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私と戦いたいのなら、まずはこのウサギを倒してもらおうか

「なんだお前らは、怪しい奴め!」


 私とクロウサが悪魔娘に近付くと、開口一番にそう言われた。

 ウサリーナもそうだったけれど、まずは自分の格好を見直してほしい。


「この人は、女神のお姉ちゃんだよ」

 私が名乗る前にウサリィがそう説明してくれた。ウサリィは子供ながらに気の使える良い子である。


「女神? 確かにそれらしい格好はしているみたいだけれど、本物か?」

 怪しむような目つきで、悪魔娘はジロジロと私を見る。


「本物だよ。私は女神のミチル、そして天使のクロウサ」

「フシュ」


 私達が名乗ると、周りにいた村人が次々と同意してくれた。


 ふふふっ、もうこの村のみんなは私の信者なのだ。その声に悪魔娘は怯む。


「なにっ、こんな弱そうな奴とただのデカいウサギなのに、本当に女神と天使なのか?」


「本当だよ。なんたって女神のお姉ちゃんとクロウサは、狼達をやっつけたんだから!」

 ウサミヨがまるで自分の事のように自慢げに言った。ちなみにこの子はウサウーの妹である。


 その言葉に悪魔娘の顔色が変わる。


「お前らが人狼とバディウルフを倒したのか!?」

「そうだよ。村人にも手伝ってもらったけどね」

「どうして誰も報告に来ないんだとか、やけにこの村が平和そうだなとか思っていたけれど、まさか女神にやられていたとは……」


 確かバディウルフが二体逃げて行ったけれど、この悪魔娘を無視して森を出たようだ。あまり人望はないのかな? あの人狼も別にこの娘を庇おうとした訳じゃなさそうだったし。


「そういう事だから、大人しく帰りなさい」


 話しをした分だと、もうこの村は狼達に制圧されたと勘違いしていたみたいだね。なんか村人達もこの悪魔娘の事を変な子供としか認識していないみたいだし、このまま大人しく帰ってもらおう。面倒なのはごめんだ。


「……しろ」


 そう思っていたら、悪魔娘が何かを呟いた。


「え?」

「あたいと勝負しろ、女神!」

「嫌です」


 私は即答した。いやね、バディウルフとか人狼とかなら分かりますよ。でも、こんな小さくて可愛らしい女の子と勝負なんて、嫌だよ。弱そうだし、何か苛めているみたいじゃん。いくら相手が悪魔だろうと。


 それに、そんな事をしたら私の信仰数も減るかもしれない。

 それは何としても避けたい。


「ふざけるな、あたいが怖いのか? このヘボ女神!」


 明らかに安い挑発だった。いや、逆なんだけどさ。


 しかし、そんな中で前に出る者がいた。


「ブゥッ!」


 クロウサが何故かやる気満々だった。後ろ脚を蹴って、気合十分である。


 そういえばクロウサは天使だ。そして相手は悪魔。天使と悪魔で何か因縁があるのかもしれない。いや、クロウサはついさっき天使になったばかりだけれど。


「なんだこのデカウサギ、やる気か?」


 悪魔娘が身構える。そうだ、良い事を思い付いた。


「そうだね、私と戦いたかったらまずはこのクロウサを倒してもらおうか」


 私は腕を組んで悪役のボスみたいな事を言った。


「なんだと、どうしてあたいがこんなデカウサギと……」

「クロウサは私の天使。それにバディウルフと人狼も倒しているんだよ」

「フシュ!」


 クロウサがその鋭利な角を悪魔娘に向けると、彼女は怯んだ。


 クロウサは強い。きっと、私よりも強い。この悪魔娘には勝てるだろうし、それにクロウサなら絵面的に戦っても問題なさそうだ。子犬さんがウサギさんと戦うのだもの、むしろ微笑ましいよね。


「もしクロウサが怖いんだったら、止めても良いけれど」


 一応、挑発には挑発で返す。悪魔娘の顔がみるみるうちに赤くなった。分かり易いね。


「やってやるよ! デカウサギ、あたいと勝負しろ!」

「ブゥッ、ブゥッ!」

 二人が睨み合い、火花が散る。何故か周りの村人が盛り上がった。


「はいはい、盛り上がっている所に水を差すようだけれど村の外でやろうね」


 このまま始まりそうな勢いだったので、私はそう提案をした。ストリートファイトじゃないのだから、天使と悪魔が村の中で戦っちゃ駄目でしょ。物とか壊れたら弁償できないよ。私、一文無しだし。もしそうなったら、クロウサは皿洗いのバイトだね。


 意外とすんなりと悪魔娘はその提案を受け入れてくれて、みんなで村の外に出た。村人達も付いて来る。本当に野次馬感覚だ。


「おい、大丈夫か?」


 移動中、ウサリーナが話し掛けてきた。


「え、何が? クロウサなら負けないでしょ」

「そうじゃない。クロウサ、随分と怒っていたみたいだぞ」


 自ら進み出たのは、悪魔娘に怒っていたかららしい。きっと、あの子が私の悪口を言ったからだね。随分と主人思いな天使だ。よし、後で撫でてあげよう。


「それでクロウサがやる気になったのだから、良いんじゃないの?」

「それは構わないが、やり過ぎないか?」


 私はクロウサの鋭利な角を見た。いつにも増して、光っているように見える。もしクロウサが怒って、あの角で悪魔娘を刺したら……うん、ヤバいね。バディウルフとか人狼ならまだしも、それは流石に可哀想だ。


 人狼は悪魔に唆された、とか言っていたけれどなんかあまり悪そうな子に見えないんだよね。もっと悪魔だったら、いきなり村を襲うとかしそうだし。ただ村の入り口で大きい事言っていただけだしね。


「クロウサ、クロウサ!」


 私は慌ててクロウサを呼んだ。クロウサが立ち止まり、此方に振り返る。

 もう、戦うウサギの眼をしていた。


「クロウサ、分かっていると思うけれどちゃんと手加減してね」

「フシュ?」


 クロウサは不思議そうに首を傾げた。


「相手は悪魔でも子供みたいだし、殺しちゃダメだよ」

「フシュ」


 それくらいは分かっています、と言わんばかりにクロウサは頷いた。


「どうやら杞憂だったみたいだな」

 後ろからウサリーナが声を掛けてきた。


「半殺しで勘弁してやるらしい」

「それって大丈夫なの?」


 半殺しでも十分大変な事になりそうなんですけど。


「フシュ」

「冗談だそうだ、お前が困るような事はしないみたいだ」


 まあ、取り敢えず分別は付いているみたいで良かった。


 これで安心して二人の戦いが見てられるね。

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