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6話 お菓子議論

 七日妖精さんの培養工場を後にしたわたし達は、七日妖精さんの案内に従い、次の場所へと足を向ける。


「そうですね。せっかくですから次は塔の頂上へと案内しましょうか」


 七日妖精さんはそう言うと、上へと上がるための高速エレベータに乗り込む。それに、わたしも続いた。


「そう言えば、先ほどの種族のお話の時に思ったのですけどね」


 未だに増築が繰り返され、生き物のように成長を続ける七日妖精のコミュニティである塔の頂上に向かうエレベータの中で、七日妖精さんはそう切り出した。


「お菓子の精という種族はロマンチストが多い種族らしいですね」

「え……、ええ、まあ、はい、多分……」


 曖昧に頷く、何か嫌な予感がした。あまり話したくない類の話がこれからなされようとしているのを本能的にわたしは嗅ぎ取った。とはいえ、逃げることなど、出来るはずもないので0.3秒22で即観念する。


「そして、お菓子の精と言えばあの理論が有名ですよね」


 にこやかな笑みで、お菓子の精さんが話しかけてくる。


 皆まで言わなくても分かっているので、そこで止めていただけないでしょうか? などと心の中で交渉するが、自己検閲の時点で「諦めろ」という回答が返ってくる。いや、いくらなんでも諦め早すぎるよ自分。


「大地はビスケット出来ていて、マントルはチョコレート、夜空の星は飴玉なんですよね?」

「あー、やっぱりそれなんですかっ」


 わたしはため息と共にうな垂れながら言った。


 それはお菓子の精の伝統的な世界の捉え方で、今でも何気にお菓子の精の中では深く信じられている考え方なのだった。


 信じられているといっても、それが正しい事、つまり事実であるとは誰も思っていないだろう。現実とは切り離した部分でのあくまでも感覚的な次元での話に過ぎない。お菓子の精の間で昔から現在まで受け繋がれている価値観の一つだ。どちらかというと信仰に近い。


「あはは、おかしいですよね。こうしてわたし達が立っている大地はビスケットなんかじゃないのに、今でもお菓子の精の間ではそう信じられているなんて」

「茶ノ花さんは信じていないのですか?」


 七日妖精さんが不思議そうにそう尋ねる。それに、わたしはきっぱりと、


「信じてません。わたしは現実主義者ですから、もうアンチロマン派もいい所です。わたしが信じられるとしたら、お星様が飴玉というくだりくらいです。……あ、でも、マントルもチョコレート……かなぁ」

「そうですか」


 わたしが頭を捻っていると、頷きながら七日妖精さんが可笑しそうに笑う。あれ? なんで笑われてるんだろう?


「わたしはわたしがわたがしだなんて思ってませんから」

「早口言葉ですか?」

「違いますっ。昔、偉いお菓子の精が言ったんです。お菓子の精は考える綿菓子であると」

「へえ、それは、どう言う意味なのですか?」


 興味深そうな七日妖精さんの視線が刺さる。はて、どんな意味だったっけ? わたしは思い出そうとするが、なにぶん習ったのがかなり昔の事だったので正確に思い出すことが出来ない。


「本質は見てくれよりも小さいって意味だったと思います。要するにお菓子の精は妄想癖が激しくて夢見がちだってそのお菓子の精は言いたかったんじゃないですか?」


 よくわからないけど、確かそんな感じだったはず。


「ああ、なら綿菓子じゃない茶ノ花さんはロマンチストじゃない現実主義者なわけですね」

「まあ、そういうことです」


 何がそう言うことなんだか自分でもいまいちピンと来ないがそういうことにしておこう。というか終始笑いを堪えている七日妖精さんがすごくわたし的には気になって落ち着かない。


「あの、どうかしました?」


 わたしは思い切って訊いてみる。


「いえ、気にしないでください。あ、ほら、そんなことを話しているうちに着いたみたいですよ」

「えっ」


 言われて気がついた。エレベータが止まっている。程なくして扉が開いた。と言ってもそこはまだ頂上ではなくただの広間に過ぎず薄暗い廊下が見えるだけだ。


 わたしが動揺していると、


「こっちです」


 そう言って、七日妖精さんが手招きする。そこにはエレベータと言えばエレベータなのだろうが、先ほど乗っていたのはかなり違う無骨なエレベータがあった。


「頂上は毎年工事中ですからね。残念ながらちゃんとしたエレベータで上がることは出来ないんですよ。少し荒っぽい動き方をするかもしれませんが、我慢してください」

「あ、はい。それは別に構いません」


 そう言いながら、わたしは鉄骨で組まれた籠に慎重に乗り込む。工事中なら、エレベータで繋がれているはずもないのは当然だ。


 ガクンという振動と共に荒々しく籠が上に向けて上昇していく。


 そして、程なくして塔の頂上に到着した。

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