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『子供から信仰を得ようぜ作戦』

 興奮状態にあった私だが、クロウサ達のモフモフに包まれて昨夜は気分よく眠る事が出来た。瞼を擦りながら、もそりもそりと起き上がる。


 まだクロウサ達は眠っているみたいだ。そのままみんなを起こさないように洞穴の外へと出た。朝日が心地良くて、それをいっぱいに浴びて背伸びをする。とても気分の良い朝だね。


 村を見回したが誰の姿もない。ウサリーナの言う通り、この村の住人達は朝が弱いみたいだ。

 川から引いた水で顔を洗う。こうした異世界は化学があまり発展していないが、代わりに魔法が盛んである。


 火や水の魔法を利用して生活水を確保したり、湯を沸かしてお風呂に入ったり、氷の魔法を利用して食品を冷蔵させるなど、それなりに生活は便利な所がある。ただし、誰でも簡単に魔法が使える訳ではないので、魔女などから魔法を込めた魔具を買わなければならない。


 私が前いた世界では、とある偉大な魔女さんのお陰で魔具は安価になっていて庶民でも手が出せていたけど、この世界はどうなのだろう。


 眠気覚ましを終えると、洞穴に戻って私は昨夜練った計画の復習をした。

 名付けて『子供から信仰を得ようぜ作戦』だ。


 どのような世界でも、子供は好奇心が旺盛で純粋である。私が女神と名乗って飛んだだけで信仰を得られたのだ、光りの魔法を使えばそれはもう入れ食い状態だろう。


 まずはあの仲良くなった四人組を探して、村の子供達を集めてもらう。そこで女神っぽい事をすれば、もう子供達は私の虜だよね。はい、作戦計画は以上です。


 そうこうしているうちに、クロウサが目覚めた。あまりお腹は空いていないけれど、取り敢えず何か食べよう。まだウサギ達は眠っているのでこのままにする事にした。無理に起こすのも可哀想だしね。


 私はクロウサだけを連れて、この村ですっかり私の係りになったウサリーナを探しに行った。今後の話しもあるしね。ウサリーナは直ぐに見付かった。武装した村人達を集めて何やら偉そうにしている。彼女はそれなりに上の立場なのだろう。


「お前……」


 私の顔を見るなり、ウサリーナは苦い顔をした。部下たちに待つように伝えて、二人きりになる。正確には後一羽いるけれど。


「明るくなったらこの村を出ろと言っただろ。どうしてまだいるんだ?」


「いやね、やっぱり私は女神だからこの村を見捨てられないよ」


「馬鹿、だから言っただろ、お前がいても狼達には勝てない」


 心配そうにするウサリーナを安心させる為に、私は自信満々に女神スマイルで言った。


「大丈夫、秘策があるから」


「秘策?」


「そう、秘策。その前に朝ご飯をちょうだい。腹ごなしをしたら、その秘策を実行するから」


 どうやらウサリーナに女神スマイルはあまり効果がなかったらしい。胡散臭そうな人を見る目で、それでもきちんと朝食を用意してくれた。もう、言っても無理だと察したのかもしれない。私とクロウサが朝食を食べている間に村長にも話しを通してくれたみたいで、私が暫くこの村に滞在する許可を得た。


「じゃあ、私はこれで行くからな。あまり無理はするなよ」


「あっ、ちょっと待って」


 勝手に去ろうとしたウサリーナを私は呼び止めた。


「何だ、まだ何かあるのか? 私はこれでも忙しいのだぞ」

「あの子供達、ウサキ達って何処にいるの?」

「ああ、あの仲良し四人組か。村の奥にある大木で遊んでいると思うぞ。あそこは子供達の遊び場だからな」

「分かった、ありがとうウサリーナ」


 ようやく解放された、との顔でウサリーナは去って行った。嫌な顔をしながらも最後まで付き合ってくれるのが彼女の人の好さを表している。


「よし、行こうかクロウサ」

「フシュ」


 私はクロウサに乗って、その村の奥にある大木を目指した。


 場所を聞かなくても、大木と言われればそれが何処にあるのかは分かる。洞穴の家が並ぶ左側、村の左奥に一本の大木がある。明らかに他の木とは大きさが違って周りが整地されているのもあって目立った。そこに行ってみると、確かにウサキ達はいた。他にも沢山の子供達が集まって遊んでいる。私がクロウサに乗って現れると、わっと、子供達が集まって来る。


「おはよう、女神のお姉ちゃん」

「女神のお姉ちゃん、一緒に遊ぼうよ」


 ウサキ達を筆頭にそう話し掛けてきたり、クロウサを撫でたりしている。

 ふふふっ、もう既に私は子供達から人気者だ。

 これなら信者になってもらうのも容易いかな。


「良いよ、遊ぼうか」


 取り敢えず私は子供達の欲求を飲んで一緒に遊んだ。まずはウサキ達以外にも私と触れ合ってもらう事だ。そう、これは作戦である。決して楽しんでいない、決してだ。


「ねえ女神のお姉ちゃん、今度は木登りしようよ」

「うん、やろう、やろう」


 すみません、楽しいです。


 たまに童心に返るのって良いよね。特に最近は、神経を尖らせた女達の争いの中にいたから余計にそう感じる。でも、目的は忘れていない。私は木の前に来て、立ち止まった。大木程ではないが、それなりに大きな木である。子供達が落下した時の為に安全用の網もある。


「どうしたの、女神のお姉ちゃん?」


 そんな私を見て仲良し四人組の一人、ウサリィが心配そうに聞いてきた。


「ウサリィ、木登りって得意?」

「ううん、私ってあんまり運動が得意じゃないんだ……」


 私の問い掛けにウサリィは悲しそうに首を横に振った。確かにこの子は、おとなしそうだしね。なんとなく、ウサリィを見ていると出会った頃のパトリシアを思い出す。彼女と違って、それが原因で苛められているとかはなさそうだけど、気にしているみたいだ。


「だったら、私が今だけ女神の力で得意にしてあげようか?」

「えっ、女神のお姉ちゃんって、そんな事が出来るの?」


 暗かったウサリィの顔がパッと明るくなる。


「勿論、私は女神だからね。少しの間だけれど、それでも良かったら」

「うん、うん、良いよ。私、一回だけ木の頂上に登ってみたかったの!」


 急かすウサリィに向かって、私は光りの付与を行った。すると、彼女が淡い光りに包まれる。クロウサみたいに身体の変化はないけれど、ウサリィは自身の身体に力が溢れているのが分かるのか、嬉しそうに笑った。


「ウサリィ、本当に登れるようになったの?」


 ウサリィとは反対に、活発そうな女の子のウサミヨがそう聞いた。


「うん、出来そう。見てみて」


 ウサリィが木に手を掛けると、するすると一気に駆け上っていく。途中まで登っていた他の子供達をあっという間に追い残した。下に大人たちが設置した安全用の網があるが、頂上まで行かれて万が一落ちたら危険だ。私も背中の翼を羽ばたかせてウサリィを追う。そうこうしている間に、あっという間にウサリィは頂上まで登ってしまった。


「わぁ、凄い。とても綺麗」


 ウサリィの言う通り、木の上から眺める景色は綺麗なものだった。村の中は一望できる。ウサリーナが遠くで部下達と一緒に見張りに立っているのも見えた。


 ウサリィが満足してから木を降りると、子供達が興奮した様子で私達を出迎えた。


「つぎ、つぎは私ね!」


 真っ先にウサミヨが手を挙げて私に詰め寄り、その後ろから抗議の声が上がる。


「いや、僕だぞ!」


 計画通り。まさに入れ食い状態だね。


「まぁまぁ待ちなさい、順番だから」


 私はそうして偉大さを見せる為に、光りの魔法で子供達を喜ばせた。


 ただ調子に乗って使い過ぎたせいか、また私は倒れてクロウサに運ばれて途中退場する事になった。まあ、概ね良かったでしょう。子供達が心配して見送る中で、私は不敵な笑みをクロウサの背中の上でしていた。


 さあ、ゴットパネルを見るのが楽しみだ。

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