まいごの、まいごの子犬さん
人狼の見張りをウサウー達に託して、私はウサリーナと共に洞穴を出た。ちなみにあのスープは捨ててある。どうやらアレは本当にウサリーナが作った料理らしい。
ウサリーナ、そんな属性があったんだね。しかも、それを恥じようともせずに尋問道具に使うとはなんとも彼女らしい。女の子としてそれはどうかと思うけれど。まあ、私も人の事は言えませんけどね。
「フシュ、フシュ」
洞穴を出るなり、クロウサが何かを伝えようと私に鼻を押し付けていた。
「どうしたの、クロウサ?」
聞いてみたが、私ではクロウサの言葉を理解する事が出来ない。
「どうやら、村の入り口で何かがあったらしい」
隣にいたウサリーナがそう通訳をする。そういえば、言葉を理解していたね。
ちょっと悔しい。どうして私の天使なのに、私はクロウサの言葉が分からないのだろう。
誰か、私にウサギ語を教えてください。
「取り敢えず、行ってみる?」
「そうだな、村の様子からして緊急事態でもなさそうだが行ってみよう」
私達は村の入り口に向かった。
クロウサを天使にしたり人狼を尋問したりしていたら、すっかり村人達の起きる時間帯になっていたようだ。村の入り口に向かう村人達は、興味本位で向かう野次馬のような顔をしていた。
この村ではすっかり私も有名人だ。擦れ違う村人が、みな頭を下げて挨拶をしてくる。
うん、本当にこの村を守って良かった。
あとは悪魔とやらが心配だね。
本当に悪魔って、どんな姿をしているのだろう。
馬とか牛の顔をした大男で、巨大な鎌とか持っていそう。うん、想像するだけで怖いね。どうせなら悪魔もウサギで良いのに。悪魔の翼が生えたウサギ。いやダメだ、それじゃあとても戦う事なんて出来ない。頭を撫でちゃう。
そんな事を考えていると前方に見知った二人を見付けた。
「あっ、おはよう女神のお姉ちゃんとウサリーナさん!」
「女神のお姉ちゃん、ウサリーナさんおはようございます」
明るいウサミヨが元気よく、大人しいウサリィが丁寧に挨拶をして来た。クロウサには挨拶代わりに頭を撫でる。翼が生えた事にも驚いて、カッコいい、と褒める。ちょっとクロウサは照れ臭そうに、フシュ、と鳴いた。
私達も挨拶を返す。今日はウサキ部長とウサシは一緒じゃないみたいだ。
「どうしたんだお前達、こんなに朝早くから?」
ウサリーナの顔は優し気であった。意外と子供好きなのかもしれない。
「あのね、ワンちゃんの女の子が来ているみたいなんだ!」
ウサリーナの疑問にウサミヨが元気よく答える。
「ワンちゃんの女の子って何?」
「犬の獣人さんだって、みんな言っていたよ」
ウサリィがウサミヨの言葉にそう付け加える。なるほど、犬の獣人の女の子がウサギの村にやって来たみたいだね。
「ウサリーナ、近くに犬の獣人の村なんてあるの?」
「いや、この森に私達以外の村はないはずだ」
だとすると迷子かな?
まいごの、まいごの子犬さんかな?
「ともかく行こうか。もともと向かうつもりだったし」
「そうだな、行けば分かる」
ウサリィとウサミヨも混ぜて私達は村の入り口の方に向かった。
そこには人だかりならぬ、ウサギだかりが出来ていた。村人の獣人達は勿論、ウサギ達も集まって見物している。
その先には、ウサリィ達の言う通り、犬の獣人らしい女の子が立っていた。茶色いボブヘアーで、頭から犬の耳、そしてお尻から犬の尻尾を生やしている。歳は小学生の高学年位かな。他に家族とかはいなそうだ。たった一人でウサギの村にやって来たみたいだね。
ただ、その犬の獣人の女の子はちょっと変だった。
「はーははっ、ウサギ共よ、あたいに平伏せ! さすれば命だけは助けてやろう」
いきなり初対面の人達に平伏せとは、なんと失礼な奴だ。
そんな失礼な行為だが、村人達はほのぼのと眺めていた。そうだよね、たった一人で小さな女の子がそんな事を言ったって本気にしないよね。
彼女の変な所はそれだけじゃない。格好もそうなのだ。
上下黒い衣服に、背中から蝙蝠みたいな黒い翼を生やしている。手にはよく分からない杖が握られていた。上端に小さい骸骨が付いていて悪趣味だ。
まるで悪魔娘のコスプレみたいだね。
うん、悪魔?
「ねぇウサリーナ、もしかして……」
「まさか、そんな訳ないだろ」
私が隣にいたウサリーナに話し掛けると、察したのか直ぐにそう回答が返ってきた。
あの子が人狼の言っていた悪魔かもしれない。
いや、でも想像していたのと全然違う。めちゃくちゃ弱そうだし。
うん、きっと違うよ。あの子はただの頭の痛い子犬さんです。
「ねぇねぇ、貴女は誰なの? お名前は?」
気付いたら、私達の近くにいたウサミヨがウサリィの手を引いて、その頭の痛い子犬さんに近付いていた。その質問に、子犬さんは明らかに口角を上げて嬉しそうに答えた。
「よくぞ聞いてくれた、あたいは悪魔だ。悪魔、ワフカ様だ!」
はい、悪魔でした。正解者にはハワイ旅行がプレゼントされます。
「ウサリーナ、やっぱりあの子悪魔だって」
「そうみたいだな」
「どうしよう?」
「お前、女神だろ?」
ウサリーナさん、無表情で見つめてこないでください。何でもかんでも女神様頼みはいけませんよ。これだから最近の若い者はダメなのです。
と、先輩なら言うだろうな……そして、おだてると助けてくれる。でも、先輩は此処にいないし、他の女神様も留守なようです。
仕方ない、私が相手すると言った手前、やるしかない。
「分かったよ、私が話しをしてみるよ」
「そうか、頼むぞ」
こいつ、出会った頃は迷惑を掛けられないとか言っていた癖に。まあ、相手をしたくない気持ちは分かる。餅は餅屋に、悪魔には女神と天使を。
私はクロウサを連れて群衆をかき分け、その悪魔に近付いて行った。




