうだ。悪魔であり狼だからな」
そういえば、ワフカは自称狼だったね。どうみても子犬さんですが。
「あたいも邪神様に悪魔にしてもらうまでは、狼の姿のままだった。でも悪魔になったら、この姿になれるようになったんだ。確か、それは悪魔も天使も一緒だと邪神様は仰っていたぞ」
ワフカの姿を改めて私は見た。
犬耳と尻尾、悪魔の翼以外は人間と変わらない。
つまり、だ。ワフカの話しだと、クロウサも天使になった時点でそうなれたらしい。
「ブゥッ、ブゥッ!」
固まっていたクロウサが動き出し、いきなりワフカを鼻で押し始めた。
早く行け、とでも言いたげだ。
「わぁ、何をするんだデカウサギ!」
クロウサの巨体に小柄なワフカは徐々に押されていく。
うん、分かり易い反応ありがとうございます。
「ちょっと、クロウサさん」
私は女神スマイルをして、クロウサの背中を優しく叩いた。
クロウサの動きが再び止まる。
「お話しがあります、宜しいですか?」
ゆっくりとクロウサが此方に振り向いた。
すごく動揺している。こんなクロウサを見るのは初めてだ。耳を片方折りたたんで、片方立てたままで、眼は泳いでいた。
「貴方、ワフカみたいな格好になれるの?」
「フシュ……」
僕も天使も契約した女神には逆らえない。クロウサは観念して頷いた。
「そう、なれるんだね。じゃあ、その姿を見せて」
「プゥッ」
クロウサが、勘弁してくだせぇ……、とでも言いたげに擦り寄って来た。
「甘えても駄目です。良いから、命令です」
しかし、私は非情に徹した。
だって、クロウサが人間みたいになった姿が見てみたいもの。
なによりそうなれば、ワフカみたいにお喋りが出来るじゃないか。
クロウサとお喋り出来れば、これからもっと楽しくなる。
ウサリーナ達と別れて私は寂しかったのだ。
「さあクロウサ、女神のミチルの前にその正体を現しなさい!」
「フシュ……」
クロウサが光り出した。
そういえば、クロウサって雄と雌、どっちなんだろ?
年齢も分からない。
ワフカを見て、勝手に可愛い感じになると思っていたけれど、クロウサが雄で、それもいい歳したオジサンだったらどうしよう。
待てよ、クロウサはそれを危惧していたんじゃないだろうか。
ほら、遊園地やイベントで着ぐるみの中身は秘密のままでしょ。
その方が、みんなの夢を壊さない。
クロウサは私の夢を壊さないように、あえてウサギの姿のままだったのかもしれない。
それを私は無理矢理破ってしまった。
「待ってクロウサ、ごめん、私が悪かったから!」
キャンセルボタンは何処だ!?
光りが消えた。
そこにクロウサは人間のような姿で立っていた。




