ラビットエンジェル☆クロウサ
おはようございます、女神のミチルです。
朝日が心地良くて、とても素晴らしい朝ですね。朝から暗い気持ちの皆さん、元気を出してください。どんな方でも私を信仰すれば、きっと幸せになれますよ。
さあ、空に向かって願ってください。
ミチル様、ああミチル様、ミチル様。
五七五。季語『ミチル』
はい。狼達の襲撃から一夜が明けました。
私は今、あの洞穴で目覚めたばかりだ。ちなみにウサギ達は帰らせてある。彼らにも住む家があるしね。此処にはもう私とクロウサしかいない。
村に帰った私は、まさに女神の扱いを受けた。勇敢に戦い、皆を鼓舞して悪しき者を退治する姿はまさに女神様である、と共に戦った村人達が言い触らしたのだ。主にウサウーが。
ついでにウサリーナや子供の怪我を治した話しが広まってしまい、身体が弱っていた村長にも癒しの光りを掛ける事になった。いや、そんな簡単に治る訳ないじゃん、と私は思っていた。
結果、物凄く元気になりました。
さすが、元お城仕えの兵士長。今度狼が来たら儂が退治してやります、と意気込んでいる。
ともかく村は活気づき、次の襲撃に備えて士気も高い。
まだ捕らえた人狼は眼を覚ましていないみたいだけれど、次の襲撃があると考えていた方が良さそうだ。正直、人狼だけなら何とかなる。問題は、それ以上がいた時だ。
でも、それに対する光りも差していた。
ゴットパネルがまた光っているのだ。
昨日の夜、眠る前から光っているのは分かっていた。でも狼達との戦いと、終わってからの村人の対応に疲れた私はそのまま眠ってしまったのだった。だいたいの予想は付く。私はゴットパネルの『!』に触れた。
貴女の『信仰者数』が『100』を超えました。
『僕』を『1』、『天使』に昇格する事が出来ます。
そりゃ、あれだけ崇められたら増えるよね。
私はゴットパネルとクロウサを交互に見た。
まだクロウサは眠っている。クロウサも他のウサギ達と同じで、朝は弱いようだ。
私の僕と言ったら、クロウサしかいない。そうなると必然的にクロウサが天使になる。
まあ、ウサウーも頼めば僕になるかもしれないけれど、それは止めましょう。
色々とよろしくない結末になりそうだ。
ともかく、クロウサを天使にする。僕にした時もかなり強くなったし、天使にしたらもっと強くなるだろう。それは間違いない。良いんだよ、ウサギが天使になったって。若者の間ではウサギ天使が流行っているから。今、ラビットエンジェルが熱いんだよ。
でも、天使にしたらどうなるのだろう。
僕になった時に大きな熊くらいになったから、天使にしたら怪獣になるのかな?
よし、そうなったら映画を撮ろう。
『大怪獣クロウサ』この夏、上映予定。
「……フシュ」
クロウサが眼を覚ました。まだ少し眠いのか、欠伸をしている。
「おはようクロウサ」
「フシュ」
私が挨拶をすると、クロウサも返す。現段階で私の言葉を理解しているけれど、もしかしたら天使になると喋れるかもしれない。なんか、そうなると嬉しいな。クロウサとは、お話しがしたかったんだ。色んな事を聞いてみたい。
「クロウサ、聞きたい事があるのだけれど」
「フシュ?」
「クロウサって、私の天使になりたい?」
「フシュ!」
クロウサは私の問いに力強く頷いた。
うん、やっぱりそうか。そもそも自らの意志で僕になったのだから、そうなるよね。
よし、決めた。クロウサを天使にしよう。でも此処で天使にして、クロウサが大きくなったら村がめちゃくちゃになるかもしれない。私はまだ村人達が活動を始めていない中、クロウサを連れて村の外に出た。
「此処なら大丈夫そうかな」
私はまたゴットパネルを開いて、『僕と天使について』に触れた。
『貴女の僕であるホーンラビットの「クロウサ」を天使に昇格出来ます』
昇格する/昇格しない
「じゃあクロウサ、天使にするね」
「フシュ」
私は『昇格する』に触れた。さあ、どうなるか。
クロウサが光りに包まれる。
何処で鳴っているのか分からないけれど、ラッパの音が流れてくる。
空からその光に向かって、白い羽根がゆっくりと舞い落ちる。
とても神秘的な光景だった。思わず私はその光景に見惚れていた。
光りが晴れる。そこに、クロウサは立っていた。
「ん?」
「フシュ」
「え、それだけ?」
「フシュ!」
それだけとなんだ、とでも言いたげにクロウサが鳴いた。ごめんよ。
正直な所、もっと大きくなるとか、もしかしたら人間みたい姿になるのかな、とか色々と考えていた。でも、クロウサの見た目はほぼ変わっていない。背中から、私みたいに白い翼が生えただけだ。黒い身体に白い翼って、ちょっとカッコいいけれど。
結局は喋れないみたいだ。お話ししたかったから、そこは少し残念である。
「フシュ、フシュ!」
クロウサが何か言いたげに右前足を出した。
「あれ、何か付いている?」
そこには金色の腕輪みたいな物がはめ込んであった。屈んでそれを見てみると、その腕輪には『女神ミチルの天使』と刻まれている。クロウサが誇らし気な顔をしている。なるほど、確かにクロウサは私の天使になったみたいだ。
「改めてよろしくね、クロウサ」
私が立ち上がってクロウサにそう挨拶をすると、クロウサも嬉しそうに返事をした。
「あっ、女神様、こんな所にいたのですか」
声がしたので振り向くと、村の方角からウサウーが駆け足でやって来る所だった。
兎の獣人にして随分と早起きだね、ウサウー。
「探しましたよ……って、うわっ、クロウサに翼が生えている!」
「ああ、クロウサを天使にしたんだよ」
「すごい、すごい、カッコいいです!」
ウサウーは子供みたいにピョンピョンと跳ねて眼を輝かせた。マズい、なんか自分も天使にしてください、とでも言いだしそうな雰囲気だ。
「ところでウサウー、私を探していたみたいだけれど」
そう言われる前に私は話題を変えた。ウサウーが、ハッとしたように我に返る。
「そうでした、ウサリーナさんに女神様を直ぐに呼んで来るように言われたのです。なんでも、人狼が目を覚ましたとか」
「あの捕らえた人狼が?」
「はい、直ぐに来て欲しいとの事でした」
「分かった、直ぐに行こう。行くよ、クロウサ」
「フシュ」
天使になったクロウサの背に乗ると、大きな翼を力強く羽ばたかせて飛んだ。ウサウーが羨ましそうに見ていたので、一緒に乗せてあげる。
自分で飛ぶより、これは気分が良いね。
クロウサも何だか嬉しそうだし、ウサウーなんか声をあげて大喜びしていた。
私達は年甲斐もなくはしゃいだ。
大丈夫、目的は忘れていないよ。本当だよ。




