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これが女神の力です

 鳥のさえずりがした。近くに水の流れる音がする。神秘的な光りが身体に注がれて、私は眼が覚める。辺りを見回すとそこは森の中だった。


 水の音の正体は、直ぐそこにある大きな泉。私は立ち上がってその泉へと足を運んだ。泉を覗くと、そこに私は映っていた。


 まずは髪。伸ばし過ぎると手入れが大変だから、肩の位まで適度に伸ばしたそれはあの女神様と同じで金色になっている。次に眼。純日本人だった私の茶色い眼は、同じく外国人のように綺麗な青色になっていた。そして衣服。純白な白い衣に包まれている。最後に、背中から白鳥のような白い翼が生えていて、意識するとそれを自由に動かせた。


 ああ、私は女神。女神のミチル。


 意味もなく翼を羽ばたかせて垂直に飛び、また地面に降り立つ。

 なにこれ楽しい。私はまた飛んで、降りてを繰り返した。


『なにをしているのですか、ミチルさん』


 それを何回も繰り返していると、私の頭の中にそう声が響いて来た。姿は見えないが間違いようがない、この声の持ち主はあの女神様だ。


「だって、何をして良いのか分からないのですもの」


『はあ、これだから最近の若い者は。世間ではそれを指示待ち人間と言うのですよ』


 指示待ち人間じゃない。私はこの翼で立派に飛んでいた。飛べと命じられる前に飛んでいた。


「いやでもですね女神様、いきなりこんな所に放り投げられて女神やれ、と言われても無理ですよ。そもそも何をして良いのか、何が出来るのか、何一つ分かりませんし」


 前までの転生先での目的ははっきりとしていた。王子様と結婚して幸せになる事だ。そもそも女神になれと言われても、女神が何をするのか分からない。貴方今日から女神ね、と言われて直ぐに順応する人がいたら見てみたい。


『そうですね。確かにそれはあまりにも無慈悲で酷であると思います。なので、ミチルさんの疑問である、女神の目的と能力を御伝えしたいと思います』


「有り難うございます、女神様」


 そもそも転生前にそれを説明しろよ、というツッコミはしないでおく。


『女神様ではなく、先輩です』


 早く説明して欲しいのだが、女神様の不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「はい?」

『ミチルさんも女神になったのですよ。なので、私を女神様、と呼ぶのではなく先輩と呼んでください。私の方が先輩なのですから』

「分かりました、先輩」


 面倒くさいと思いながらも、素直に従う。この先輩女神様はやたら頑固なので、こうした事は言う通りにしないと逆に面倒になる。それに女神に転生された以上、彼女の話しを聞かないと何も始まらないのだ。私がそう呼ぶと、先輩はとても嬉しそうな声を出した。


『ふふっ、素直で良い後輩ですね。では、そんなミチルちゃんに先輩である私が女神のなんたるかを説明致しますので、よく聞いてくださいね』


 さりげなく、さんからちゃん付けに変わったが私は聞き流す事にした。耳を大きくして、先輩の言葉に集中する。この話しは女神になった私にとって最重要事項なのだ。


『まず、女神の目的ですが信仰を得る事です。そもそも女神は信仰する者があってこその存在。誰からも信仰されなければ、存在意義がなくなってしまいます。ですから、私達女神の目的は多くの者を正しい道に導きながら、救済し、信仰心を得る事なのです』


「なんですか、つまり宗教的な団体を作れば良いのですか?ミチル教みたいな」


『まあ、それも目的の一つですね。そうした熱心な団体があれば、深く信仰されて女神の存在意義がより強固なものとなるでしょう。でも、それには注意も必要なのです』


「注意?」


『その宗教団体が清く正しい事を行えば宜しいのですが、時には女神の名を語り悪い事をする者達もいるのです。例えば創始者がミチルちゃんに感銘かんめいを受けて、正しい団体を発足させたとします。その者や周りの者は正しい教えを広めても、その者の跡を継いだ人や、派生した教会の者が悪い事をすれば、同時に進行対象であるミチルちゃんの悪評にもなってしまいます』


 なるほど、確かに神の名を借りて腐った事をする連中は幾らでもいる。

 俺達にはミチル様が付いているんだぜオラッ、とか私の名を勝手に使って悪い事をされたらたまったものではない。


「じゃあ、地道に悪そうな奴をぶっ飛ばしたりすれば良いんですかね?」

『なんですかその言葉遣いは、女神らしくありませんよ』

「……悪い人を成敗すればよろしいのでしょうか?」


 面倒くさいと思いながらも、私は言いなおした。


『悪なる存在を折檻せっかんするのは良き事です。しかし、それを直接的に行うのは正しくありません。我々は女神、悪しき者には善良なる者を立ち向かわせ、聖なる力、光りを与えるのです。ちょうどそこにいる小動物で試してみてください』


 いつの間にか私の近くには、黒いウサギが一羽いた。逃げる訳でもなく大人しく周りの草を食べている。普通は人を見れば逃げていくのだろうけれど、私は女神だから逃げないのかもしれない。


 良いね、ウサギ天国を作ろう。私は女子高生時代にウサギを飼っていたのだ。


「それで、どうすれば良いのですか?」


『両手を胸に当てて祈るのです。ああ、純朴なる正しきウサギよ、私が悪に打ち勝つ力を与えたもう。我が名は女神のミチル。さあ、悪に立ち向かうのです』


「ああ、純朴なる正しきウサギよ、私が悪に打ち勝つ力を与えたもう。我が名は女神のミチル。さあ、悪に立ち向かうのです」


 私は先輩に言われた通りに胸に手を当てて、そうウサギに向かって祈った。


 こんな小さな可愛らしいウサギなのだ。獰猛な肉食獣や魔物に襲われたら可哀想だ。ならば、私の力でこのウサギをそんな連中に負けないように、強くしてあげよう。そう願った。


 すると、ウサギの身体は光り出してムクムクと膨れ上がり、額からは徐々に鋭利な角が生えてきた。大人しくて小さかったウサギが、猪ぐらいの巨大な姿になる。今まで静かに草を食べていたのに、急にフシュッ、と声を荒げると森の奥へと凄い速さで消えて行ってしまった。


 なにあれ?


 え? あれって、魔物になったんじゃないの?

 私、女神なのにウサギを魔物にしてしまったの?


『これが女神の力です』


 先輩の凄い棒読み声が聞こえてきた。私は貴女に言われた通りにやっただけです。


「先輩」

『良いですかミチルちゃん、悪しきウサギを退治させるのも女神の務めなのですよ』

「分かりました、はい、分かりました」


 先輩の教えに私は素直に返事をした。

お読みいただき、有り難うございます。続きが気になる、面白そう、と思った方は、ブックマークや★★★★★評価して頂くと励みになります。これからも頑張って更新していこうと思いますので、よろしくお願いします。

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