この群れの女神は私だ!
良いウサギの皆さーん、こんにちはー。
今日は私、ミチルの為に集まって頂きありがとねー。
それでは聴いてください、『もう、つべこべ言わずにミチル様に平伏しなさい!』
「フシュ!」
はい。クロウサが帰ってきました。大勢のウサギを連れて。もう、洞穴の中に入り切れない位の数で、私は困っています。当のクロウサはやってやったぜ、みたいな顔をしております。
ついでに、ゴットパネルが光って『!』の文字が浮かんでいた。
これはあれだね、クロウサを僕にした時と同じで、何か重要な変化があった時に起こる現象だよね。
私は『!』の文字に触れた。
貴女の『信仰者数』が『50』を超えました。
『女神の能力』が一気に全て強化されます。
取得能力
光りの付与《弱》
光りの刃《弱》
光りの障壁《弱》
光りの治癒《弱》
あと『44』信仰者数を増やせば、僕を『1』天使に昇格出来ます。
信仰者数が『6』から一気に増えて、取得能力の《微弱》が《弱》に強化されている。
「えっ、これって、もしかして……」
喜びよりも、戸惑いの方が大きかった。
私はクロウサを見た。クロウサは頷いた。大量のウサギ達。いきなり増えた信仰者数。
「このウサギさん達って、私の信者なの?」
「フシュ!」
肯定するように、ウサギ達が一斉に前足を踏み鳴らして拍手した。
ありがとうございます、ありがとうございます。
「いや、確かに信仰者数は『1人』とは書いてなかったけどね。これって、アリなの?」
「フシュ」
「うん、そうだね。良いよね、良いよ。そうだよ、私はウサギが好きだしウサギを助けた。この村を救いたいのも、ウサギと兎の獣人達の為だし。よしみんな、女神ミチル様に任せろ!」
また一斉にウサギ達による拍手が起きる。これは気分が良い。今、私は最高に輝いているよ。
ようやく意味が分かった。
初めにゴットパネルで見た信仰者数『4』。あれは子供達ではなく、クロウサと私が助けた三羽のウサギ達だったのだ。
自ら僕になったクロウサは勿論、三羽のウサギは私にバディウルフから守ってもらった。その後のクロウサ達の行動を見れば、私が信仰対象になったのも頷ける。この女神を信仰すれば、助けてくれるよ、とクロウサ達はウサギ達に触れ回ったのだろう。人よりも動物の方が、そういうのに染まり易いしね。群れを守るリーダー的な。
ウサリィとウサミヨは良い子だね。子供達と遊んで信仰してくれたのはあの二人だろう。ウサキさんは降格ですね。専務、いや部長だね。これからに期待します。
取り敢えずクロウサには感謝だ。まさか本当に信者を増やしてくれるとは。やはり、出来るウサギは違う。拍手が鳴り止むと私はいつものようにクロウサの頭を撫でた。
「ありがとう、クロウサ。本当に頼りになるウサギで助かるよ」
「プゥー」
クロウサが照れたように鳴いた。
そんな私達の邪魔をするように鐘の音が鳴り響く。
鐘の音は激しく連打され、それが緊急事態を表しているのが聞かなくても分かった。
おそらく、狼だ。私はそう直感した。
馬鹿な奴らめ、まさか私が強くなったタイミングで来るとは。いや、きっと私の日頃の行いが良いからに違いない。普段は碌な眼に合わないけれど。
「大丈夫、この村には私がいるから」
鐘の音に怯えたウサギ達を励ますようにそう伝えると、今まで頭を撫でていたクロウサに話し掛ける。
「行くよ、クロウサ。きっと狼だ」
「フシュ!」
クロウサもやる気満々だった。よし、出陣だ。
ウサギ達を残して洞穴を出る。家に避難しようとする老人や子供達の姿、武器を手に取り駆ける男達。村の入り口の方に人だかりが見えたので、私はそちらに急いだ。ウサリーナと村の警護をしていた村人達が集まっている。私の姿を確認して、ウサリーナが苦い顔をした。
「お前、まだ逃げていなかったのか?」
「当たり前でしょ、私は女神なのだから。大丈夫、狼なんて悪しき輩は、この偉大なる女神のミチル様が退治してあげましょう」
「まぁ、良い。こうなったらお前の力も借りるとしよう」
場を和ませようと女神っぽく決めポーズまでしたのだが、ウサリーナは無視した。だが、こんな事態で、さらにバディウルフを退治した実績があるからか、なんとなく他の村人達からは期待の眼差しで見られている気がする。
あれ? もしかして、此処で私が華麗に狼を倒したら一気に信者が増えるんじゃない?
「あまり時間はないが簡単に状況を説明する」
私が若干ゲスな事を考えている間に、ウサリーナが話しを進めた。
「周囲の見張りに立っていたウサウーの話しだと、近くまで狼達が来ているらしい」
「数はバディウルフが十体、人狼が三体。他に姿は見えませんでしたが、もしかしたら別動隊がいるかもしれません」
ウサウーと呼ばれた小柄な獣人の女性がそう報告した。武器と鎧を身に纏い戦う村人達は、男性の方が多いが女性も一定数いる。きっと、束ねているウサリーナの影響なのだろう。
あまり大きな村でもないので、戦える村人の数も少ない。集まっているのは、私とクロウサを除いて二十四名。普段から訓練を受けていそうな獣人はもっと少ない。ウサリーナの話しでは狼達が出たのは最近らしいから、比較的平和な森だったのだろう。
「狼達は私らを舐めている。おそらく正面、入り口方面から来るだろうから、此方も数名を左右に残して大多数は正面に配置する。奴らの爪と牙は厄介だ、なるべく接近戦で戦わずに弓で戦え。それと一人きりで戦おうとするな。最低でも二人一組を確保しろ。それと、お前」
ウサリーナは私を見た。いい加減、名前で呼んでくれないかな? 女神様でも良いよ。それともウサリーナの好感度が足りないのかな?
「お前には余計な指示はしない。お前にはお前なりの戦い方があるだろうからな。それと、逃げるならこれが最後だぞ?」
「だから、逃げる訳ないでしょ。私は、貴女達を救いに来た女神なのだから」
ウサリーナが嬉しそうに少し口元を緩めた。
おっ、ちょっとは好感度が上がったかな?
そう私が思っていると、狼達の遠吠えが聞こえてきた。




