5話 生命議論
「茶ノ花さんはこう思ったことはありませんか?」
そう言うと七日妖精さんは試すような目をこちらに向け、続ける。
「生命活動にはあまりに無駄が多すぎると」
「無駄……ですか?」
「そう無駄です。それは長い年月を生活することが出来る種族にとってはあまり気にならないものかもしれません。しかし、私たち七日妖精にとってはその無駄がこたえてきてしまうのです」
「その、七日妖精さんが言う無駄というのがわたしにはよくわからないんですけど」
わたしが訊くと、七日妖精さんは眼下のカプセルを示し、
「そうですね。例えばこのカプセル郡に培養されている七日妖精ですが、これは生まれた時点で成人した状態にすることで、身体面の成長という無駄な段階を省くことが出来るのです」
七日妖精さんは「七日妖精は産み落とされた瞬間から細胞の壊死が始まる事がわかっていますからね」と補足した。
「生態活動を停止させ、体組織を組み替えている。つまりはサナギのようなものですか?」
わたしは訊ねる。
「サナギとは少し違うと思いますけどね。まあ、感覚としては近いかもしれません」
つまり、簡単に言えばこの下に広がっているカプセルは七日妖精さんのサナギということだ。完全に成長するまでこうしてサナギの状態で管理される。
しかし、少し納得できないことがあった。わたしは心に思ったことを、そのまま口にする。
「でも、それで子供の両親は納得するんですか? 自分の子供は自分で育てたいと思うのが普通じゃないんですか?」
「ああ、そこもこの形式を取っている理由の一つなんですよ」
わたしの質問に、七日妖精さんが答える。
「元々、七日妖精は種の保存に精一杯の種族でした。ただ繁殖するだけで精一杯だったんです。このシステムが確立していなかったら七日妖精は今のような生活は送れていなかったでしょう。これによって私たちは子育てという無駄から解放されたわけです」
「それに、反対する七日妖精さんはいないんですか?」
「もちろんいますよ。自分の子供は自分で育てたいという七日妖精は存在します。しかし、それは少数派に過ぎません。何しろ効率が悪いですから、人生の貴重な時間の多くを子供にとられることになる。それと共に生まれた子供も最初の数日を成長に費やし無駄にすることになります。それはどちらにとっても良いこととは言えません。ですから、多くは人工培養に積極的ですよ」
「そうですか」
「それに加えて、生活に必要な情報もこのカプセルにいる時点で脳に書き込んでおきます。そうすることで精神が成熟する期間という無駄な時間を省くことが出来ますから」
つまり七日妖精は生まれた時点で、彼らが考えるテンプレートが思考に組み込まれているという事か。
「それは、効率的ですね」
わたし、特に感情を込めずに言った。
「ええ、何せ私たちは七日しか生きられませんからね。出来る限り無駄は省かないといけません。私たちはね文化的な生活を送りたいんですよ」
「……」
わたしは七日妖精さんからカプセルに目を移す。それははたして無駄なことなんだろうか? それは効率的かもしれないけど、同時に何かを失っている様にも思える。
「納得出来ない。という顔をしていますね」
「いや、そんなことはないんですけど……」
言葉を濁す。正直図星だった。
「ただ、少し――」
「いえ、納得出来ないのも無理はないと思いますよ。何しろ茶ノ花さんと私たち七日妖精では、種族が違うのですから、考え方が違うのは仕方がないことです」
「……そうですね」
そう、彼の言うとおりだった。わたしと七日妖精さんでは種族が違う。だから彼らの生き方をどうこう言う権利はわたしにはない。
それは、これまでいくつものコミュニティを回ってきてよくわかっている。しかし、それでも、心情と事実は別なものだ。
「いえ、気になった事がありましたら気にせず言ってもらって結構ですよ。別に私たちは茶ノ花さんに共感を求めているわけではありません。ただ、理解してもらえれば結構ですから」
「はい、そうさせてもらいます」
わたしは控えめに頷く。
「それで、何かありますか?」
「いえ、特にはないです」
そして、即答した。
 




