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勇者、過去を振り返る

 かつて、ウラヌ大陸には100以上の小国がひしめき合い、日々領地を巡って争いを繰り返していた。しかし、真歴1997年、突如魔界より侵攻してきた魔王率いる魔王軍により、瞬く間に半数以上の国が滅ぼされた。事ここに至りて、人々は悟った。個々に挑んでも魔王軍には勝てない、と。

 まだ魔王軍の手が伸びていない小国の王達は直ちに集まり、互いに武力的干渉は一切行わず、保有する戦力は全て魔王軍に対抗するために行使するという内容の協定を結んだ。こうして、人が争う時代は終わりを告げ、入れ替わるように人と魔物が争う時代が幕を開けた。

 人々は団結して魔王軍に対抗した。今までの魔王軍は、数にものを言わせて侵略行為を行ってきたが、団結した人間は攻め込んでくる魔王軍の数を圧倒的に上回り、情勢は、あっという間に人間有利へと傾いた。

 しかし魔王は、数での侵略は不可能と見るや、直ちに次の手を打ってきた。魔王は戦線に四大魔将を投入したのだ。彼らは、つかの間の勝利に油断した人間達に音もなく忍び寄り、端の小国から制圧していった。それを受け、人間は四大魔将の侵攻に躍起になって対抗しようとしたが、彼らは今までのような大規模な軍隊と違い、個体ごとに活動しているので目立たず、いざ攻め込まれるまでは人間にその存在を察知させることはなかった。次にどこを攻めてくるのか予想を立て、そこに軍隊を待機させていても、四大魔将は人間のその努力をあざ笑うかのように軍隊のいる国を避け、その隣の国を襲ったりした。

 そして、四大魔将の侵攻に為す術もないまま、ついに生き残った国の数が両の手で数えられるようになった時、人間の王達にある知らせが届いた。それは、生き残った九の国のうちの一つ、スベインのとある村の少年が、スベインに攻め込んできた四大魔将の一角、ガルロンドを打ち滅ぼしたという信じられない内容だった。

 さらにその少年は、ガルロンドが打倒されたと聞きつけスベインに攻め込んできた四大魔将のギールをも打倒してみせたという。

 人間の王達は直ちにその少年、アルオン・クロスライダーを呼び出すと、魔王の討伐を命じ、アルオンを筆頭に、魔王がいるというドゥーリンに軍隊を侵攻させようとした。しかし、魔王軍と正面からぶつかるのは得策ではないというアルオンの言葉を受け、代わりに王達は生き残った国の戦士の中で最も優秀な戦士、グリーランス・ブロッケンシュタインにアルオンの護衛を命じた。

 アルオンとグリーランスは魔王討伐のため、ドゥーリンに向けて旅を続けた。旅の途中、新たに魔術師オリビア・コバックスが仲間に加わり、旅路は更に安定したものに変わった。三人は一年かけてドゥーリンの魔王城に到達すると、魔王を守るため魔王城に集結していた四大魔将、グレゴールをグリーランスが、ゲイトハルトをオリビアが退け、ついに魔王の元にたどり着いた。そして激闘の末、アルオンが魔王を打ち滅ぼすことに成功し、ウラヌ大陸に平和が訪れたのだ。

 生き残った九つの国々は、広大なウラヌ大陸を以前のように奪い合うようなことはせず、平等に九つの領地に分け、それぞれが治めた。魔王に滅ぼされた他の国の人々も平等に九つに分けられ、それぞれの国に引き取られる形でその国の民となった。そして、国が建国されると、これまで各国の兵士が集結していた連合軍を分解するようにそれぞれの国が軍隊を組織した。しかし、それはこれまでのように他国を攻めるためではなく、魔王軍の残党がまた攻めてくるかもしれないという恐怖心から組織されたものだった。

 アルオン達は魔王を倒した褒美にそれぞれの出身国で地位を与えられることになった。アルオンはこの話を受け、15歳という若さで母国スベインの軍事総司令官となった。しかし残りの二人、グリーランスとオリビアはこの話を断り、代わりに報奨金という形で褒美を得ると、それぞれが自らの居場所を探して旅立った。

 そして、各国の不安とは裏腹に、ウラヌ大陸にはかつてない穏やかで平和な時が流れた。

 それから一年が経ち、二年が過ぎ、三年という月日が流れた。そして、アルオン達が魔王を倒してから四年目を迎えた時、ウラヌ大陸の人々の魔王軍に対する恐怖心はほとんど薄れていた。かつては魔王軍の残党を警戒して日々の訓練を怠らなかった各国の軍も、その頃には軍隊とは名ばかりの形だけの組織となっていた。

 ある時、各国の人々はこう唱えるようになった。

「争いも起きないのに軍隊が存在する意味はあるのか?」と。

 役に立つ場面もないのに無駄に費用のかさむ軍事は、今の時代には不要と、国民が訴えてくるようになったのだ。

 最初、各国の王達は国民の話に耳を貸さなかった。そんなことをすれば、いざ魔王軍の残党に攻めこまれた時対処する術がなくなってしまう、と思ったわけではない。その頃には、各国の王達も魔王軍が再び攻めてくるとは考えていなかった。

 各国の王達はそんな不確かな事態よりもっと目に見える事態を危ぶんでいた。王達は、武装解除すれば隣国に侵略されてしまうのではないかということを恐れていたのだ。国民のほとんどは忘れていたが、王達は魔王軍が攻め込んでくる前の、人間同士の争いの歴史を忘れてはいなかった。

 しかし、四年目も何かが起きることはなく、平和な時代はついに五年目を迎えた。その頃には、軍事は不要という世論は大陸全土で声高に唱えられるようになり、王達も無視できないものとなっていた。

 そこで、各国の王達は魔王を倒して以来初めてとなる九王会議の場を設け、その会議である条約を結んだ。その条約とは、各国が同時に武装解除し、今後無断で軍事を行おうとした国に対して残りの八つの国がその国に向け攻撃を行う、という内容のものだった。

 この取り決めによって、ウラヌ大陸から全ての軍事組織は解体を余儀なくされた。もちろんそれはスベインも例外ではなく、一介の村民からスベイン軍事総司令官まで昇りつめたアルオンは、その条約の締結により国にとって不要な存在となり、全てを失った状態で王都よりつまみ出された。

 こうして、勇者アルオン・クロスライダーは無職となった。

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