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こうして、ウサギの村に平和が訪れました

 陽気な音楽が流れ、それに合わせて村人とウサギ達が踊っていた。私の隣では、クロウサが用意された山盛りの生野菜を美味しそうに食べている。私も優雅に椅子に座りながら果物を口に運んで、村の様子を眺めていた。


 これは山葡萄やまぶどうに似た果実だね。私の記憶では山葡萄って酸味が強かったけれど、これはとても甘くてジューシーだ。そのまま絞ってジュースにも出来る。


 今日はウサギの村で祭りが行われた。

 無事に狼達を退治して、脅威が去った事を祝う祭りである。

 同時に、私をこの村の女神として崇める為の祭りでもあった。


 村を見渡せる高い位置で、肘掛けの付いた椅子と大きな机、並ぶ美味しそうな料理、丁度良い木漏こもれ日、私を見上げる村人、仮面を被って一番はっちゃけている村長。


 うん、気分が良い。くるしゅうない、くるしゅうない。


「どうですか女神様、私が作った料理は?」


 ウサウーが近付いてきて、そう聞いて来た。彼女は意外な事に、かなり料理が上手だった。ウサギの村なので野菜が中心であるが、それでも種類が豊富でとても美味しい。


「うん、美味いぞ。でも、狼の悪魔であるあたい的には肉も欲しかったな」


 私の隣には、クロウサの他にあの悪魔娘も座っていた。あの後、どうしても村の人に謝りたい、と本人が希望したので、私とクロウサとウサリーナの三人と一羽で村を回ったのだ。村人達は直ぐに許してくれた。むしろ悪魔娘を気にいったらしい。素直で優しい子だと。だからこうして私の隣に座っても、誰も咎めない。


「そんなワフカちゃんにはこれです、ジャッジャジャーン!」


 そう言いながらウサウーは皿の上に乗った焼いたお肉のような物を出した。一見お肉のように見えるが、少し違う。でも美味しそうな匂いがする。

 というか、ジャッジャジャーン、って本当に言う人初めて見た。


「ウサウー、これって何?」


「これは、森のお肉、と呼ばれるキノコの一種です。見た目も触感も味もお肉によく似ていて、それでいて太り辛い、女の子の強い味方です。ウサギは草食なのでお肉は食べられませんが、どうしても食べてみたいという時に代わりにこれを食べるんですよ。私も悪ぶって、昔はよくこれを食べていました」


 私の質問にウサウーはそう答えた。


 色々とツッコミどころがあるけれど、食べてみると食感も良くてとても美味しい。悪魔娘も大満足したみたいで、おかわりを要求している。


 こら、食べ物を口に付けてはしたないですよ。

 仕方ないので女神様が拭いてあげましょう。


「うむむ、ありがとう女神。あたいも御礼に拭いてあげるぞ」

「あははっ、女神様も人の事が言えないんですね」

「いやウサウー、貴女もだよ」


 我慢できなくてつまみ食いしていたウサウーの口も、悪魔娘は拭いてあげていた。


 そうして終始祭りは賑やかな感じで続いた。


 ウサリーナ達による弓矢の的当て、ウサギ達による幅跳び競争、子供達の合唱、力自慢を決める腕相撲大会。そして、村長による火の輪潜り。

 いや、本当にこの村長、元お城仕えのお堅い兵士だったのだろうか。


 ちなみにあの人狼は人が変わったようにこの祭りに参加し、色々と手伝っていた。ウサリーナの言う事に直ぐに返事をし、飼い犬のように尻尾を振っている。いったい、何をされたのだろう。


「どうだ、祭りは楽しめたか?」


 祭りも終盤に差し掛かった頃に、ウサリーナが私の隣に来てそう言った。

 悪魔娘はクロウサを連れて何処かに消えているから、二人きりだ。


「うん、とても楽しかったよ」

「そうか、それは良かった。最近、村は狼達のせいで暗かったからな。これも全てお前のお陰だよ、ありがとう」


 ウサリーナが頭を下げた。本当に真面目な獣人だよ、このバニーガールは。


「私だけの力じゃないよ。村のみんなが私を信じてくれて、ウサリーナ達が協力してくれたからこうして平和になったんだ」


「初めは、信じてなんかいなかった。でも今でははっきりと言える、お前はこの村を救いに来た女神だ。近々、お前の銅像も建てるらしい」


「銅像なんて建てるの?」


「嫌か?」


「ううん、存分に私を崇めなさい」


 学校にある校長とかの銅像って悪趣味だと思っていたけれど、女神になって分かった事がある。あれは、気分が良い。是非、全身像でお願いします。


「ああ、そのつもりだよ女神様」


 冗談半分のつもりで言ったのだけれど笑顔でウサリーナはそう答えた。

 ウサリーナが、初めて私を女神様と呼んでくれたのだ。


「いつまでもミチルには、この村にいてもらいたい。でも、女神であるお前がそうする訳にはいかないだろ。だから、代わりに銅像を建てる。女神の加護を受ける為にな」


 今度は名前で呼んでくれた。それが本当に嬉しかった。


 ヤバい、泣きそうだ。


 私はただ、楽して女神ライフを送りたかっただけなのに。


 いつの間にかこの村を放っておけなくなって、ウサギを助けて、この村の為に頑張って、こうしてみんなから感謝されて。無理矢理転生されたのに。


 ゴットパネルが光った。

 そこにはこう文字が記されていた。



『ウサギの村を、女神ミチルの名の下に加護致しますか?』

 はい/いいえ



 いきなりだったし、それの効果は分からない。

 でも私は、迷わず『はい』に触れていた。




「明日にはこの村を出るよ。でも、私はいつまでもこの村を忘れないし、見守っている。この先、大変な事も辛い事もあると思う。でも、女神はそんな貴女達の味方です」


「随分と泣き虫な女神を信仰してしまったみたいだ」


 ウサリーナこの野郎、自分も泣き虫じゃないか。

これにて、ウサギの村編は終了です。次回から新展開になります。


お読みいただき、有り難うございます。続きが気になる、面白そう、と思った方は、ブックマークや★★★★★評価して頂くと励みになります。これからも頑張って更新していこうと思いますので、よろしくお願いします。

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