その黒い背中、最高に渋いぜ……
逸る気持ちを抑えて、私はあの寝泊まりした洞窟で休憩していた。あの三羽のウサギ達もまだ残ってくれていたみたいで、心配そうに私に寄り添ってくれていた。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
そんなウサギ達の頭を私は優しく撫でた。勿論、此処まで運んでくれたクロウサの頭を撫でるのも忘れていない。ある程度休憩すると、力が戻ってくるみたいだ。問題なく立ち上がり、もう光りも出せるくらいに回復していた。
しかし、自分で言うのも何だけど手応えがあったね。特に木を登ったウサリィと親友のウサミヨなんか、私を見る目が変わっていた。まあ、あの二人は元々私の信者なので、これで信仰者数が増える事はないけれど。
でも、それ以外の子供達だって喜んでいたしきっと信仰者数は爆上がりだね。あそこにいた子供達は三十人位だったから、少なくとも目標の十人は超えているだろう。
「よし、ではそろそろ結果発表といきますか」
横になっていた身体を起こして、立ち上がる。
「クロウサ、心して見るように。貴方達も拍手して、拍手。これは私が偉大な女神になる瞬間なのだから。拍手で祝いましょう」
「プゥプゥ!」
クロウサと三羽のウサギ達は前足を器用に踏み鳴らして、拍手してくれた。
うん、これは気分が良い。
ありがとう、ありがとう。
クロウサ達に祝福されて気分の良いまま、私はゴットパネルで『信仰者数』を開いた。
さあ、百人くらい増えたかな?
貴女の信仰者数は『6』です。
後『4』信仰者数を増やせば、『女神の能力』を少し強化できます。
ん?
あれ、壊れてませんこれ?
「クロウサ、ちょっとこれに何て書いてあるか見てくれない?」
「フシュ?」
そう言っても、クロウサはゴットパネルを見る事が出来ない。おそらく、認識すら出来ないだろう。もしかしたらこのウサギ達には、私が空中に向かって何やら一喜一憂している変人に見えているのかもしれない。
「いや待って、二人しか増えてないってどういう事?」
私はあれだけ頑張ったのだ。確かに光りの付与は負担が大きいから、ウサリィとウサミヨにしかしてあげられなかった。でも他にも光りの刃で木を倒したり、転んで泣いていた子を光りの治癒で治してあげたりしたじゃないか。
それなのに、二人しか増えてないってどういう事だろう……
もしかしてあの程度じゃこれが普通なのだろうか。あの仲良し四人組が特殊なだけで、子供って意外とシビアなのかもしれない。お菓子か、やっぱりお菓子が良いのか。
森を探索して木の実でも見付けて、砂糖とか使ってお菓子を作れば良いのか。いや、私は残念ながらあまり料理は得意じゃないんだ。卵焼きとか、市販の麺やルーを使った焼きそばやカレーとかくらいしか作れないんだ。
「クロウサ、もしかしてお菓子作れる?」
クロウサは少し考えた素振りを見せてから、首を横に振った。
なんだよ、ちょっと期待したじゃないか。いや、そりゃ無理だろうけど。なんでちょっと考えたんだ、このウサギは。
これは地道にいくしかないのだろうか。でも、流石に一日に二度も子供達の相手をするのは大変だ。それに既に太陽は真上近くまで来ているし、夕方には子供も帰ってしまうだろう。となると、明日また子供と遊ぶしかない。そんなので、狼の襲撃に間に合うのか。
ああ、どうしよう。やっぱり、楽な近道なんてないのかな。そんなご都合主義は漫画やアニメの中だけなのだろうか。先輩の言う通り、地道に努力するしかないのかな。でも、それじゃあ間に合わなくなるかもしれないんだよ。
私が落ち込んでいると、クロウサが擦り寄って慰めてくれる。
「ありがとう、クロウサ」
クロウサは私の味方だ。こんな無茶ぶりばかりする女神なのに、僕になってくれて、バディウルフから私達を守ってくれて、慰めてくれて。本当に優しい。そういえばクロウサって、雄と雌どっちなのだろう。
雄だったら、もう私の王子様だよね。白馬に乗ったではなく、黒兎の。
私はクロウサの首元に抱き付きながら話し掛けた。
「ねぇクロウサ、私はどうすれば良いんだろ?」
「フシュ」
「このままじゃあ狼が来ても村を守れないし、でも今のままの私じゃどうする事も出来ない」
「フシュゥ……」
「せめて私を信仰してくれる人が増えたら、何とかなりそうなのだけど……」
「フシュ?」
「えっとね、私は女神だから信者が増えれば増える程、強くなるみたい」
「フシュ!」
急にクロウサが力強く鳴いた。驚いて私がクロウサから離れると、足をダンダンと踏んで音を立てている。まるでやる気満々ですよ、とアピールしているかのようだ。
「え? なに、もしかして自分に任せろ、とか言っているの?」
「フシュゥ!」
クロウサは力強く頷いた。
え? なに、まさか本当に何とかしれくれるんですか、クロウサさん。
「じゃあ、お願いしようかな」
私が半信半疑でお願いすると、クロウサは何やら三羽のウサギ達に何かを話し始めた。すると、三羽のウサギ達は頷き、凄い勢いで洞穴を出て行く。
「フシュ」
それを見届けてから、クロウサも私に一度頭を下げてから出て行く。
その背中は何だかとても頼もしかった。それは出来るウサギの背中である。
「まさか、ね。でも、もしかしたら……」
私は、そう呟きながらそのクロウサの背中を見送った。




