ああ、私はなんと非力な女神なのでしょう
「こんな場所ですまないが、今夜は此処で眠ってくれ」
バニーガールもといウサリーナの案内で連れてこられたのは、広い空間だが奥行きのあまりない洞穴だった。広いからクロウサも入る事が出来るし私にとっては此方の方が良い。あの三羽のウサギもいつの間にか付いて来ていて、これでウサギ天国の状態で眠る事が出来る。
夕飯だ、とパンと野菜のスープをウサリーナから貰った。クロウサ達には生の野菜が与えられる。そういえばこの世界に来て初めての食事だ。あまりお腹が減るという感覚がないから、意識していなかったけれど。
女神ってそんなに食事を必要としていないのかもしれない。それでも元人間だから食事は有り難かった。あまり美味しいとは言えないけれど、口に入れて食べるという感覚は嬉しいものだ。
「ねぇ、ウサリーナ」
一緒に食事をしているウサリーナに私は話し掛けた。あまりその名前を気に入っていないのか、少し苦い顔をしてウサリーナは返事をした。
「なんだ?」
「なんか力を貸して欲しい、とか言っていなかったっけ。村長からは何も御願いされなかったけれど、良かったの?」
「その事か。私も村長に話したさ、でも村に関係のない者にこれ以上は迷惑を掛けられないって、聞き入れてくれなかった。村長はあれでも若い頃はかなり腕が立つ人で、お城に仕えて兵士の隊長もしていたらしいから、頑固者で堅いんだよ」
あのお爺さんがそんなだったとはとても思えない。確かにお城仕えの兵士って、生真面目でお堅い人が多いよね。前世ではよく見掛けたけど、未来の女王様候補に話しをするのも失礼だ、とか言って大体の人が最低限の会話しかしてくれなかったな。
「それで良く考えてみたのだが、私も村長の言う通りだと思う。お前が例え本物の女神だったとしても、これ以上は迷惑が掛けられない」
「随分と深刻そうな問題みたいだけど、大丈夫なの?」
私の質問にウサリーナは少し下を向いて顔を顰めた。
「大丈夫じゃないさ。お前も相手しただろうけど、最近になってこの森にいる狼の力が強くなってきたんだ。前までは、バディウルフなんて滅多に見なかったのに。それにバディウルフだけでも厄介なのに、人狼の目撃情報まであった。奴らは森の勢力を広げている、ウサギ達が襲われたという事は、この村に来るのも時間の問題だろう」
人狼は人型の狼だ。獣人じゃなくて、魔物に分類される残虐な性格をした連中である。それでいて知能もあるから厄介で、バディウルフを率いて襲い掛かって来る。それにしても、魔王の領域近くでもなければ、そんなに目撃情報がない魔物なんだけどね。
「だったら私も手伝うよ。私はウサギを救いに来た女神なのだから」
適当に考えた設定だけれど、狼にこのウサギ天国を壊されたくはない。私はもうこの村の獣人達と触れ合ってしまった。子供達とお話しもした。今更、見捨てられる程に薄情じゃない。
それに、これは信仰を得る絶好の機会だ。信仰を得られれば、私の今後の女神生活が楽になる。そうだよ、先輩に転生させられた世界は決して楽じゃない。此処で逃げたら、また悲惨な運命が待っている。だから、私はこの村を救ってみせるんだ。
「有り難う。でも、気持ちだけ受け取っておくよ」
そんな私の決意を他所に、ウサリーナは告白を断るイケメンみたいな事を言ってきた。
この野郎、私がせっかくカッコつけているのに。
「確かにお前はバディウルフを倒したらしいけど、人狼の強さはバディウルフの非じゃない。それに数もどれくらいいるか分からない。例え一緒に戦っても、死ぬだけだ」
確かにクロウサは強いけれど、人狼に勝てるかは分からない。私自身もまだ信仰の無い女神で、バディウルフ相手に苦戦した。悔しいが、ウサリーナの言う通りかもしれない。
「なら、どうしてこの森から逃げないの?」
「逃げないのではなく、逃げられないんだよ。村長のように身体の弱い者や、子供もいる。安全で、この村の者達が食っていける場所が他にあると言うのか?」
「……ごめんなさい」
私は浅はかな提案をした事に対して謝った。
「いや、謝る事はないさ。さて、私はそろそろ行くとしよう。夜は冷えるから、きちんと暖かい格好で寝るんだぞ。明るくなったら、こっそりと村を出ると良い。ウサギの獣人は朝に弱い。後は私が何とかするさ」
そう言ってウサリーナは何処かに行ってしまった。
巻き込んできたのは彼女とはいえ、なんか自分の不始末は自分でつけるみたいでカッコいいね。最初は変な奴だと思ったけど、良い人だ。それにイケメンである。男だったら、さぞかし女からモテていたと思う。いや、そういうのが好きな女の人もいるけれど。
しかし、本当に何とかならないだろうか。
私女神なんだから、もっと強くても良いじゃないか。こう、魔物をばっさばっさと倒して、称賛されて信仰されて。
「クロウサ、何とかならないかな?」
「フシュゥ……」
クロウサに聞いても困ったように首を傾げるだけだ。
まぁ、そうだよね。ここであっさりとクロウサが狼達を倒したら、もう勇者だよ。勇者クロウサだよ。全女神が泣いた感動巨編だよ。
そうだ、こんな時こそゴットパネルだ。
こういう時の為のお助けアイテムだ。
私は期待を込めてゴットパネルを開いた。
そこには新たに『僕と天使について』という覧が追加されていた。
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