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オオカミさん、女神様と遊びましょう

「来たぞ」


 ウサリーナの合図と共に一斉に村人達が持ち場に付いた。打合せ通りに村の左右に数名、殆どが正面に残った。狼の襲撃に備えて村を囲むように木の柵は作られているが、ほんの気休め程度にしかならないだろう。私も取り敢えず、ウサリーナ達と共に村の入り口で待機する。


「見えました、予想通り正面方向から来るようです」


 木のやぐらに登っていた村人がそう叫んだ。


「連中はやはり此方を舐めているのか、ゆっくりと進んで来ます」


「そっちの方が好都合だ。引き寄せて一気に叩くぞ」


 ウサリーナの言い分は一理ある。村の近くの方が守り易く、数で上回っている此方は固まって戦える。なんかテレビで見た時があるけれど、籠城戦ろうじょうせんって、守る方が有利らしいね。


 でも、逆に此処を突破せれれば終わりな訳で、中にいる非戦闘員の村人達も心配だろう。バディウルフが一匹でも村に侵入したら大惨事だ。


 なんか相手も油断しているみたいだし、此処は私が先制パンチを喰らわせてやろう。


「おいお前、何処に行くんだ?」


 私がクロウサに乗って狼達に向かおうとすると、ウサリーナが呼び止めた。


「なに、私の戦い方に口出しはしないんじゃなかったの?」

「そうだが、一人で行くのは危険だ」

「大丈夫、クロウサもいるし。それに軽い先制攻撃だよ」


 ウサリーナが私も付いて行く、とか言い出しそうなので私はさっさとクロウサに合図して狼達へと駆け出した。恐怖心は不思議と無かった。私を信仰してくれたウサギ達と迎え入れてくれた村人達のお陰だろうか。それとも、私は女神だからだろうか。


 暫く進むと確かにバディウルフと、二本足で立つ狼型の魔物である人狼の姿が見えてきた。報告の通り人狼は三体、バディウルフは十体。人狼は西洋風の鎧を着て腰に剣を差している。余裕の表れなのか、酒を飲んで談笑しながら歩いていた。


「なんだぁ、変な女とでかいウサギが来やがったぞ」


 と、変な人狼が言ってきます。

 よし、ぶっ飛ばす。少なくともこいつはあたしがぶっ飛ばす。


「ひゃひゃひゃ、お嬢ちゃん、迷子かなぁ?」

「おい、よく見たらこりゃ上玉じゃねぇか。よし、俺達と遊ぼうぜ」


 酒臭い。これは相当酔っぱらっているな。御供のバディウルフも気の抜けたような顔をしているし、こいつらどれだけ舐めているんだ。もしかして、クロウサがバディウルフを倒したのも分かっていないのかな? まあ、頭悪そうだしそうなのかもしれない。


「あら、私と遊んでくれるの?」


「おうおう、遊ぼうぜ」

「ひっひっひっ、こっちに来いよ」


「良いよ。でもその前に、そこの狼さん達と先に遊ぼうかな」


 私はまず、固まっていた人狼たちの周りを光りの障壁で囲んだ。


「おい、なんだこりゃ?」

「綺麗だなぁ」

「酒が進むな、こりゃ」


 想像以上に頭が悪かったらしい。人狼たちは光りの障壁に囲まれながら酒盛りを始めた。これで人狼とバディウルフの隔離に成功した。私は脚でクロウサに合図する。


「フシュ!」


 クロウサが動く。先ずは近くにいて人狼と同じく油断していたバディウルフに、角を向けて体当たりした。角に刺されたバディウルフが呻き声を上げる。流石に事態を察したのか、バディウルフ達が警戒し、近くの二体が一斉に向かってきた。しかし、動きが遅い。こいつらも酒を飲んでいるのかもしれない。


 クロウサは串刺しにしたバディウルフを一体に向けて放り投げ、もう一体には私が光りの刃を放つ。仲間を投げ付けられた方は避け切れずにぶつかって倒れ、光りの刃はもう片方を切り裂いた。思った以上に高威力だ。


 即死はしなかったが、大量の血が出てもがき苦しんでいる。


 こいつらはウサギを、弱者を襲う連中だ。女子高生時代も、貴族の令嬢時代もこんな事はしてこなかった。でも、今は女神だ。女神が悪い奴らに裁きを下すのは当然だった。


「せめて安らかに」


 女神らしく、苦しまないように思い込めて、私はもがき苦しんでいたバディウルフの首を目掛けて光りの刃を放った。


 うん、吹っ切れた。


 善悪なんてのはもう良い。私は、私を信じてくれる人の為に戦うんだ。


 前線で戦う女神なんていない。


 そんなのはただの綺麗事でしかないんだよ。


「おい、なんだ、ヤバいぞ」

「くそっ、此処から出るぞ」

「ちくしょう、なんだこれ、出れねぇ」


 今更になって人狼達がようやく光りの障壁から抜け出そうとし始めた。でも、強化されたそれは簡単に破れない。しかも酔っぱらって力も出ないようじゃ尚更だ。何もそれは味方の守りだけに使える訳じゃないんだよ。女子高生時代に似たような場面を漫画で読んだのを真似してみたのだけれど、上手くいって良かった。


 クロウサは倒れていたバディウルフを踏みつけ、さらに向かってきたもう一体を角で倒す。私もさらにもう一体、光りの刃で倒した。これでバディウルフを半数は倒した事になる。


「クロウサ、ここら辺で下がろう」

「フシュ!」


 いつまでも人狼が光りの障壁を抜け出せないとは限らない。いくら酔っぱらっていてもあいつら三人を私とクロウサだけで相手にするのは厄介だ。


 まあ、先制パンチにしては上出来でしょう。


 私はクロウサに乗ったまま村の方に向けて引き上げた。

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