勇者、遭遇する
くぐり抜けた門の先に、さきほどの少女の姿は見えなかった。代わりに目の前に広がったのは森だった。しかし、その森はさっきまでアルオンがいた森とは比べるのも馬鹿らしくなるほどの雄大さと存在感を放っている。
森のはずれに生えている木々の幹は直径5メートルほどの太さを持ち、高さはゆうに30メートルを超えている。それらが密集しているせいで、アルオンの位置からは森の奥を窺い知ることができなかった。
かつて大陸中を冒険したアルオンも見たことのない、そんな不気味さと雄大さを兼ね備えた森から、湿気を含んだ生温かい風が吹いてきて、アルオンの顔面をなめる。その風に与えられる不快感に顔を背け、アルオンは背後に視線を向けた。その視線の先には、目の前に広がる森以上の衝撃的な光景が待っていた。
アルオンの視界に飛び込んできたのは巨大な城だった。アルオンのいる位置から300メートルは離れているその城は、それだけ離れているにもかかわらずアルオンに向けてのしかかるような威圧感を放っている。大小さまざまな塔が立ち並び、無数の窓から城の中の明かりが漏れ出してきていた。
しかし、アルオンは巨大な城を見て驚いたのではない。大きさだけで言えばその城は、かつてアルオンがいたスベインの王都に存在する城と同じ程度なのだ。これまでアルオンが見てきた城と違うのは材質だ。城は曇天の空と同じくすんだ灰色をしており、時折生き物のようにドクン、と脈打っている。そう、それはまるで……
「魔王城と同じ………」
アルオンがそうつぶやいた時だった。アルオンは自分の右側でザッと足音のようなものを聞き、慌ててそちらを向いた。
そこには先ほどの犬耳と尻尾を持った少女がいた。しかし、少女は一人ではなく、誰かの後ろからアルオンをにらみつけている。アルオンは視線を上げ、その人物が誰か確認し、魔王城そっくりの城を見つけた時以上の衝撃を受けた。
その人物はアルオンの人生を変えた人物だった。アルオンの村を初めて襲った四大魔将の一角。そして、アルオンが初めて討伐した魔族。
四大魔将、ガルロンドがそこに立っていた。