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18話 少し背が伸びたみたい

「さのかさん。いっしょに来てほしいの……」


 朝食を食べ終わり、瑠巳佳ちゃんが用意してくれた紅茶で食休みしていると、瑠巳佳ちゃんがカップの中の覗きながら言った。


「ああ、お父さんの所に戻るんだよね?」


 わたしは糸を手繰り寄せるように、思い出しながら応えた。


 確か、そんなことを言っていた覚えがある。


 お父さんの所に戻らなくていいの? と訊いた時、瑠巳佳ちゃんはわたしと一緒に行くと応えていた。


「うん、さのかさんにもついて来てほしい」

「いいよ、瑠巳佳ちゃんのお父さんにはわたしも帰る前に挨拶しなきゃいけないと思ってたから」


 瑠巳佳ちゃんの頼みでなくても、もう一度七日妖精さんとわたしは会わないといけない気がした。


 七日妖精さんが瑠巳佳ちゃんに望んでいること、なんとなくだけど、わかった気がするから。それを聞いて欲しいという気持ちがわたしのどこかにあったからだ。


 瑠巳佳ちゃんは、カチャリと控えめな音をたてカップをソーサーに置くと椅子から降りる。そして、わたしの座っている椅子までテーブルを回りこむと手を引いた。


「じゃあ、いこう? さのかさん」

「うっ、うん。いいけど。そんなに急がなくても……」


 まだ、わたしのカップには紅茶が半分近く残っている。せめて、これを飲み終わるくらいの時間は、わたしとしてはゆっくりしていたかったがどうやらそれは許してもらえないらしい。見れば、瑠巳佳ちゃんのカップの中身も全然減ってはいなかった。


「……」


 瑠巳佳ちゃんの手には、わたしに席から立つことを強要するかのように強引な力が籠もっている。それは、まるで何かから逃げる様でもあり、同時に向かう様な不思議な感覚をわたしに抱かせた。


「ねぇ、どうしたの?」


 不意に何か違和感を覚えて、思わず訊ねる。しかし、瑠巳佳ちゃんは沈黙を返すだけで、ひたすらにわたしの手を引くだけだった。


「……どうしたの?」


 再度訊ねる。すると、瑠巳佳ちゃんは逡巡するように目を伏せながら言葉を零した。


「もう、じかんだから……」

「時間?」


「……」


 それだけ言うと、再び彼女は動きのない無声映画の登場人物のように、わたしの手を引くという、ただそれだけの行為をひたすらに続ける。ぐいぐいと引かれる。それは、例え言葉は無くても何かをわたしに伝えていた。


「……わかったよ」


 だから、わたしも無声映画の住人となって、瑠巳佳ちゃんに何も訊かないことにした。わたしはカップを置くと、引かれるままに立ち上がる。


 すると、瑠巳佳ちゃんはわたしの手を引いて入り口まで引っ張ると部屋を出た。


 二人で廊下を手を繋いで歩く。

 それは昨日とまったく同じ風景だ。

 しかし、昨日とは何かが違う感じがした。同じように手を繋いでいるのに何かが違う。それで、わたしは気がついた。


「瑠巳佳ちゃん。背……少し伸びたよね」


 自分で確認するように、わたしは呟く。


 手を引く彼女が少し大きく見えた気がしたのは錯覚じゃなくて、背伸びでもない。きっと瑠巳佳ちゃんの背が伸びたんだろう。七日妖精というだけあってきっと成長が早いんだ。


 わたしは置いていかれないように、握る手に力を込めた。


 そう言えば、瑠巳佳ちゃんはどこに向かっているのだろう? 自分の部屋に戻るにしては方向が違う気がした。


 もっとも、わたしは彼女の部屋がどこにあるのか知らないので断言することは出来ないが、少なくとも居住区の中心からはどんどんと外れていっている。


 そして、エレベータの前、瑠巳佳ちゃんは迷わずに上のボタンを押した。


「えっ、上」


 それが、意外だったので思わず声を上げるわたしを瑠巳佳ちゃんは見上げると、


「うん、上だよ」


 それだけ言って、エレベータが到着するのを無言で待つ。程なくしてエレベータが到着した。


「乗らないの?」


 さっきまで強引と言ってもよかったくらいに強い力でわたしの手を引いてきたのに、どういうわけか、ここに来て足がはたりと止まっていた。


「……のる」

「じゃあ、乗ろう」


 わたしは瑠巳佳ちゃんの手を引くとエレベータに乗り込む。


 そして、七日妖精のコミュニティの上層へ向かった。

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