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17話 あまあまが好き

 夢をみる。



 とりとめもない夢。



 起きている時にみる夢も、寝ている時にみる夢もきっと本質は変わらない。それはきっと同じものだ。



 夢は思考の整理、思い出と思い入れの取捨選択に過ぎないのだから……。



 なら、七日妖精は夢をみるのだろうか?



 ――そんなことをわたしは夢にみた。




「さのかさん。おきて」


 声が聞こえる。どこか遠くから聞こえていた声は、すぐ、わたしの耳元に迫っていた。


「さのかさんっ」

「うーん。あと五秒寝かせて~」

「いち、に、さん、よん、ご。はい、五秒たったよ」


 ゆさゆさと体が揺すられる。


「うーん、それじゃあと五分」

「だめだよー」

「なら、あと五度星が自転するまででもいいからー」

「いってることがわからないよ」


 うん? 分からない。二十分じゃないの? あれ?

「……あれ、家じゃない」


 わたしはムクと起き上がると、霞む視界で辺りを見回す。差し込む日差しが目に痛い。


「さのかさん、おはよー」

「むー、瑠巳佳ちゃん?」


 擦りながら隣に目を向けると、わたしと同じ布団に入りながら微笑む女の子が一人、そうか、これが朝チュンってやつか。納得納得、納得したから、


「おやすみなさい」


 そのまま、ベッドに倒れこんで、布団を被った。


「ちょっと、さのかさん?」

「昨日は遅かったから、全然寝たりないの」


 だから、もう少し寝かせてと言おうとしたら、布団を剥がされていた。


「だめだよ。もう朝だから」


 そう聞こえたかと思うと、次の瞬間にシーツが跳ね上がりベットから転がし落とされていた。



 ――ガンッ



 …………。



「痛……っ」


 わたしは顔を洗いながら、頭を押さえていた。


 何も、ベッドから突き落とすことないのになぁ、なんて思いながら鏡を見つめると、鏡には寝ぼけた自分の姿が映っていた。


 昨日は結局わたしの方が瑠巳佳ちゃんよりも、先にリタイヤして睡眠という現実逃避にすがってしまったのだった。


 どうもその後、瑠巳佳ちゃんは自分の部屋には戻らずにわたしのベッドで一緒に寝てしまったらしいことをわたしはおぼろげながら記憶している。


「そう言えば、瑠巳佳ちゃん。お父さんの所には戻らなくていいの?」


 ふと、思い出してダイニングに居る瑠巳佳ちゃんに声を掛ける。


 結局昨日はわたしの所に泊まる形になってしまったが、それは七日妖精さんも了承の上でのことなのかが少し気になったのだ。


「さのかさんと一緒にいくから」


 少しして、ダイニングから返事が返ってくる。


 わたしは「そっか」と短く返し、七日妖精さんが用意してくれたパジャマから、これまた七日妖精さんが用意してくれた黒のワンピースに袖を通す。


 着替えを用意されても返す機会がないと言ったのだが、七日妖精さん曰く、別に返してもらわなくても構わないという事だった。


 部屋だけでもありがたいのに、わざわざ着替えまで用意してもらうのは少し申し訳ない気持ちはあったが、せっかくの好意なので、ありがたく使わせてもらうことにした。


 まあ、ちょっと、わたしが着るにはサイズが大きいけど、これ以上は贅沢というものだろう。


「待ってて、今何か作るから」

「瑠巳佳は? なにか手伝う?」

「瑠巳佳ちゃんは、待っててくれればいいよ」


 わたしは、瑠巳佳ちゃんに声を掛けると、エプロンをしてキッチンに向かう。


 食材は昨日の夕食の時に確認したので問題はない。食パンがあるからフレンチトーストにしようと思っていたのだ。


 卵もあるし、牛乳もある。砂糖を思いっきりつかって、甘々のものを作る事が出来る。後何より簡単に作ることが出来るのが大きい。


 そうと決まれば、とわたしは早速ソースを作り、その中にパン浸した。後はパンが十分に浸った後に焼けば完成である。


「……」

「ん?」


 くいくいと服を引っ張る感覚にわたしは振り返る。


「どうしたの?」

「瑠巳佳にもなにかできること……ない?」


 そこには瑠巳佳ちゃんが手持ち無沙汰な感で立っていた。


「うーん、特にはないけど……」


 下準備はもう終わっているし特に手伝ってもらうようなことは無かったので、わたしは困惑する。それでも、瑠巳佳ちゃんは何かをしたいのだろう。


 ひたむきな目をわたしに向けていた。後、何かするようなことあっただろうか。とわたしが考えた所で一つ思いついた。


「じゃあ、瑠巳佳ちゃんはお茶を作ってくれる?」


 わたしはコーヒーメーカーからビーカーだけを取り出すと、それに水を満たして魔法で温めてから瑠巳佳ちゃんに渡す。


「そこに紅茶のティーパックがあるから、この中に二つ入れて丁度いい濃さになったら上げてくれるかなって、どうしたの?」


 わたしからビーカーを受け取った瑠巳佳ちゃんがまるで怪現象でもみたかのように、目を丸くしていた。


「いまのどうやったの?」

「今の?」

「うん、お水がかってにお湯になったの」


 ああ、そのことか。


「別に勝手にお湯になったわけじゃないよ。ただ、わたしの魔法を使っただけだから」


 わたしがそう説明すると、瑠巳佳ちゃんはえらく感心したようだった。


「さのかさん、すごいんだね」

「別に、すごくはないと思うけどなぁ」


 ただ、水をお湯に温めただけなのにすごいと言われても困ってしまう。


 瑠巳佳ちゃんは七日妖精の、自分達が使う魔法をまだ見たことが無いのだろうか? お湯にする。ただ、それだけの事ですごいと思ってしまったら七日妖精さんの魔法を見たら卒倒ものだと思うけど。


「瑠巳佳ちゃんは、七日妖精さん達が使う魔法は見た事ないの?」

「ううん、あるよ」

「あっちの方がすごくない?」

「うーん……」


 瑠巳佳ちゃんは知恵の輪を解くように、難しい顔をすると、


「どっちもおなじくらいすごい」


 と結論を出した。


 人によって感想はまちまちなんだなぁと感心してしまった。


 多分それが、彼女の今の本心なのだろう。今の瑠巳佳ちゃんにとってはどちらも同じすごいモノでしかないのだ。


「そっか」


 わたしは、それだけ言うと浸しておいた食パンに注意を向ける。


 そんなことをしているうちに、十分にソースはパンに染み込んだようだった。後はフライパンで焼くだけだ。


「ところで瑠巳佳ちゃん」

「なに?」


 話しかけると、瑠巳佳ちゃんはティーパックをビーカーに沈める作業を中断して、こちらに向く。


「瑠巳佳ちゃんは甘々なのと、甘辛いのどっちが好き?」

「あまあま」

「了解っ」


 わたしは瑠巳佳ちゃんの返答を聞いて、わたしはさっき偶然見つけた七味唐辛子の小瓶を棚にしまう。代わりに砂糖をふりかけて食パンをフライパンに並べて火を掛けた。

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