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21話 どうしよう

 どうしよう……と心の中で呟きながら、わたしは途方に暮れてしまっていた。


 未だ、わたし達は塔の上層である墓地に留まっている。


 当然のことだが、わたしは七日妖精のコミュニティの住人ではない。だから、もう今日には帰らないといけないのだ。


「……」


 でもなぁ……。わたしは暗鬱な気持ちと共に眉を伏せる。


 正直に言えば、そんなに簡単に割り切ってしまえる程、わたしは器用ではないのだった。


 瑠巳佳ちゃんを見る。先ほどまでの荒れように比べれば、今は、幾分か瑠巳佳ちゃんは落ち着きを取り戻しているようだった。


 しかし、瑠巳佳ちゃんは落ち着きを取り戻したからといって、こんな状態のこの子を置いて此処を去るわけにはいかない。


「そう言えば……」


 そこで、さっき瑠巳佳ちゃんが言っていた事を思い出した。


「ねえ、瑠巳佳ちゃんには後見人さんがいるんだよね?」


 瑠璃さんは自分が死ぬ前に瑠巳佳ちゃんを後見人の七日妖精に預けたはずだった。


 その七日妖精さんの所から瑠巳佳ちゃんが抜け出してきてしまったから、今、彼女はわたしの隣にいるのであって、本来はその人が瑠巳佳ちゃんの隣にいるべきなのだ。


「うん……」


 瑠巳佳ちゃんはわたしが訊くと、少し遅れて頷く。


「それって、どんな人なの?」

「どんな……」


 瑠巳佳ちゃんは躊躇するように目を伏せると、


「瑠巳佳は、よくしらないの」

「でも、何の関係のない人にはそんな大切なこと頼まないと思うけど?」

「その人、おとうさんのお友達だって、おとうさん言ってた。でも瑠巳佳はよくしらないの」

「そっか、そうだよね」


 質問の仕方が悪かった。瑠巳佳ちゃんのお父さんが後見人に指名した人だからといって、それまでに瑠巳佳ちゃんと交流があるわけではないのだ。


 わたしは質問をもっとシンプルなものに変えた。


「その人、怖い人だった?」

「ううん、そんなことないけど、さのかさんどうしてそんなこときくの?」


「え、いや、もしかしたら瑠巳佳ちゃんはその後見人さんの事が嫌でその人の所から抜け出してきたのかなって思って」


 もし、そうだとしたら、今後のわたしの対応も変わってくる。なので、そこは重要なことだった。


「ううん、いやだからじゃないの。あの……瑠巳佳はただ、おとうさんに……会いたかっただけだから」


 忌事を口にするかのように、途切れ途切れに応える。


 別に瑠巳佳ちゃんは悪くないとさっき話したはずだけど、未だに彼女の中では父親との約束を破った事に負い目を感じているらしかった。


「そっか、うん。それならいいの」


 淀みがちな空気を払拭するように、明るめな声で言った。


 考えてみれば、あの七日妖精さんが自分の娘を預けようというのだから、決して変な人ではないだろう。


 彼が、そんな所をぬかるとは考えにくい。まあ、七日妖精として少し変わっているという事は考えられるけど。


「まあ、そんなことは会って判断すればいいか」


 わたしは、そう結論を出した。


 そうと決まれば、わたしのやることは決まったも同然だ。


「なら、とりあえず瑠巳佳ちゃんの後見人さんの所に行こうか?」

「うん……」

「立てる?」

「うん」


 わたしはしゃがんだ体勢から体を起こすと、瑠巳佳ちゃんにも立つように促す。瑠巳佳ちゃんはわたしが差し出した手に掴まると、わたしが引っ張り上げる力を利用して立ち上がった。


 とりあえず、瑠璃さんが指定したという後見人の所に瑠巳佳ちゃんを連れて行く。それが瑠巳佳ちゃんにとっても一番いい事であり、一番自然な事だろうと思った。


「ところで、その人ってどこにいるの?」


 そう言えば、その後見人さんの所に行くのはいいとしても、わたしはその七日妖精がどこにいるのかを、全然知らない。


 出口へと向かおうと、一歩踏み出した所で、その事を失念していた事に気がついて、瑠巳佳ちゃんに振り向くと訊ねた。


「……」


「瑠巳佳ちゃん?」


「……」



 ――え?



 返事がなかった。


 見れば瑠巳佳ちゃんは必死にわたしについてこようとしているが、体がまったくついてきていない。


 顔色は青ざめていて、体はまるで夢の中を進んでいるかの様にフラフラと――。


 支えようと手を出した時にはもう遅かった。


 崩れるように、体がグラついたかと思った瞬間、



「瑠巳佳ちゃんっ」



 地面に吸い寄せられるように、瑠巳佳ちゃんは倒れていた。

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