ようこそ素晴らしい女神ライフへ(拒否権なし)
私、ミチル。貴族の令嬢なの。ただいま、毒林檎を食べて今にも死にそうです。
「ふふっ、掛かりましたわね。これでお姉様も御終いですわ!」
高らかに笑うこの女は、パトリシア。同じく貴族の娘で、私よりも二つ下。いつもおどおどとして可愛かったので面倒を見ていたらこれだよ。
林檎に毒を盛ったのは彼女だ。
私はこの度はれて王子様と結ばれる事になり、結婚を明日に控えている所だった。何やかんやあったけど、この人生はこれで十回目。十回目にしてようやく王子様ゲットって遅くない、とは言わないで。これでも私は頑張ったのだから。
だってそりゃそうでしょ、王子様だもの。第一王子で次期国王であり、めちゃくちゃカッコいいし、優しくて爽やかで、すこぶる強くて、国民の人気も高い。そりゃ、みんな狙いますよね。そんな中で、私のようなやり直しがきくだけの女が選ばれるのって、大変なんだよ。
一回目はあっさり他国の王女に奪われ、二回目はライバル関係の女に奪われ、その後は何やかんやあって死んでしまう。一回目は王宮を追放された移動中の馬車で魔物に襲われ、二回目は嫉妬深いライバル女に難癖付けられて処刑されて。
三回目からもう王子様とかいいや、とか言ってスローライフ目指して家出したりもしたけど、結局は直ぐに死ぬんだよね。この世界で幸せになるにはあの王子様と結婚するしかない、と気付いたのは七回目。そこからは必死に頑張りましたよ、ええ。
「悪く思わないでください、お姉様さえいなくなれば王子様の寵愛は私が受けるのですから」
それがこの女のせいで全て台無しだ。ちくしょう。
パトリシア、お前もか。
口から溢れ出た血でダイイングメッセージを残す。
バツ印。
「何ですかそれは?」
パトリシアが不思議そうに聞いて来た。
「もういいよ……今度は、別の人生が良い……」
私は最後の力を振り絞ってそう言い残した。
「お姉様……せめて、来世では安らかに」
お前が殺したんだろ、何が安らかにだ、との私の声が喉から発せられる事は無かった。
◇◇◇
眼が覚めると、そこは真っ白な大地。
此処も見慣れた風景だ。
「また死んでしまったのですか、ミチルさん」
金髪に青眼、聖なる衣に白い翼の女神様が呆れたようにまたその台詞を吐いた。
いや、もう聞き飽きたよ。こちとら転生何回目だと思っているんだ。
「あんなの無理ゲーですよ、無理ゲー」
なんだよ、結婚前日に大人しい後輩キャラに殺されるって。
双六のゴール手前にある、振り出しに戻るかよ。
「だってミチルさんが貴族の令嬢になって、王子様と結婚したいと仰っていたではないですか」
「そんなの最初だけですよね。二回目からは、もういいよ、って言っていましたよね」
「そんな、諦めてはいけません。何事も諦めずに努力して、ようやく手に入れた勝利にこそ価値があるのです。まったく、最近の若い者はこれだから駄目なのです。私だって、この地位になるのにいったいどれだけ苦労した事か。そう、私も初めは貴女と同じ転生者だったのですよ。それを努力して努力して、今の地位に上り詰めたのです。あれはもうどれぐらい昔の事か……」
お説教タイムの始まりである。
この女神様は無駄に根性論とか言い出すタイプだった。どこぞの少年漫画みたいに、苦労して苦労して、その先に栄光が待っているとかが大好きなのだ。きっとあの世界がやたら厳しいのもこの女神様に影響されていると思う。
そもそも私はただの女子高生だった。
楽して生きていきたい。大金持ちと結婚するか、宝くじに当たって一生楽して暮らしたい。そう毎日思いながら生きていたら、トラックに牽かれて死んだ。
ついてねぇなちくしょう、と思っていたらこの女神様が私に救済を与えてくれたのだ。金持ちと結婚して幸せに生きるなら、ハイスペックな王子と結婚するのが一番だよね、と願って転生したらあれだった。
そうして私は十回死んだ。女子高生時代と合わせれば十一回だ。
「分かりました、はい、分かりました」
もうこの女神様の取り扱い方も馴れたものである。このお説教は口を挟むと余計に長くなる。なので、素直にこうして聞いているのが一番だ。だいたいこの話しは何回も聞いた内容だった。
「……ですから、何事も努力した者は報われるという事なのです」
「分かりました、はい、分かりました」
「よろしい」
満足そうに胸を張って女神様はそう頷いた。
「ではそう言う事で、ミチルさんは新人女神になってもらいます」
「え?」
思わず私は、間抜けな顔で間抜けな声を出してしまった。
「ですから説明したではないですか。もう貴族の令嬢が嫌だと駄々を捏ねるミチルさんには、今度は女神になって頂くと。そうすれば、きっと私の苦労も理解してもらえると思うのです。それにこの仕事、とてもやりがいがあるのですよ」
とても良い笑顔を女神様はしておられます。
でもね、私は分かるんだよ。きっと、それはかなり面倒だよね。
「待って、ちょっと待って」
「待ちません。もう決めたのです、ミチルさんには新人女神になってもらいます。これで貴女も私の仲間入り。ようこそ、素晴らしい女神ライフへ」
私に拒否権はなかった。
光りに包まれる。ああ、これは転生前になるいつもの現象だ。
こうなれば私は転生するしかない。だいたい、新人女神ってなんだよ。
たいした説明もなしに、こうして私は新人女神へと転生させられた。
新連載始めました。本日中にもう一回更新しようと思うので、よろしくお願いします。