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29話 想いを繋ぐ

 それからしばらくして、塔の入り口の扉の向こうに人が通る気配があった。

 その頃には瑠巳佳ちゃんも落ち着きを取り戻していた。


「七日妖精さんが来たのかもしれないよ」

「うん」


 わたしが扉の方に意識を向けていると、


「あの、さのかさん……」

「え、何?」

「あの、いいたいことがあるの」

「なになに? いいよ。聞くよ」


 なんだろうと。思っていると、瑠巳佳ちゃんはおもむろに口を開いた。


「あの、あのね。たすけてくれて、ありがとう」

「ああ」


 瑠巳佳ちゃんの意を決したような真面目さが微笑ましくて、軽く笑う。


「どういたしまして」


 わたしがそう言うと、瑠巳佳ちゃんは「うん」と頷くと空を仰ぎみる。しかし、それは空を見ているわけではなかった。


 瑠巳佳ちゃんは空へと伸びている塔を見ているのだと気づいた。


「はじめてみた」


 瑠巳佳ちゃんが呟いた声を拾い上げて何かと思ったが、なんてことはなく瑠巳佳ちゃんが初めて自分が住んでいた家を外から見たという事なんだと気がついた。


 七日妖精のほとんどが塔から出ることなく死んでいく。だから彼らが外から塔を見るなんてことはあまりないのだろう。それは、瑠巳佳ちゃんも例外ではないはずだった。


「たかいね」


 瑠巳佳ちゃんは、仰け反るような姿勢で塔を見上げている。


 わたしも瑠巳佳ちゃんにならって塔を見上げる。


 それはとても高く、先っぽなんて見えない。


 どこまでも続いているかのように見えた。


 しかし、わたし達はあの塔の頂上を知っている。当然だった。だってわたしと瑠巳佳ちゃんはあそこから落ちてきたのだから。


 塔は高くを目指している。空は見上げるものだ。だから、その高さに惹かれてしまう。


 しかし、頂上で見た空はそれだけのものではなかったと思う。


 少し見方を変えて、それを横に見た時どう思うのだろう。


 塔は、ひたすらに高さを求めた。それは、広さを捨て、時間と共に高さも忘れた。


 ただ、ひたすらに惰性だけが続いて行く。


 どうしてなのだろうと、悲しくなる。



 天に届く高い塔は、七日の夢を見る妖精の高望みだったのだろうか。



 瑠巳佳ちゃんは凛と空を見ていた。


 塔を見ていた。


 それがどうしようもなく悲しいのだ。


 正直に言えば、この先、彼女がどんな選択をしたとしても、きっとそれは中途半端に終わってしまうから。七日妖精の過去を映す彼女は七日妖精の根源的な問題を抱えている。


 わたしにとっては取るに足らない数日が、取るに足らない選択が、彼女にとってはあまりに重く、一生のことだという事を理解した。


 だから、七日妖精は繋ぐのだ。


 瑠璃さんは自分が出来なかった事を瑠巳佳ちゃんに託した。そこに願望はなく、ただ瑠璃さんは瑠巳佳ちゃんが出した結論を受け入れるだろう。


 それが、どんなに理不尽なのか彼がよく知っているはずなのに、託さざるを得なかったのだ。


 そして、瑠巳佳ちゃんはそれに応えようとしている。


 両親の思いに繋がれている彼女は、やっぱり七日妖精なのだった。

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