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人狼陣営は全滅しました。女神陣営の勝利です

 残ったバディウルフが私とクロウサを追い掛けてくる。本当なら封じ込められた人狼達が抜け出すのを待つべきなのに、統率が取れていない連中だね。


 クロウサの脚が速い。かなり速い。


 普段と違ってピョンピョンと遠慮なく跳ねるから、振り落とされないように掴まるのに必死だった。うん、私が絶叫マシーンに弱かったら不味かったかもね。幸い、私がそれなりに耐性あるから良かったけれど。


 ともかくバディウルフをある程度引き離して、私とクロウサはウサリーナ達と合流した。


「ウサリーナ」

「ああ、分かっている」


 既にウサリーナ達は弓矢を引き絞っている所だった。溜めて、溜めて、バディウルフ達が姿を見せた所で、一気に放つ。狼の悲鳴。次から次へとバディウルフ達の身体にハリネズミのように矢が刺さる。三体はそれで絶命し、二体は戦意を喪失して森の奥へと逃げて行った。


「これで残るは人狼達だけだよ」


「ああ、やぐらからの報告でそれは聞いている。それにしてもお前達、凄いな」


 ウサリーナも他の村人達も私とクロウサを見る目が変わっていた。


「軽い先制攻撃とは言っていたが、それでバディウルフを半数も倒すとは。それに残った連中もお前らが誘い出してくれたから、こうもあっさりと倒せたようなものだ」


「やっぱりこの御方は本物の女神様だったんですよ。ああ、有り難うございます、女神様」


 狼達の報告をしてくれたウサウーなんかは、地面に膝を付いて私を拝んでいる。


 なんかこの娘は純粋で騙されやすそうだよね。こういう人を見ていると、幸せになってほしい。取り敢えず私を信仰してくれているようだし、もう大丈夫。きっと幸せになれます。


 ウサウーだけじゃない。狼の襲撃を聞いて、顔色が悪くなっていた村人達の顔が明るくなっていた。これは良い傾向でもあり、悪い傾向でもある。まだ敵は残っているのだ。


「待って、まだ一番厄介な人狼達が残っている」


「大丈夫ですよ、きっと女神様がちょいちょい、っとやっつけてくれますから!」


 ちょっとウサウーさん、私を崇めるのは良いけれどあまり過信し過ぎじゃありませんか?


「浮かれるなウサウー、それに此処は我々の村だ。こいつに頼りっぱなしは良くない」


 そんなウサウーをウサリーナが諫める。


「うっ、すみません……」


「お前らもだ、喜ぶのは人狼達を全て倒してからにしろ」


 ウサリーナの言葉で、みんなの顔がまた引き締まった。流石はウサリーナ、姉御肌だね。


「人狼達が動き出しました! こっちに向かってきます」


 櫓からそう声が聞こえてくる。

 ちょうど良いタイミングで人狼達が私の光りの障壁から抜け出したらしい。


 直ぐに赤ら顔をした人狼達が走りながらこっちに向かってくるのが見えてきた。酔っぱらって顔が赤いのか、怒って赤くなっているのか分からないね。多分後者だけど。


「この野郎、よくもやりやがったな!」


 いや、野郎ではありません。私は女です。


「ウサリーナ、みんな、私とクロウサで前に出るから援護して」


「待て、それなら私も行く」

 ウサリーナが前に進み出た。


「私は、弓より剣の方が自信ある。相手は三体だ、そっちの方が良いだろう」

「うん、分かった」


 此処はウサリーナの頼もしい言葉を受け入れよう。私が承諾すると、ウサリーナは腰に差した剣を抜いた。私もクロウサから降りて、自らの翼で羽ばたく。


「さあ狼さん、遊びましょうか」


「何が遊びましょうだ、ふざけやがって!」


 いや遊ぼう、と言ってきたのはそっちじゃないか。


 そんな悪い狼には矢をプレゼントしよう。

 一斉に村人達が矢の雨を降らす。流石にバディウルフのように上手くはいかないが、走って来た直後で疲れているのかそれぞれ何本か身体に刺さった。


「ちくしょう、卑怯だぞ!」


 戦いに卑怯も糞もない。休息を与える程、私達は優しくなかった。一気に詰め寄り、それぞれ一体ずつ相手をするように狙いを定めた。私が狙うのは、初めに私を変人扱いしたあの人狼だ。あいつだけは許せない。裁きを与えましょう。


 手始めに、バディウルフのように光の刃を放つ。


「くそっ!」


 人狼は片手を前に出して急所を守るように防いだ。血は出たが、切断するまでには至らない。やっぱりそれなりに強い魔物なだけあるね。


 光りの刃を防いだ人狼が、その鋭利な爪を振りかざして襲い掛かって来た。


 私がそれを避けると、次から次へと、斬りかかってくる。

 頭に血が登っているからか、狙いもなくめちゃくちゃだ。

 でもキリがないので、私は翼を羽ばたかせて空へと逃げた。


「卑怯者! 降りて来い!」


 今度は腰に差した剣を抜いて此方を罵る。


 でもね、相手は私だけじゃないんだよ。

 飛んできた矢が人狼の横腹に当たる。


「女神様、今です!」


 ウサウー。本当に良い娘だ。


「この、ウサギの分際で!」


 私はその隙を見逃さなかった。ウサウーを睨み付けた人狼に向かって、光りの刃を放つ。直撃して、人狼が倒れる。


「見事だ」


 同じく人狼を倒したウサリーナが私を褒める。本当に強かったんだね、無事で良かった。

でも、その腕からは人狼にやられて血が出ていた。


「フシュ」


 先に人狼を倒していたクロウサが、心配そうにウサリーナに駆け寄る。此方は無傷である。しいて言えば、また角から狼の血が滴り落ちていた。クロウサなら負けないと思っていたよ。だからこっちは初めから心配していなかった。


「大丈夫、ウサリーナ?」

「これくらいは、なんともない」

「なんともない訳ないでしょ。ジッとしていて」

「何をする気だ?」


 私はウサリーナの傷に光りの治療を施した。すると、みるみる内に傷が塞がっていき、血が止まった。これって本当に女神らしい能力だよね。


「もう、大丈夫」


 私が、いつぞやの女神スマイルをまたウサリーナに送った。

 すると今度は効果があったのか、少しウサリーナは頬を赤らめる。


「すまない、本当に助かった……」

 おや、これは好感度が大分上がったんじゃないですかね?


「グッ、ウゥ……」

 私が内心でそんな事を考えていると、私が倒したはずの人狼から呻き声が聞こえてきた。


「あいつ、まだ生きていたんだ」


 流石にしぶとい魔物だ。息も絶え絶えだが、まだ死んでいないみたいだ。

 どうやら痛みに耐えられなかったらしく、気絶したようだけど。


「ちょうど良いかもしれない、こいつは生け捕りにしよう」


 ウサリーナが立ち上がってそう提案をした。


「まだ他にも仲間がいるかもしれない。それに、急にこの森にやって来た目的も分からないし、尋問して聞き出そう」


 なるほど、良い提案だ。でも、一つ気になる事がある。


「その人狼さ、今にも死にそうだけれど誰が治療するの?」

「お前しかいないだろ。村にも医療に長けた者はいるが、お前ほどではない」


 ですよね。

 私を変人扱いした奴だけど、仕方ない。此処は女神様の慈悲を見せてあげましょう。


 私は取り敢えず、致命傷の傷だけを癒して気絶した人狼をクロウサの背中に乗せると、ウサリーナと共に村へと引き返した。

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